資産家男性の不審な死から6年半あまり。殺人の罪に問われた元妻に無罪判決です。
酒の販売業や貸金業を展開し、一代で巨額の財を築いた和歌山県田辺市の野崎幸助さん。自宅のタンスの中などに、多額の現金や貴金属を自宅に置いていたことでも知られています。
奔放な女性遍歴から、スペインの伝説上のプレイボーイになぞらえた自伝のタイトル「紀州のドン・ファン」とも呼ばれるようになりました。
その野崎さんが2018年2月に結婚したのが、55歳も離れた須藤早貴被告でした。しかし結婚のわずか3か月後、野崎さんは不審な死を遂げます。死因は、急性覚醒剤中毒でした。
遺体には注射の痕がなく、警察は野崎さんが覚醒剤を口から摂取したとみて、自宅などから大量のビールの空き瓶を押収したり、事件の直前に死んだ愛犬「イブ」の死骸を庭から掘り起こして調べたり、しかし捜査は難航します。
そして3年後、妻だった須藤被告が逮捕されます。直接的な証拠は欠いていましたが、死亡当日に野崎さんと長時間2人きりでいた点や、インターネットで覚醒剤について検索した履歴があり、密売人と接触していた点など、数々の状況証拠が判断根拠となりました。
そして今年9月に始まった裁判。須藤早貴被告は「私は社長を殺していませんし、覚醒剤を摂取させたこともありません。無罪です」と全面的に無罪を主張しました。
被告人質問で須藤被告は、初対面で野崎さんから現金100万円を渡され、プロポーズを受けた際の心境を「お金をパッとくれる人だからラッキー。上手く付き合っていこうと思いました」と振り返っています。
いっぽう野崎さんの死については、生前に自殺願望を口にしていたと主張します。
須藤早貴被告「(野崎さんは)愛犬のイブが死んでから『死にたい』と言ってました。従業員の前でも言ってました。『もう自分も死んでしまいたい』と」
覚醒剤との関連については、野崎さんが亡くなる1か月半前に覚醒剤を手に入れようと密売人に接触。田辺市内で10万円を支払い、直接受け取ったことは認めたものの、そもそも購入は野崎さんから頼まれ、受け取った物も本物ではなかったと訴えました。
須藤早貴被告「『ダメだから(=性的な満足を得られないから)覚醒剤を…』と言われました。『お金くれたらいいよ』と冗談で言ったら、バッグから20万円を出して渡してきました」
「(野崎さんに渡した日の)翌日の夕食の時に、『使い物にならん、ニセモノや』『もうお前には頼まん』と言われました」
しかし、須藤被告は起訴される前は「野崎さんから覚醒剤の話が出たことはない」などと供述していました。検察官が「(捜査段階で)野崎さんから購入を頼まれたと言わなかったのはなぜ?」と問い詰めると。
須藤被告「言ったらどうなるか分からないから」
検察官「というのは?」
須藤被告「現にいまこうして、(本物の覚醒剤ではなく)氷砂糖を買っても逮捕・起訴されているわけですから。当初から殺人者扱いでしたし、怖くて言えませんでした」
被告人質問の最終日には、野崎さんへの“恨み節”まで見せました。
女性検察官「野崎さんが死んだことについてどう思う?」
被告「目の前にいるなら、文句は言ってやりたいぐらいです」「もうちょっと死に方を考えてほしかったというか、社長(野崎さん)があのタイミングで死んだせいで私は何年も人殺し扱いなので」
検察が「遺産目当ての殺人は、強盗殺人と同程度の悪質さ」と糾弾し、無期懲役を求刑した中で、きょうの判決を迎えました。
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