11月5日の米大統領の投票日まで29日で残り1週間となる。世論調査では、民主党のカマラ・ハリス副大統領(60)と共和党のドナルド・トランプ前大統領(78)の大接戦が続いている。経済や移民、人工妊娠中絶などの政策課題に加えて、最終盤では「トランプ氏の復権の是非」が争点になっている。
「トランプ氏は軍を私兵として使って個人的、政治的な報復を実行すると明言し、絶対的権力を望んでいる」。ハリス氏は10月23日、副大統領公邸での演説でこう訴えた。「トランプ氏は混乱し、不安定になっている」とも強調。「トランプ氏をまた大統領にして良いのか」と疑問を投げかけ、自身への支持につなげようとしている。
ハリス氏は8月、前月に選挙戦から撤退したバイデン大統領(81)の後釜に座った。若返りによる「刷新感」を武器に支持率を伸ばしたが、政策を具体的に説明できない場面が目立ち、「イメージ戦」頼みの選挙戦に限界が見えている。危機感を募らせる陣営は、トランプ氏の資質に焦点を絞る戦略に転換。オバマ元大統領夫妻、歌手のビヨンセさんら人気の応援弁士を総動員し、黒人や中南米系の男性など支持伸び悩みが指摘される有権者に絞った政策もアピールしている。
29日にはホワイトハウス近くで大規模な集会を開く。2021年の連邦議会襲撃事件の直前、トランプ氏が支持者に「議会へ行進しよう」と呼びかけた因縁の地で、改めて「民主主義の危機」を訴える狙いだ。
トランプ氏はハリス氏を「知能が低い」「ウソつき」と個人攻撃する一方で、不法移民の増加やインフレ(物価高)など自身に有利なテーマを論点にしている。チップ収入や残業代、年金への非課税、自動車ローンの利息の税控除など細かい政策を訴えて支持拡大を図る。
27日には地元ニューヨークの「マディソンスクエアガーデン」で大規模な集会を開催した。実業家のイーロン・マスク氏ら主な支援者が勢ぞろいし、気勢を上げた。劣勢だった資金集めでも、「世界一の富豪」であるマスク氏が下支えしている。
共和党には「政策論争に集中すべきだ」との声もあるが、虚偽や誇張を交えた「トランプ流」の言動は変えていない。保守層の受けを狙って「男らしさ」「信心深さ」を演出する発言も目立つ。こうしたトランプ氏の言動は女性や若者の支持が伸びない一因とされてきたが、3回連続の大統領選で既に「欠点」は有権者の間で織り込み済みの側面があり、支持低下にはつながっていない。
政治サイト「リアル・クリア・ポリティクス」の各種世論調査の集計(27日午後)によると、全米ではトランプ氏48・5%、ハリス氏48・4%で、8月からリードを許してきたトランプ氏が巻き返した。激戦7州ではトランプ氏がいずれも僅差でリードしている。各州と首都ワシントンに割り振られた計538人の選挙人の獲得数(当選ライン270)で勝敗が決まるが、ハリス氏226人、トランプ氏219人の獲得が有力視され、激戦7州に配分された残り93人の争奪戦が続いている。
11月5日は州ごとに投票締め切り後、即日開票される。大半の州で期日前投票や郵便投票が始まっており、フロリダ大学の集計では計4100万人以上が投票を済ませた。開票手続きに時間を要するため、大勢が判明するまで数日以上かかる可能性がある。【ワシントン秋山信一】
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