トランプ氏の“圧勝”となったアメリカ大統領選挙。日本にはどんな影響が出る?ロシア・ウクライナの問題や中東情勢はどうなる?それぞれの専門家に見解を聞いた上で、日米関係に詳しい同志社大学の村田晃嗣教授に解説してもらいました。

◎村田晃嗣:国際政治学者 同志社大学教授 日米関係に詳しい 「アメリカ外交」「米国政治と映画文化」が専門

石破総理はトランプ氏に「少し軽んじられる」?

 まず、気になる日米関係はどうなるのか。村田教授によりますと、“正論の石破総理”と“直感のトランプ氏”、相性は決して良くないということです。トランプ氏はロシアのプーチン大統領や中国の習近平国家主席のような強いリーダーが好きで、約束が守れないリーダーは相手にしないといいます。石破総理は今、安倍政権のときと違って少数与党で政権基盤が非常に弱いため、トランプ氏にとってはそれほど望ましい相手ではなく、少し軽んじられるのではないかという見解を村田教授は示しています。

 一方でアメリカにとって日本は戦略的に重要な存在だともいいます。アメリカは中国と競争する上で日本を味方にしておかないといけないため、米中の緊張が高まると日本の重要性が増すということです。そのため日本をないがしろにはできないだろうと見ています。

 また、村田教授の見立てでは、アメリカが日本に対して要求が強くなるのではないかと。岸田内閣のときに“5年間かけて日本の防衛費を2倍にする”、“反撃能力を持つ”ことを国際的に約束しましたが、いまだ防衛費は2倍にできておらず、その前提である増税するのかどうかも決まっていません。その約束を果たさずしてアジア版NATOや地位協定の見直しの話を進めようとしても“まずやるべきことをやって”となるため、日本への要求は強くなっていく能性があるということです。 そして安全保障については、村田教授はポイントを2つ挙げています。1つ目は、日本が初めから守ってもらおうという考えではなく、自国で守るためにどれだけのことができるかということを真剣に考えなければいけないということ。2つ目は、アメリカが守らなければいけないような付加価値を日本が持っていなければいけないということ。これが対中戦略上でも重要で、日本は経済的にも活力を取り戻さなければならないということです。

ロシア・ウクライナへはどんなアプローチが考えられる?

 続いて、ロシアとウクライナはどうなるのか。大和大学の佐々木正明教授によりますと、共和党はウクライナに対して「クリミア半島などを諦めさせる」か「軍事支援を増強してロシア軍に勝利」、このどちらかをトランプ氏が選択するのがポイントになってくるのではないかということです。ウクライナ情勢や北朝鮮の脅威もトランプ氏の“交渉”で良い方向に向かう可能性があるという見解を示しています。

 これについて村田教授は、クリミア半島は約10年前に占領され事実上ロシアに奪われてしまっているため、ウクライナが取り戻すことはできないだろうといいます。その上で、クリミア半島を公式に諦めるかどうかに関しては、公式には諦められなくても、事実上放棄する選択は十分あるのではないかということです。そして、軍事支援の増強でロシアに勝つことについては、なかなか難しいのではないかという見解を示しました。また、ヨーロッパがどこまでウクライナを支えられるかもポイントだといいます。

 さらに村田教授は、北朝鮮軍がウクライナに行っている今、ウクライナの問題はアジアともリンクしているため、日本もひとごとみたいな話をしていてはいけないと警鐘を鳴らしました。

 アメリカと北朝鮮の関係についてはどうなるのか。村田教授によりますと、以前トランプ氏が大統領として金正恩総書記に会いにいったときは、韓国が文政権で北朝鮮に寄りかかろうとしていたため、トランプ氏もそれに乗ったようですが、現在の尹政権は“日米韓で”と言っているため、韓国がぶれなければアメリカは北朝鮮に行ってもあまり効果がないのではないかということです。

トランプ氏にとって一番“おいしい”シナリオは

 では、中東情勢はどうなるのか。中東ジャーナリストの池滝和秀氏は、トランプ氏はより強くイスラエルを支持し、ガザへの攻撃を容認するのではないかと見ています。一方でトランプ氏は“交渉・取り引き”がウリだということです。

 村田教授は中東情勢について、トランプ氏はパレスチナの子どもたちが殺されているといった批判には“鈍感”で、はっきりとイスラエルを支持するだろうという見解を示しています。そしてハマスやヒズボラをできるだけ弱体化させようとしていることは間違いないだろう指摘します。

 トランプ氏はイスラエルのネタニヤフ首相に「1月20日の大統領就任までにガザの紛争を終わらせてほしい」と伝えたと言われています。この意図についても村田教授に見解を聞いたところ、トランプ氏からすれば、就任までにこの紛争が解決すればバイデン大統領の“手柄”になるため、お膳立てができていて自分が就任してから最終的に収まるのがトランプ氏にとって一番“おいしい”シナリオだということです。

 そして、こうした戦争や紛争の経済への影響については、「仮にウクライナで簡単に休戦せず、中東でも紛争が拡大すれば、原油価格は上がり、食料価格は上がったままになる」とした上で、さらにトランプ氏が中国や同盟国に関税をかけるということになると、国際経済に非常に大きな影響が出ると村田教授はいいます。また、トランプ氏は富裕層は減税するとも言っているため、そうなればおそらくドルが強くなって円が弱くなり、為替的にも日本は苦しいのではないかということです。

 トランプ氏をめぐっては来年1月6日に上下両院合同会議で選挙人票の開票があり、ハリス副大統領が結果を発表。その後、1月20日に新大統領にトランプ氏が就任します。

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