石破新政権の発足後、衆院選で惨敗し少数与党に転落した自民党。野党の協力がなければ予算案や法案を成立させられない政府与党は、「103万円の壁」問題などさっそく難しい舵取りを迫られています。また、アメリカではトランプ氏が次の大統領に決まり、世界情勢も大きく動き出しました。今の状況で日本はどうすればいいのか。元衆議院議長の伊吹文明さんに聞きました。(聞き手:川戸恵子 収録:11月20日)

衆院選惨敗の原因「野党の土俵にノコノコ上がって下手投げを打たれた」

ーー総理指名選挙(首班指名)のときに国会を見てたんですけども、やっぱり難産で。なぜこんな流れ(総裁選から即総選挙)になったんですかね。

伊吹文明 元衆議院議長:
総裁選直後から総選挙中に、ずいぶん支持率が落ちたりしましたよね。本来、内閣ってのは行政をやるわけだから、内閣支持率っていうのは政策だとか行政行為についての評価なんだけど、行政は一度もやらないまま解散しちゃったわけでしょ。だから支持率が落ちたんじゃなくて、結局、総裁としての不信任というか支持率の低下なんですね。

各地に応援に行ったりしますと、外交内政の政策の話はもう現場ではほとんどやり取りはありません。みんな裏金議員追放とか、そういうこと。石破さんが総裁になってからのことを見ると、憲法上はやはり解散の陛下に対する助言と承認をするのは内閣だから、内閣総理大臣になる前の総裁のときに解散をするって言うってことは、憲法上ゆゆしき問題なんですね。そのあと、例の記載が漏れてた人たちの公認をするかしないかという問題。それから政策活動費を選挙に使うか使わないかと、これ二転三転しましたよね。で、最後に、例の2000万円の非公認の人たちへの交付っていう問題があって。

だから政策の議論で負けたというよりも、野党はいわゆる裏金、不記載の問題で勝負をしようとしている、その土俵にノコノコと上っていって勝負して下手投げを打たれたっていう、そんな感じで政策的な話ができてなかった。もう少し選挙っていうパワーゲームのやり方をうまくやらなかったのが、最大の原因でしょうね。

変わる国会 「103万円の壁」問題など与野党での熟慮が必要

ーー衆院選では自民党が大敗。与党が過半数を割り込みました。

伊吹文明 元衆議院議長:
やっぱり自民党の派閥と金の問題でずいぶんご迷惑をかけたっていうことは、総裁として一言公明党には申し上げるべきでしょうね。

その上で、今おっしゃったような国会状況になってるから、これが「決められない国会」になるのか、それとも「熟慮して物事を国益に沿って決めていく国会」になるかっていうことにはね。自民党もやはり従来の「党内手続きを取り、公明党さんと話をすれば全て決まるんだ」っていう感覚は少し変えないといけない。

しかし同時に、今度は野党も責任のない立場のときのように自民党を批判して……選挙に有利だから政治と金の問題ばかりを選挙戦で云々するとかね。あるいは、今、議論になってる「103万円の壁」の問題についてもね。これ、「103万円の壁はとり払いますか」という世論調査をすればみんな賛成なんですよね。だけど結果として税収が入ってこない。一部の世論調査では、173万円まですぐに上げろっていうんじゃなくて徐々にやっていきましょうとか、そういう意見になってくるんですね。具体的に「税収が8兆円近く減りますよ」っていうだけじゃなくて、もう少し身近にね、「その結果として市町村がやってる給食の無償化、これはみんな有料になりますけれどもそれでもよろしいですか」っていう聞き方をするとね。やっぱり臨場感が出てきてね、それは毎年少しずつやってもらった方がいいかなとかそういうことになるんですよ。

ただ参議院選挙が控えてるんでね。みんな人気取りのバラマキというか、財源を考えずにあれしてあげるこれしてあげるっていう話がどうしても出てくる状況なんですよね。だから、やっぱり野党にも責任がかなり大きく出てきてるっていうことをね、お互いに認識をしながらやっていくと。予算編成っていうのは、ずいぶん時間をかけて積み上げてくるものですから。国会の審議の中でこれを修正して、もう一度予算書を作り直しということになると、予算の成立はものすごく遅れちゃうんですよ。これは国民生活にどういう影響を与えるかっていうことも野党も考えないといけないということになると、やっぱり事前にかなりの話し合いをしながら、国会外でやっていくというしか仕方がないでしょうね、当面は。

昨日も政調の関係者が来ていろいろお話をして帰りましたけど、立憲民主党にもいろいろな内容についてはお話をしていると。ただし立憲さんはやっぱり国会で変えたいっていう意向が非常に強いらしいんでね、それはちょっとなかなか難しい。国会の審議を経て、国民に国会の審議を見せて変えたいっていうことなんでね。だからメディアが、その辺りの内容の話を少し与野党でやって、国民に事前にわかってもらった方がいいと思いますけどね。国民民主党とはそういう形で進んでるわけですね。

「決められない国会」では野党も責任問われる

ーー委員長のポストについて。これまでは与党がほとんど決めたわけですけれども、予算委員長、法務委員長などが立憲から出ました。

伊吹文明 元衆議院議長:
法務委員長は、よく言われるように夫婦別姓の問題を扱うっていうんで。どういうことになるのか今後の国会審議を見ないとわかりませんが。議運委員長と予算委員長と、議長、副議長はどうするかっていう話が(与野党間で)あったようですけども。僕の議長の経験から言うとね、議運委員長ってのは国会の段取りだとかいろいろなことがありますけどね。これは議長がしっかりしてればね、各党としっかりした話ができるんじゃないかと僕の経験からは思うんだけどね。

だけど、予算委員会も自民党が今まで圧倒的な多数を持ってたんで。今更こういうことを自民党に属していた者が言うっていうのはどうかと思うんだけど……やはり委員長だとか議長っていうのは、中立公正なんですよね。立場は。だからあまり妙な運営をして結果的に予算が成立しないっていうようなことになると、かえって立憲さんの方が今度は批判を受ける立場にもなるし。従来のような国会軽視というか国会の形骸化がなくなったという意味ではね、僕は良かったんじゃないかと思うけども、これが「決められない国会」っていうことになると、やはり次の選挙で野党も責任を問われますからね。だからお互いにやはり国民目線にもう一度回帰して、「熟慮の国会」にしてほしいと思いますよね。

「熟慮の国会」にしていないのはどこの党で、どういう状況が起こってるかっていうことをやっぱり国民に理解してもらわないといけないし。野党も、そういうことをやってれば自分たちが批判されるっていうのはわかりますからね。心ある野党の幹部はそういうことはしないと思いますよ。

SNSの影響力が目立つ選挙戦 規制が必要か

ーー来年の参院選に向けては。

伊吹文明 元衆議院議長:
当面の選挙はどうするかっていうことになると、やっぱり現実問題としては政治と金の問題を野党は必ず参議院選挙まで引っ張ろうとしますよね、当然。自民党は、「いや、それはそれで申し訳ないことだけれども、こういうけじめをつけました」っていうことをもう少しはっきり出して、そして「熟慮の国会」にすべきなんだけれども。サービス合戦で物事が決まらないですよ、という状況を国民がどう判断していただけますかっていうことにしないとね。

参院選は県で1区ですから、これは知事選挙と一緒なんですね。ということは、今回兵庫県でいわれたようなことが起こりかねない。テレビだとか新聞のメディアは選挙になるとやはり公選法上のことを配慮しながら公平に報道するでしょう。ところがSNSってのは一方的に入ってくるわけだから。入ってきたものを、いろいろな人の評論だとかコメントをテレビや新聞のように載せないから、みんな信じちゃう。だから、この規制をどうするかっていう問題。それから今回の立花さんの話じゃないけど、他人の応援演説のためにSNSを使うために立候補するっていうようなことをどうするか。それから東京の都知事選で起こった掲示板のハイジャックの問題とか、公選法を少しやっぱり考えないといけない。本当はね、法規制をするんじゃなくてね、個人の良心、政党の矜持のようなもので、こういうことをやらないっていう社会が一番いいんだけどね。

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