鉄砲水に飲み込まれ吹き溜まった自動車(10月31日、スペイン東部のバレンシア州) REUTERS/Susana Vera

<「雨も降っていないのに洪水がきた」「まるで津波」──過去の常識が通用しない大災害を乗り切るために知っておきたいこと>

10月29日午後、スペイン東部・バレンシア州の町パイポルタに泥水が流れ込み始めた当初、未曾有の危機の到来を予見した住民はほとんどいなかっただろう。当時、雨は降っておらず、警報も周知されていなかった。だがその後、上流の豪雨による鉄砲水はあっという間に勢いを増し、水位3メートルに到達。「まるで津波」「いや、ダムの決壊だ」と評される激流が、逃げ惑う人や車を飲み込んで、街の全てを破壊しつくした。

【動画】「津波のような洪水」に飲み込まれる自動車

気候変動が加速するなか、「前例がない」「100年に1度」の大災害が世界各地で頻発している。こうした危機では、避難のタイミングにも被害規模にも、これまでの常識が全く通用しない。想定外の災害に遭遇したときに、どうしたら生き延びる確率を少しでも高められるだろうか? 知っておきたいポイントを探った。

■浸水した車から脱出する方法

スペインの洪水では運転中の車が濁流に飲まれ、車内に閉じ込められて溺死した人が多数いた。路上や冠水した地下駐車場には今も無数の車両が積み重なっており、犠牲者がどこまで増えるか見当もつかない。

車は冠水の水位が60センチを超えると、水圧のためにドアの開閉が困難になる。そんなときは、とにかく電気系統が生きているうちに窓を開けて脱出する。念のため、窓ガラスを割る緊急脱出用ハンマーも常備しておきたい。窓ガラスは四隅を狙うと割りやすい。

脱出できず、車内に水が入ってきてもパニックは禁物。直感に反するが、車の中と外の水圧が均等になればドアを開けやすくなるので、車内外の水位がほぼ同じになるまで焦らずに待つ。エンジンが前方に搭載された車は後方のほうが浮かびやすいため、空気が残る後部座席に移動して冷静にタイミングを計ろう。

■自宅の水位が上がってきたら

建物内にいて水位が急激に上昇してきたら、大急ぎで上層階に移動し、ライフジャケットやプールで使う浮具を用意する。ない場合は、密閉した500ml~1リットルの空のペットボトルを数個まとめて両脇や胸に固定することで浮力の助けとなり、流されたときに呼吸を確保しやすい。また、目立ちやすい明るい色(赤、オレンジ、黄色など)の服や、反射材付きの衣類を身に付けておくと、水の中や暗闇で発見してもらえる確率が多少は高まるかも。

■濡れた服は放置しない

水に長時間浸かったせいで体温が急速に低下する「低体温症」による死者が、スペインでも複数報告されている。濡れた服を着替えられない場合は、服の上からでも防災用アルミブランケットをかぶるか、胸部や腹部にアルミホイルを巻く(反射した熱で体を温める)、新聞紙を服の内側に挟む(空気の層による断熱効果で体温の低下を防ぐ)といった応急措置をしよう。その上に防水シートを重ねてかぶると、体温保持効果を高められる。

■泥水で死ぬことも

フランス2によれば、スペインの被災地では傷口が化膿した人が大勢、医療機関を訪れている。原因は糞尿や動物の死骸も混ざった不衛生な泥水。汚泥の腐敗が進むなか、破傷風などの感染症リスクや、乾燥した泥の土ぼこりを吸い込むことによる肺炎リスクにも警戒が強まっている。

泥水や瓦礫の片付けをするときには、ゴム手袋と長靴、マスクが必須。外傷があるときは、作業前に防水フィルムを貼ったり、ワセリンや防水クリームを塗ることで感染リスクを軽減できる。

■早く家族の元へ帰るために

多数の犠牲者が出る大災害では、遺体の身元の割り出しに時間がかかる。万が一の場合にせめて早く家族の元へ帰れるよう、体と衣服に油性マジックで直接、名前を書いておこう。

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