道半ばの“魅力化”事業

去年の初セリで2玉350万円の値がついた夕張メロン(札幌市・去年5月)

 「夕張メロン」は地域名を冠したブランド商品として全国的な人気を誇り、今年も来月には出荷が始まります。その産地=北海道夕張市(ゆうばりし)には、「財政破綻した街」という枕詞が加わるようになって人口の減少が続き、市内で唯一の高校も廃校の危機に瀕しています。

 「夕張は、倒れたままか…」。刺激的な言葉で理念を謳(うた)い、高校の存続を模索する同市のプロジェクト「夕張高校の魅力化事業」は道半ばです。8年目を迎えた春に、プロジェクトの現在地と課題を探ります。

産炭地からの脱皮と試行錯誤

市街地で見られたエゾシカ(夕張市・4月)

 4月に入っても周りの山々には硬くなった雪が残り、その街の中心部には野生のエゾシカがエサを求めて闊歩(かっぽ)していました。

 夕張市(ゆうばりし)は、北海道の中心部に位置する人口6,363人(2024年3月31日現在)の谷合の街です。四方を山に囲まれて交通が不便な一方、その地形が生む寒暖の差で甘みを増すメロンの栽培が主な産業の一つです。

昭和30年代の炭山祭り(夕張市内)

  
     


  
        

 
 かつては明治時代の初期から炭鉱の街として栄え、人口は1960年(昭和 35 年)に現在の18倍以上の116,908 人を数える都市でした。しかし国のエネルギー政策が石炭から石油へ転換したことで炭鉱の閉山が相次ぎ、炭鉱会社が築いた街のインフラ=病院、社員住宅、上下水道などは同社と関連企業の倒産や撤退で市が買い取ることになり、自治体としての負債が一気に膨らみました。
 そして2007年(平成19年)に日本で初めての財政再建団体となりました。「一山一家」と称して住民が強固な絆を誇った石炭の企業城下町は、“家業”の崩壊で財政破綻したのでした。その後、人口の減少と少子高齢化が急速に進み、現在は全国で2番目に人口が少ない市となっています(全国で人口が最も少ない市は北海道歌志内市=夕張市に近いかつての産炭地)。

夕張は、倒れたままか

(右)市長に再選された直後の鈴木直道氏(夕張市・2015年)

     


 夕張は、倒れたままか
 夕張は、言い訳するのか
 夕張は、メロンだけか
 夕張は、高齢化を嘆くのか
 夕張の、夜明けはまだか
 闇は、自分たちでぶち壊せ
 ・・・
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(YouTube 夕張市公式チャンネル「夕張市まちづくりコンセプト映像」より)

入学式の日の校舎(夕張市・4月8日)

 

  

 こんな文言を掲げて「夕張高校魅力化プロジェクト」は財政破綻から10年目の2016年に始まりました。人口の減少が加速度を増し、市内で唯一の高校、道立夕張高校でも定員割れが続いて廃校が取りざたされるようになったためです。時は現在の北海道知事、鈴木直道氏が夕張市長に再選された翌年で、財政再建と地域再生を両立させるための新たな財政再生計画が策定される前の年の事でした。

新入生が増加の珍事

入学式の日の夕張高校(4月8日)

 その夕張高校で今春、入学者数が久しぶりに増加に転じました。と言っても、定員40人に対して26人の入学ですが、その中には札幌からの入学者が2人と埼玉県からの入学者が1人含まれる珍事です。理由は最寄りの中核都市、岩見沢市への路線バスが減って進学校への通学がし辛くなったことも一因とみられていますが、魅力化プロジェクトの一つして生徒を初めて全国公募したことが形になりました。

 では、この入学者数の増加は手放しで喜ぶことができるのか?プロジェクト開始から8年目を迎えるまでにどのような人々が関わり、どのような試行錯誤があったのか?
 同校の濱村隆康校長は「新入生の期待が空回りしないようにしなければならない」と表情を引き締めます。

夕張高校・濱村隆康校長

  

 

 

  

  


 「外にばかり目を向けていては先がありません。地元の中学生はこの先もどんどん減り、子どもの高校進学を機に岩見沢や札幌へ家族ごと引っ越す家庭が少なからずあります」

 「これまでは手を付けてこなかった地元の中学校や高等養護学校と連携を図り、生徒一人一人の情報を共有し、地元で育った子どもたちをちゃんと受け入れることができる、つまり地元の子どもたちに選択される高校にならなければなりません。市外や道外から生徒が来てくれたことはもちろんうれしいですが、多様な生徒を受け入れることができる学校になるには、何を優先させなければならないのか、課題はたくさんあります」

 「生徒にはここで『できること』と『できないこと』を見極めてもらい、少しずつ成長してもらいたい。その見極める力を養うことも夕張の魅力と捉えて様々なことにチャレンジしてもらい、生徒の活動を後押しできる学校でありたいと思っています」

高校の魅力化と地域連携

夕張メロンをテーマにした探求型授業(画像提供:夕張高校)

 同校は去年、学校の魅力化と地域の連携を図る探求型の授業として、地元の夕張メロンの出荷に関わる課題解決に取り組み、評価を得ました。授業では、メロンを畑から消費地へ送る際、輸送中に熟成が進んでフードロスになることを減らすため、北海道大学が開発した「プラチナ触媒」を鮮度の保持に利用できないか、実証実験を行いました。その結果、プラチナ触媒を使って冷蔵すると1か月以上保存できることを確認し、運搬のためのバッグも考案して、フードロスの削減に関するコンテストで最高賞を獲得しました。

採炭作業で使われたキャップランプ

 道立高校の存続に市が主体となって関わる背景には、高校の有無が自治体の存続そのものを左右しかねないとする危機感があるためです。魅力化の授業は、地元の特産品が抱える課題に解決の一助を示し、地元校の存在感を示しました。

 しかしこの成果は、市と高校と地域の人たちのさまざまな試行錯誤があってのことで、この先の新たな課題も出て来ました。

◇文・写真 HBC油谷弘洋

【連載のバックナンバー】
 夕張は倒れたままか?~北海道発・高校存続プロジェクトの現在地と課題
 (第2話)行政と教育現場をつなぐのは…
 (第3話)魅力化の主役は誰なのか?

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