去年11月、商業施設の男子トイレ内で当時18歳だった男子高校生に対しわいせつな行為をしたとして、不同意性交等罪に問われていた70代のアメリカ国籍の男に対し、ことし11月、有罪判決が言い渡された。男は「同意はあった」として逮捕時から一貫して無罪を主張していた。第三者の目の届かない密室、そこで行われた行為の「同意の有無」を、裁判所はどう判断したのか?
背中丸めた高齢外国人
不同意性交等罪に問われているのは、アメリカ国籍の71歳の男。19年間日本に滞在しているが、会話の相手はもっぱら日本人の妻だったため、日本語はほとんど話せないという。妻は既に他界。
法廷にはいつも白いシャツと黒のスーツで出廷。背は高いが背中を丸めてトボトボと歩く。褐色の髪の頭頂部は薄い。出廷後、手錠と腰縄を外され、法廷通訳の声が聞こえるイヤホンをつける。耳に入る母国語の響きに、緊張の中にも少しの喜びと安堵を感じているように見えた。裁判はすべて、通訳を介して進められた。
腕をつかんで個室に…
起訴状によると、男は去年11月10日の午後4時54分頃~午後5時45分頃までの間、商業施設の男子トイレで当時18歳の男子高校生に対し、小便中にいきなりその陰茎を手でつかみ、その腕をつかんでトイレ個室内に引き込むなどの暴行を加えると共に、性的行為が行われると予想していなかった男子高校生を、恐怖または驚愕させたことにより、同意しない意思を全うすることが困難な状態にさせ、男子高校生の陰茎を手でつかみ、その手を前後に動かすわいせつな行為をした上、陰茎を自己の口腔内に挿入して口腔性交をしたとされている。
「マジ気持ち悪い」
検察官は裁判の中で、男子高校生が当時、商業施設で友達と待ち合わせをしていたこと、被告の男とは男子トイレ内で初めて会ったことを明らかにした。
犯行の状況については、小便器で用を足していたところ、突然被告に陰茎をつかまれパニックになった、無理やりトイレの個室に引き込まれ恐怖を感じた、頭を押しのけて抵抗したものの口腔性交された、など、男子高校生の供述をもとに主張。
男子高校生はその後、待ち合わせをしていた友人に「トイレに変な外国人がいた」などと被害にあったことを打ち明けており、「まだいるかもしれない」と一緒にトイレに戻っている。友人はそこで男子高校生が「マジ気持ち悪い」と言って股間を洗っていた、と証言した。
「サワッテ、ダイジョブ?」
一方、被告と弁護人は、被告が男子高校生の股間に手を近づけ「サワッテ、ダイジョブ?」とたずね男子高校生はうなずいたと主張。さらに被告がトイレの方を指さし「ダイジョブ?」と聞いて2人で入った、など、合計4回、同意しているかを確かめ「承諾を得た」とし、暴行の事実もないと主張した。
また弁護人は、「トイレの個室に男性が2人入ることはふつうあり得ない」とし、「性的関係に同意したと考えるのは自然」「合理的疑いが残る以上、有罪とは出来ない」として無罪を主張した。
検察官の求刑は5年の実刑。被害者の「性的自由」を著しく侵害し、精神的被害も重大、再犯の恐れも大きく徹底した矯正教育が必要とした。
一貫して無罪主張
最後に言っておきたいことはないか?裁判官にたずねられた被告は、泣きながら「私は心から信じている。Aさん(男子高校生)と私は同意に基づいて行為を行った。Aさんを傷つけたのであれば、心から謝罪します。私はAさんを傷つける意図は本当にありませんでした。それだけです」と英語で語った。
弁護人によると、被告は逮捕時から一貫して無罪を主張。一方、男子高校生が被害を訴えていることを受け、「傷つけた」として150万円を支払っている。
母国語の違う、およそ50歳離れた被告と高校生。そのやり取りはすべて、第三者の見ていない「密室」で行われた。事実認定は、2人の証言に基づくしかない。それが食い違った場合、証言の信用性が争われる。
法改正でできた「不同意性交罪」
「不同意性交罪」は、去年7月の刑法改正でできた(2023年6月23日公布、同年7月13日施行)。強制性交罪と準強制性交罪を統合したものだ。
暴行や脅迫を用いた性的行為だけでなく、「アルコール・薬物の影響」「恐怖・驚愕」「地位利用」など、「同意しない意思を形成、表明、全う」することが困難な状態で性交等を行う罪だ。
警察庁によると、2023年の「不同意性交等」の認知件数は2,711件で、前年の「強制性交等」に比べ1,056件(63.8%)増加。2024年1~5月の認知件数も1,486件と、前年同期のおよそ2倍に増加している。
男に対する判決はー
当時69歳だったアメリカ人男性が、18歳の男子高校生に対する不同意性交等罪を問われた裁判。
裁判所は「一連の行動や友人の証言から、A(男子高校生)が性的被害にあったことが強く推認できる」とし、「Aの証言は信用できる」「Aの証言する事実が認められる」と、男子高校生の証言を全面的に認めた。
他方、被告人の供述については、「たまたま会った外国人男性と男子高校生が、ごく短時間で会話が盛り上がり性的行為に及んだ、それ自体不自然」などとして、「信用できない」とした。
判決は懲役3年、執行猶予5年の有罪判決。
「犯行態様は悪質」と指摘した一方、「暴行や強制力の程度は強くない部類に属し、時間も比較的短く、計画性や常習性は認められない」とし「実刑しか選択肢のない事案とまでは言えない」とした。
自らの証言を「信用できない」と切り捨てていく判決を聞きながら、頭をふりうなだれ続けた被告。最後に裁判官から「あなたは有罪です。しかし刑の執行を猶予し、本日釈放されます」と改めて伝えられ、涙をぬぐった。
閉廷後、弁護人は「本当は反論したいが、本人にとって釈放は魅力的」と語った。未決勾留日数は230日に及んだ。控訴については本人と話してから決めるとしている。
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