実際の「地面師」たちとは、一体どんな人なのだろうか。あなたの周りにいるかもしれないその存在。新たな手口も生み出されている中、どう備えればいいのか──。地面師をテーマにし、2024年にヒットした配信ドラマを監修した司法書士・長田修和さんと、地面師についての取材を進めてきたTBSテレビ社会部の記者・佐藤浩太郎が最新のトレンドを語り合った。
専門家と記者が最新状況を解説 被害は表に出ている「数倍」
地面師グループが大手住宅メーカーから、東京・品川区の旅館跡地の購入代金として約55億5000万円をだまし取った事件から7年。
東京都心を中心に不動産価格の高騰が続くが、現役の地面師に接触したことがある記者の佐藤は取材を進める中で、「地面師たちが都心3区(中央・港・千代田)で現在進行形で狙っている物件があると聞いた」と明かす。
その一方、現状は被害が落ち着いているとするのが、司法書士の長田さんだ。その理由として、「リーダー格不在」の現状があるという。地面師グループには、「リーダー格」「書類屋(道具屋)」「なりすまし役・手配師」「アプローチ屋」などの役割がある。
「地面師事件にはリーダー格がいて、書類を作る書類屋、『なりすまし役』を探してくる手配師などを集めるが、事件に欠かせない複数のリーダー格が収監されているため、大きな被害が出にくい可能性があります」
普通の詐欺事件とは違って、地面師による詐欺ならではの事情もある。
「報道されている被害はごく一部で、実際は表に出ている数倍はあると考えています。生き馬の目を抜くような不動産業界で、プライドが高い不動産業者は数千万円ぐらいの被害だと警察に申告しないこともあるでしょう」と長田さんは話す。
実際の地面師たちとは 書類屋は「すごすぎて手に負えない」
気になるのは、地面師グループのそれぞれの役割だ。
まず、先ほどのキーワードにもあった「リーダー格」について、記者の佐藤が解説する。
「全体のリーダーとして計画を立て、人を集め、詐欺を実行していく頭役ですが、地面師としてだけ活動している人はほとんどおらず、普段はいわゆる『不動産ブローカー』として活動しています。大規模な地面師詐欺以外にも土地の『地上げ行為』のほか、『手付金詐欺』、『融資詐欺』などに手を染めています」
その資金源はどこにあるのだろうか。佐藤は「暴力団や元暴力団の関係者がリーダー格と密接に関係していて、犯行計画の『種銭』となる準備資金を用意したり、詐欺で手に入れたカネを海外で資金洗浄するルートを提供したりします。ターゲットとなる物件についての情報を持ってくるのも彼らであることが多いです」と話す。
続いては、偽造書類をつくる「書類屋(道具屋)」。佐藤によると、免許証などの本人確認書類の偽造は、特殊詐欺にも利用されることから、詐欺師界隈での需要は高く、必然的に「書類屋」の人数も多い。
「書類屋は地面師グループの専属というわけではなく、地面師は偽造を頼む書類屋をだいたい4〜5人は確保しているといいます。偽造の精度によってピンキリですが、精巧なものは免許証1枚で10万円とも言われています」
長田さんが指摘するのは、書類屋たちの“仕事ぶり”だ。「一言で言うと、すごすぎて手に負えない」という。ただ、司法書士は偽造を見破らなければならない。そのため、免許証などの本人確認書類は、過去の事例などから長年研究を重ね、独自にチェックする複数のポイントがあり、念入りに確認して対抗する。
代わりに「本物」で勝負? 「相手が出してくるとお手上げ」
しかし、書類屋たちの最近のトレンドはさらにその上をいく。
「偽造書類をたくさんつくるのがトレンドではなく、偽造はできるだけ減らす。代わりに『本物』で勝負するのです。偽造するのは本人確認書類くらい」と長田さんは話す。
「例えば、役所で『印鑑カードを失くした』と申告すると、一応本人確認をされるけれども、免許証を見せて、さらっと簡単な質問をされるだけで、新しく印鑑証明がつくれてしまう。それで取引に臨まれると、相手が出してくるのは本物なので、お手上げです。土地の権利書も、昔は偽造の権利書をつくっていたけれども、司法書士もプロなので『ここは譲れない』と必死で見るため、『権利書が最初から無い』という設定にするわけです」
そして、地面師詐欺に欠かせないのが、売り主の「なりすまし役」とその「手配師」だ。
「なりすまし役には、実際に役者をしている人が選ばれることもありますが、手配師が繁華街の風俗グループとつながっていて、特に借金がある風俗関係者などを中心にスカウトすることがあるようです」と佐藤は実情について語る。
“事故率が高い”とされる東京 今後起こりえる被害とは
司法書士が万が一、地面師にだまされ、損害賠償を負うことになった場合に備え、加入する「業務保険」も、東京は“事故率が高い”という理由で、保証の限度額が大阪の4割に留まるという。
2024年にヒットした配信ドラマで主人公となっていたのが、実際に取引の場に現れ、買い主と対峙する「アプローチ屋」だ。
佐藤は「アプローチ屋は『顔を出す』という非常に大きなリスクがあるので、さまざまな取引に同じ人が行くということは基本的にありません。グループの他の役割の人が兼務するなどするようです」とその人物像を分析する。
長田さんが今後起こりえる被害について警告する。
「政府が国を挙げて、ハンコを減らしてマイナンバーカードを推進したり、AIの利用を薦めたりして『非対面取引』がしやすい環境になっています。しかし、不動産の取引では免許証を実際に触ってみるといった感覚的なものから得られる情報が、地面師詐欺を見抜く上で非常に重要になりますが、非対面ではそれができません。遠隔でのやりとりが可能など、一見便利な『非対面取引』ですが、『対面取引』と比べたメリット・デメリットのバランスを考慮することが重要です」
「地面師たちはすごく勉強しているので、大手の業者や司法書士、弁護士は常に技術のバージョンアップに 乗り遅れないようにしなくてはいけないと考えています」
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