「やりたいのは経済」ポスターに込められた思い

岸田総理(周囲に対し)
「やはり経済をやりたい。経済があって、社会があって、外交がある」
「(政治とカネの問題の対応に追われる現状に)巡り合わせだろう。それを乗り越えてこそ、自分のやりたいことができると考えてやるしかない」

もし自民党総裁選で再選されたら何がやりたいか問われ、岸田総理はかつて周囲にこう語っていた。

4月15日に発表された自民党の政党活動用のポスターのキャッチコピーは「経済再生 実感をあなたに」。

このキャッチコピー自体は自民党が独自に開発したAIが発案したのだが、「経済」というキーワードを設定したのは岸田総理だった。

ポスター製作に携わった関係者
「総理も賃上げの実感が伝わり始める時期だし、やはり経済を重視したいということで、『経済再生』を打ち出すことには誰も異論はなかった」

ちなみに、このポスターでの岸田総理のワイシャツは襟が広くなっているワイドカラー。これは、「首回りがキレイに見えるから絶対変えた方がいい」と周囲が長年勧めていたもの。「うまくいけば解散総選挙でも使うポスターになるので、こだわり抜いた」と関係者は話す。

ただ、“政治とカネの問題に一定のメドをつけ、2期目で経済再生の総仕上げを”との岸田総理のプランは夢物語となりつつある。

徳川家康の“耐える精神”に共感

岸田総理は以前、過去の戦国武将のうちでシンパシーを感じるのは「徳川家康」と答えたことがある。

自民・岸田政調会長(当時)(2019年12月18日BS-TBS「報道1930」で)
「(Q.昔の武将で、織田・豊臣・徳川、3人のうち誰にシンパシーを感じるか?)シンパシーという意味では徳川家康だと思います。
「(Q.なぜ?) 耐える精神、じっと努力を続ける精神。こういった政治家にとって、絶えず持たなければいけない強い意志、絶えず未来を見続ける、この辺のバランスなのかなと思います」

岸田総理は別のインタビューでも「若い頃の家康は織田信長や豊臣秀吉にずいぶんといじめられ、苦労したので共感できた」と答えている。

9年近く続いた安倍政権では外務大臣、自民党政調会長の要職に就くも、安倍総理の辞任を受けて行われた2020年の自民党総裁選では菅義偉官房長官(当時)に敗北。

翌年、自民党の広島県連会長として臨んだ参議院広島選挙区の再選挙でも候補者を当選させられず、「岸田は終わった」と言われるなど、辛酸をなめてきた。

それだけに、やっとつかんだ総理大臣のポストに対する思いはきわめて強い。
2024年初旬、派閥の政治資金の問題で支持率が過去最低を更新し続ける中、岸田総理は周囲にこう語っている。

岸田総理(周囲に対し)
「今は総理大臣になっているんだから。『岸田は終わった』と言われていた頃に比べたら、今はまだ幸せだと思うよ」

「総理は本当に精神的にタフだ」「どれだけ支持率が低迷しようが辞めないだろう」、周辺のこうした声も岸田総理のトップに居続けることへの強い思いを裏付けている。

補選“惨敗”で残された3つのシナリオ

とはいえ、現状は崖っぷちだ。

4月28日の衆院の3つの補欠選挙。“保守王国”島根1区を含め1勝もできなかったことで、またも「岸田は終わった」という評価が永田町で広まりつつある。

自民党関係者
「総裁選で(岸田総理の)推薦人20名が集まらないことが明確になった」
自民党幹部
「これで岸田総理の総裁選での再選はなくなった」

あくまで9月の自民党総裁選での再選を目指す考えは曲げていない岸田総理だが、今後の選択肢としては、以下の3つがあると言われている。

①総裁選前の解散総選挙
②解散せずに総裁選に突入する
③総裁選に出ない(出られない)

これまで岸田総理にとっての本命は、①「総裁選前の解散総選挙」だったが、補選の惨敗で「こんな状況で選挙に臨むのは集団自決だ」などの声が自民党内から漏れる。与党・公明党が早期解散に否定的なこともあわせると、実現に向けてのハードルが極めて高くなったのは間違いない。

ただ、総理自身はまだ模索を続けているようだ。6月に実施される1人4万円の定額減税や外交成果などを訴えるほか、かねてから掲げている北朝鮮訪問や憲法改正の実現についても具体的な結果を出そうとしている。

②「解散せずに総裁選に突入する」については、現時点では現職である岸田総理を引きずりおろす具体的な動きが見えておらず、そのまま総裁選に出馬しても勝てるのではないか、との見方が一部の政府関係者などから出ている。
また、石破元幹事長などのライバルを事前に内閣改造や党役員人事で処遇し、取り込めば良いとの声もある。

一方で、9月に選ばれる自民党総裁で解散総選挙や参院選を戦うことになることから、与党内では「岸田総理のまま選挙に臨むことはない」との見方が大半だ。

総裁選で動向が注目される閣僚経験者は「結局、総裁選の勝者は『選挙に勝てる人』になる」と予見している。

③「総裁選に出ない(出られない)」はどうか。総理大臣のポストへのこだわりの強さを考えれば、岸田総理としては最後までとりたくないだろう選択肢なのは間違いない。ただ、総理を支える関係者からも「総理の座を引きずり降ろされるような形は避けたい」との声が出てきていて、このシナリオが最も濃厚、と見る政府・与党関係者も多い。

「99敗の男」〜“紅天”はあるか

俳優の真田広之氏がプロデュース・主演を務めるハリウッドドラマ「SHOGUN 将軍」。真田氏演じる吉井虎永は徳川家康からインスパイアされたとされる。

ネタバレにならないように詳しくは触れないが、ドラマの中では大老・石堂(石田三成がモチーフ)の策略によって窮地に陥った虎永が、“紅天”に打って出るのか、それとも降伏するのか、迫られる場面がある。
“紅天”とは、石堂を倒すため、大阪に攻め上ることだが、多勢に無勢は否めない。

勝ち目の薄い戦いに打って出るのか、座して死を待つのか。

家康に共感を覚えるという岸田総理だが、奇しくもこのドラマと今の岸田総理の置かれた状況は似ている。

総理の側近議員は、岸田総理は「99敗する男」だと語った。

総理側近議員
「小さい負けが次から次へとあって、あらゆるところで馬鹿にされてきたんだけど、どこか大事なところは必ず『1勝』できる人だと思ってる。その価値のある1勝は何が何でも手に入れるタイプ」

価値ある1勝を掴むための岸田総理の“紅天”はあるのか。秋の自民党総裁選に向け、政府・与党内の暗闘は続く。

TBSテレビ 政治部
官邸キャップ
川西 全

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