福岡管区気象台は12月11日、イチョウの黄葉を発表した。平年より21日遅く、さらにこれまでで最も遅かった12月7日(2015年)を4日更新した。専門家は今年の夏の記録的な暑さが原因ではなく、11月の最低気温が高かったことが要因だと話す。
12月に入ってもほとんど緑色だった福岡管区気象台のイチョウ
福岡市の大濠公園のすぐ横にある福岡管区気象台には、黄葉の発表基準になるイチョウの木がある。12月6日に見にいってみると、まだ枝先がかろうじて黄色く色づきかけているだけで、9割ほどが緑の葉で覆われていた。
福岡管区気象台の観測技術指導官・橋本真平さんは、「例年よりもかなり色づきは遅い。今年の夏や秋は確かに平年と比べて暑かったが、それがイチョウの黄葉の遅れとどのように関係しているのかは専門家ではないのでわからない」と話した。
「みんなに楽しんでほしかったのに…」イベント期間中にイチョウ色づかず
毎年11月の後半に黄葉イベントを行っている自治体がある。福岡県広川町。約100本のイチョウ並木と黄金の絨毯が鮮やかな「太原イチョウ巡り」だ。
私有地のため、自治体が所有者と事前に相談して期間限定で公開していて、今年は11月15日から24日の日程だった。
しかし、黄葉がほとんど進まないままイベント期間が終了してしまった。結果的に、イチョウが色づき始めたのは、例年より2週間遅い、開催日直前だったのだ。
イチョウを管理している丸山修二さんは「たくさんの人に楽しんでもらおうと、大切に世話をしているイチョウなので本当に残念」と話す。
毎年、出店も並び、多くの人で賑わうイベント。そしてイチョウの木は4年前に他界した父・元運さんが植えたものだった。
「せっかく足を運んでもらった人には、申し訳ないという気持ちになる」と寂しそうだった。
歴史的な黄葉の遅れの原因は、晩秋から初冬にかけての最低気温の上昇だった
なぜこれほどイチョウの黄葉が遅れてしまったのか。
山口大学の名誉教授・山本晴彦さんは、「イチョウの色づきの遅れの最大の要因は、晩秋から初冬にかけての冷え込みが足りなかったからだ」と説明する。
山口大学・名誉教授 山本晴彦さん「そもそも、イチョウの葉が緑に見えるのは、緑の色素・クロロフィルが葉に多いからですが、8℃以下の気温になると分解が始まる。すると、もともとあった黄色の要素・カロテノイドが浮き出てきて目立つようになり、黄色く見えるようになるのです」
今年の福岡市における11月の最低気温の平均は、1890年の統計開始以来2番目に高い気温に並ぶ12.8℃で、平年よりも2.2℃も高かった。そのため黄葉に必要な低温の刺激が足りずに色づきが遅れてしまったと、山本さんは分析している。
また多くの人が黄葉の遅れの原因と考えていた夏の酷暑との関わりについては、「逆に、黄葉にとって夏は暑い方がいい。夏の朝にしっかりと養分を蓄えて葉はしっかりと育つから」と説明した。
ちなみに今年記録を更新するまで、最もイチョウの黄葉が遅かったのは2015年。その年は統計開始以来11月の最低気温の平均が最も高い12.9℃となっていたが、西日本では2年連続の冷夏であった。つまり、イチョウの黄葉の遅れの原因は夏の暑さではなく、秋の最低気温の高さに原因があるという山口さんの分析は、2015年にも当てはまる。
紅葉・黄葉はゆくゆくはクリスマスの時期に!?
山本さんが作成した「福岡管区気象台におけるカエデの標本木の紅葉日と月平均最低気温の推移」のグラフによると、11月の平均最低気温は1950年から年々上昇傾向で、それに連動してカエデの紅葉も遅れ続けている。
「このまま秋や冬の最低気温が高くなり続けると、ゆくゆくはクリスマスと紅葉や黄葉の時期が重なってしまうのでは」と質問したところ、山本さんは次のような見解を示した。
山口大学・名誉教授 山本晴彦さん「現状、11月の平均最低気温は上昇傾向ですが、12月の平均最低気温については年によってほとんど変わらないので、その可能性は低いと思います。ただ、このまま地球温暖化に対して社会が無頓着であれば、初冬の気温も上がっていき、紅葉や黄葉がクリスマスに近づいていくおそれがあります」
近年、自然災害や夏の猛暑も含めこれまで考えられなかったような異常気象が頻発している。
観測史上最も遅いイチョウの黄葉のように”秋の葉の色づきの遅れ”は、地球規模で環境の変化が進んでいることを物語っている。
RKB毎日放送「タダイマ!」キャスター・気象予報士 宮脇憲一
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