9月に与那国島と西表島の間の接続水域を通過した「遼寧」(2018年4月) REUTERS

<与那国島と台湾の周辺で中国海軍の活動が活発に。軍事同盟がない日台の空白を突く「深謀遠慮」>

9月18日、中国海軍の空母「遼寧」とミサイル駆逐艦2隻が沖縄県の与那国島と西表島の間の接続水域を通過した。8月に入り中国軍の挑発行為が続いており、情報収集機が長崎県男女群島沖で領空を侵犯し、鹿児島県屋久島周辺で測量艦が領海に侵入した。

遼寧の戦略的価値や今回の航行の政治的な意味はもちろん重要だ。一方で、与那国島周辺の3つの重要な軍事的傾向は長く見過ごされてきた。


1つ目の傾向は、与那国島周辺海域での中国の軍事活動に関わるものだ。これまで中国海軍は主に、宮古島と沖縄本島の間の宮古海峡を通ってフィリピン海に向かっていた。しかし近年は、与那国島周辺を通過する作戦行動を拡大しており、島の西側と台湾東部の宜蘭の間の海峡を通過する頻度が大幅に増えている。

日本の防衛省によると、2018~2023年に日本の南西諸島周辺を航行した中国海軍艦艇のうち、宮古海峡を通過した艦艇は全体の54.8~100%だったが、今年は8月31日現在で43%にとどまっている。

一方で、与那国島の東側と西側の海域を通過する艦艇が全体に占める割合は、2020年以前の0%から今年は既に26.6%に達している。重要なのは、西側の通過が2020年のゼロから今年は18回に増えていることで、その全てが駆逐艦やフリゲート艦など主要な戦闘艦である。

中国政府は、日本が南西諸島で電子戦と技術偵察の能力を強化していることを十分に認識している。電子信号を探知されるリスクがあっても航行の頻度が増えていることから、中国がこの海峡を実戦訓練の重要地域に指定している可能性がうかがえる。

中国海洋調査船の動き

2つ目の傾向は、中国の海洋調査船の活動に関連する。台湾周辺における海洋調査船の動きについて、一般公開されているAIS(船舶自動識別装置)のデータを台湾の中国防衛問題プロジェクトが分析したところ、2023年と2024年(1月~8月31日)を比較して4つの特徴が見られた。

第1に、中国の海洋調査船の活動は増加している。2023年に台湾周辺を航行したのは18回だったが、2024年は8月末で既に16回に達している。

第2に、活動の重点は台湾南部の海域から東部の海域に移っている。2023年に台湾南部とフィリピン北部の間のバシー海峡付近を航行したのは11回で、台湾周辺海域全体の61.1%を占めていたが、2024年は5回で31.3%だ。

一方、与那国島の西側の海峡の航行は23年は2回で全体の11.1%だが、24年は10回で62.5%に増えている。

第3に、海洋調査船は台湾の海岸線に徐々に接近している。台湾の接続水域に入った事例は23年は5件で全体の27.8%だったが、2024年は既に11件で全体の68.8%。この11件のうち6件が与那国島の西側の海峡で発生している。

第4に、2024年に海洋調査船は台湾と与那国島の間の海域で「芝刈りパターン」を3回、見せている。細かく往復を繰り返すこの動きは、入念な調査をしていると考えられる。


3つ目の傾向は与那国島の南の海域に関係する。

台湾国防部によれば、2024年に入って台湾の東側では中国の艦載対潜水艦ヘリの活動が増えた。台湾周辺で対潜ヘリの活動が確認された日数は2023年は90日だったが、今年は8月末の時点で68日だ。

最南端の鵝鑾鼻(ガランピ)からフィリピン最北端ヤミ島に至る南西空域では2023年は33日で、今年は19日。ところが台湾北東部の蘇澳および与那国島より南の海域では、2023年は59日だったのが今年は既に62日を記録している。

海洋調査船の傾向と合わせて考えるなら、中国は明らかに与那国島周辺で対潜能力を高めている。裏には浙江省に配備した通常動力型潜水艦の活動をこの海域で強化する狙いがあると考えられる。

今こそ日台連携強化を

3つの傾向からはまた、与那国島の東西の海域で将来的に空母の航行を増やしたい中国の思惑が浮かび上がる。

日本近海で活動する中国の空母とこれに随行する原子力潜水艦は、主に山東省青島が拠点。そのため与那国島周辺の海洋調査と対潜水艦作戦の強化は欠かせない。海域に関する知識不足のせいで他国の潜水艦に追跡されるような事態は、避けたいからだ。

これらの傾向は日本のみならずアメリカや台湾の政策にも影響を及ぼす。まず中国は対米防衛線「第1列島線」に沿って日米が設置した海中監視網をかいくぐって西太平洋に出る動きを、一層強めるかもしれない。

日米が南西諸島に海中監視システムを確立したことを示す報告はあるが、与那国島の西側の海峡に関しては信頼に足る報告がない。この海域は日台の管轄下にあり、両者は正式な軍事同盟を結んでいない。そのため共同で長期的に海中監視システムを運営するのは困難かもしれない。

中国はこの隙を突き、日米の対潜能力が強い第1列島線を避けることで、探知されずに西太平洋に進出する可能性を高めようとするだろう。台湾と与那国島の海域調査に力を入れ、対潜ヘリの出動を増やしてきたのはそのためだ。

第2に、中国の動きは台湾海軍に物理的にもコストの面でも多大な負担を強いる。

与那国島と海峡を挟んだ蘇澳港は海軍の重要拠点で、台湾最大の基隆級(キッド級)ミサイル駆逐艦や最古の済陽級(ノックス級)フリゲート艦が配備されている。


つまり中国の艦船が海峡を航行する場合、主に対応に当たるのはこれらの艦船だ。中国の動きが活発になれば、出動回数は増える。

基隆級駆逐艦を派遣すればそのたびに莫大な費用がかかり、老朽化したフリゲート艦の維持は困難で費用もかさむ。この地域への中国の消耗戦略は、台湾にとって周辺の他地域に比べてかなりダメージが大きい。

第3に海上自衛隊の南西諸島における拠点は那覇で、海峡には福建省三都澳にある中国の海軍基地よりも遠い。与那国島と台湾の海峡を航行する中国の艦船に今後も継続的に対応するとなれば、中国よりも艦船の派遣に苦労し、後方支援のコストも膨らむだろう。

南西諸島と台湾の東側海域における中国の動きは注視していく必要がある。同時に日本の海上自衛隊と台湾の海軍は海峡でのプレゼンスを高め、中国の動きに効果的に対処して艦船に圧力をかけるために、より広範な協力体制を築くべきだ。

From thediplomat.com

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