自分と妻のポルノビデオを公開したガウは、自身を失職させた大学理事会と闘うつもりだ USA TODAY NETWORKーREUTERS

<妻と制作したポルノビデオをネットで公開して大学をクビに。「言論の自由」をめぐる偉大な実験は果たして成功するか>

筆者が前回、ジョセフ・ガウ(64)に話を聞いたのは、彼が米ウィスコンシン大学ラクロス校の総長の座を降ろされたときだ。

ガウが同じ大学の教授だった妻のカルメン・ウィルソンとのポルノビデオを制作し、成人向けサブスクリプションサービスの「オンリーファンズ」などで公開していたことが理由だった。

ガウはこの解雇決定が合衆国憲法の定める表現の自由を侵害すると主張し始めた。

9月末になってウィスコンシン大学機構の理事会は、ガウがポルノビデオ制作という「非倫理的かつ潜在的に違法な行為」を働き、また大学備品のノートPCをビデオ制作に使用したとして、彼の終身在職権(教授職)を剝奪することを全会一致で決定した。

ガウはなぜポルノビデオを作ったのか。スレート誌記者ダン・コイスが、ガウに聞いた(ウィスコンシン大学機構にもコメントを求めたが、記事の締め切りまでに返答を得られなかった)。

──大学の理事会はどのような理由であなたの終身在職権を剝奪し、解雇の裁定を下したのか。

文書による裁定はなかった。1週間前に理事たちとの公聴会があったが、彼らは私に一つも質問をしなかった。

採決に至ったとき、私は17~18人の理事の中で、1人か2人は「これはおかしい」と言うのではないかと期待していた。しかし私の失職は、全会一致で決まった。

──大学側は、あなたが大学備品のノートPCをビデオ制作に使用したなどの違反行為について申し立てたが。

それは彼らがよく持ち出す議論だ。目的は、私が動画の中で大学について、また総長の職にあることについて言及していないという事実を目立たせないことにある。

彼らが引用した「サンディエゴ市対ロー判決」という連邦最高裁の判例では、公共の雇用主は大きな問題となる発言をした従業員を解雇することができるとしている。

この事件はサンディエゴの警察官が制服姿でポルノに出演し、ビデオの中で制服を脱いでいったというもの。この男がサンディエゴの警察官であることは誰の目にも明らかだ。

しかし私個人を知らない限り、ビデオの人物が大学の総長だとは分からない。

──今年春に話をしたとき、あなたはウィスコンシン州議会の共和党が理事らに圧力をかけ、このような行動を取らせたと確信していると言っていた。今でもそう思うか。

確信はさらに強くなった。この件が明らかになったときの共和党州上院議員らの発言が記録に残っている。「この男を即刻クビにしろ!」。ウィスコンシン大学機構は、州立大学の予算決定に影響力を持つ州議会の右派の人々を怒らせたくないのだ。

──この裁定と闘うつもりはあるか。

FIRE(個人の権利と表現のための財団)から弁護士を派遣してもらえたのは幸運だ。彼らは訴訟を起こすべきだと考えており、私たちも異存はない。表現の自由を定めた憲法修正第1条に絡む連邦訴訟になるだろう。

──あなたはもう州から給与を受け取っていない。オンリーファンズからの収入は?

ありがたいことに、この一件が話題になるたび、人々は好奇心を持ってくれる。私たちはそこそこ稼いでいて、その金はいま必要なものだ。私は、そして妻も健康保険を取り上げられてしまうから。

私たちは(オンリーファンズで)月に2000〜3000ドルほど稼いでいる。このサービスで何百万ドルも稼いでいる人がいるが、私たちはそういうやり方はしていない。お金を払って私たちのビデオを見たいという人が見られるようにしているだけだ。

個々の顧客のリクエストには応じていない。「電話であなたと話をしたいな。その上で料金を後で払うことはできますか?」などと言ってくる人もいるが、そういうことはやっていない。

──大学の教授は、学生の質問や相談を受け付ける「オフィスアワー」を定期的に設けなければいけない。あなたが大学で勝ち得たものと同等の成功をオンリーファンズで収めたければ、顧客と直接関わることも必要なのでは?

そうだね。ABCテレビの報道番組『ナイトライン』が私たちを取り上げたとき、確かミズーリ州の高校教師の女性がオンリーファンズに投稿していたことを理由に、仕事をクビになったと伝えていた。

私たちよりずっと若いその女性は「オンリーファンズで年に200万ドル稼いでいるから大丈夫」と言っていた。あれには驚いた。

──オンリーファンズで年200万ドルの収入を得るのは、60代の人が経験することではないと思うが。

そのとおり。そんなことは全く望んでいない。私たちがビデオ制作を始めたのは、言論の自由について実験したかったからだ。そしてあの大学が、公にしている立場を守るかどうかを確かめたかったからだ。今、あの大学がそうではないことが分かった。

──あなたは、ビデオをオンラインで公開し始めた理由の1つは言論の自由への関心だと言っていた。この学術的な議論に自分の生活を懸けるのは、冒険だと思える。リスクを冒さなければよかったと思っている?

やってよかったと思う。私はアカデミズムの世界に、スピーチとコミュニケーションの教授として入った。私はジャーナリズムの学位も持っており、憲法修正第1条が定める言論の自由を心から信じ、それがアメリカを素晴らしい国にしていると思っている。

大学の運営に携わっていた間、インターネットの台頭やオンリーファンズのような新しいプラットフォームによって、世界が大きく変化するのを目の当たりにした。そして「これは革命だ。この波に加わろう」とまで言った。

そして今、その代償を払うことになった。でも周りが注目してくれ、対話を求めてくれる。私は今、皆さんとこの問題について話すことをとても楽しく思っている。

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