いわゆる「年収103万円の壁」の見直しが本格的に動き出しましたが、こういった“年収の壁”のほかにも、働きたい高齢者の前に立ちはだかる「月50万円の壁」というものがあるのを知っているでしょうか。50万円を超えると、もらえるはずの年金の額が減ってしまう…。一体どういうことなのか、未来の高齢者の働き方はどう変わるのか。第一生命経済研究所総合調査部の谷口智明氏への取材などをもとに、まとめました。

人手不足の深刻化…2035年の日本はどうなる?

 パーソル総合研究所の試算によりますと、2035年には日本の労働力の「需要」は7505万人と予測される一方で、「供給」は7122万人にとどまり、384万人が不足するとされています。これは2023年と比較して約1.85倍深刻な状況です。

 このままでは私たちが普段受けているサービスや店など、社会全体に深刻な影響が出かねません。こうした問題を解決してくれるかもしれない大きなカギが、65歳以上のシニア世代だといいます。65歳以上の高齢者が“希望通りに働く”ことができれば、218万人分の労働力となり、不足分の過半数をカバーできる可能性を秘めているからです。

あなたは65歳以上で働きたい?世代間でギャップ

 では、65歳以上になっても働くことについて、各世代は今どのように考えているのでしょうか。MBSの番組がLINEでアンケートをしたところ、10代~40代では、65歳以上で「働きたくない」と回答した人が半数以上となりました。一方で、50代以上では、65歳以上で「働きたい」と考える人が半数以上を占める結果となりました。

 「働きたい」理由としては▼住宅ローンを抱えている▼年金だけでは生活が不安▼人生を豊かに過ごしたいなどがあり、「働きたくない」理由は▼好きな人と好きな時間を過ごしたい▼もう十分働いた▼働かなくても生活できるなど、様々でした。

 総務省によりますと、現在65歳以上で働く人は914万人います。このうち自営業主らを除いた、“給料をもらいながら働く”人たち648万人のモチベーションが下がる制度というのが、今回のテーマである「50万円の壁」です。

働くほど年金が減る!?「50万円の壁」の仕組み

 「50万円の壁」とは在職老齢年金制度のことをいい、65歳以上で給料をもらって働いている人が、ひと月の厚生年金と賃金の合計が50万円を超えた場合、その超えた分の半額が厚生年金から差し引かれます。例えば、厚生年金が20万円で賃金が30万円の人は減額されませんが、厚生年金が20万円で賃金が40万円になると、超えた分(10万円)の半分、つまり5万円が厚生年金から減額されます。

 それぞれの老後を“みんなで支えあおう”という考え方に共感できる人もいれば、疑問を感じる人もいるのではないでしょうか。では、この「50万円の壁」は、どのようにして生まれたのでしょうか。

 その歴史は、1954年にまで遡ります。当時の老齢年金は「退職」が支給の要件で、在職中だと年金は支給されませんでした。しかし、1965年以降、考え方を転換し、在職老齢年金制度が導入され、働いていても年金が支給されるようになりました。

 しかし、一定以上の賃金を得ている人は、“給付を一定程度我慢してください”“制度の支え手になってください”という考え方は年金を考えるうえで常にあり、こうした2つの要請の中で制度改正が繰り返され、現在の「50万円の壁」の形に至っています。高齢者に働いてほしいという国の思いはありますが、一方でどんどん働くと年金が減額されるというこの仕組みは、高齢者の就労を阻害している一つの要因になるのではないかと、第一生命経済研究所の谷口氏は指摘します。

制度改正に向けた動き 基準額引き上げ?撤廃?

 厚生労働省は「50万円の壁」問題を解決するために、基準額の引き上げや撤廃を検討しています。

 基準額を引き上げることで、より多くの高齢者が年金減額を気にせず働けるようになります。また、撤廃すれば、高齢者が収入に関係なく働けるようになり、労働力不足の解消に大きく貢献することが期待されます。

 共同通信によりますと、撤廃によって増えると見込まれる支給額は4500億円に上るということですが、この財源は高所得会社員が払う厚生年金保険料の引き上げでまかなうという案もあるようで、新たな反発も出るかもしれません。

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