米大統領選で減税や積極財政を訴えたトランプ氏が返り咲いたことを受け、金融市場はリスクを積極的に取る姿勢が強まり、円安・株高の「トランプ相場」となった。ただ、「米国第一」を唱えるトランプ氏が関税強化などを実行に移せば、世界経済は不透明感が強まり、市場の先行きは読みにくくなる。
市場では投票日の11月5日より前から、金利高、ドル高、株高が同時に起きる「トランプ・トレード」が進行。米経済の堅調さもあり、10月初めに3・7%台だった米国10年債利回りは足元で4・4%台まで上昇。ドル円相場は約1カ月で10円以上、円安・ドル高が進んでいた。
関税強化や不法移民対策、1期目に実現した「トランプ減税」の恒久化はいずれも物価上昇(インフレ)を引き起こしやすい。財政出動で経済が過熱すれば、米連邦準備制度理事会(FRB)の利下げペースは緩やかになると見込まれ、長期金利が上昇。金利の高いドル資産が買われた。
投開票でトランプ氏の優勢をいち早く織り込んだのは6日の東京市場だった。日経平均株価(225種)は一時1100円超の上昇を見せ、円相場は1ドル=154円台まで円安が進んだ。その後のニューヨーク株式市場ではダウ工業株30種平均が急伸。約3週間ぶりに史上最高値を更新した。
大手証券アナリストは「今年最大のイベントを通過し、市場の不透明感が晴れた。様子見姿勢だった投資家が動き出した」と指摘し、年内の株価は底堅く推移するとみる。
トランプ氏率いる共和党は4年ぶりに上院で多数派を奪還したが、下院選は接戦となっている。ホワイトハウスに加え、共和党が上下両院の多数を握る「トリプルレッド」となれば、大統領の政策が実現しやすくなる。三井住友DSアセットマネジメントの市川雅浩チーフマーケットストラテジストは「来年1月の就任早々に景気刺激策を打ってくるとの思惑が強まれば、(年内に)1ドル=155~160円まで円安が進む可能性がある」と指摘する。
だが、トランプ相場がいつまで続くかは見通せない。トランプ氏は外国製品には10~20%、中国製品には60%の関税を一律に課す方針を示している。米国の貿易赤字解消に向けドル安を志向するとの見方もあり、ドル高の是正に動く可能性もある。
国際経済に詳しい東京女子大の長谷川克之教授は「米中対立が激化すれば、グローバル化が一段と揺らぐ。保護貿易の拡大や世界経済の分断は大きなリスク要因だ」と指摘。「景気浮揚効果という短期的なプラスより、中期的なマイナスの方が大きいのではないか」との見方を示す。
NTTの島田明社長は7日の記者会見で、トランプ氏の経済政策について「影響を見極めていきたい」と警戒感をにじませた。市場関係者の間でも「株価にプラスかマイナスか分からない」との見方が少なくない。建設会社幹部は「円安による資材価格の高騰が懸念材料」と語った。
トランプ政権の閣僚人事や通貨・財政の基本姿勢が確認できないと、経済の先行きを見通すのは難しく、株や為替相場は当面、トランプ氏の言動に左右される展開が続きそうだ。【浅川大樹、成澤隼人】
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