逮捕され、手錠をかけられたラウス容疑者(9月15日、フロリダ州パームシティ) Martin County Sheriff's Office/REUTERS

<ウクライナに飛んで義勇兵として死ぬ、イーロン・マスクからロケットを買ってプーチンの別荘にぶち込む......そんな投稿だらけの容疑者は、実際にも「妄想癖があって嘘つきだった」と知人は語る>

かつてウクライナ軍の外国人部隊に義勇兵として参加していたある人物は、ドナルド・トランプ前大統領(78)の2度目の暗殺未遂の容疑者について、「妄想癖」があり「嘘つき」だと述べている。

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トランプは9月15日、フロリダ州ウェストパームビーチに所有するトランプ・インターナショナル・ゴルフクラブでプレーしていたが、彼の警護にあたっていたシークレットサービス(大統領警護隊)が近くで銃を持った人物を発見した。容疑者は現場から逃走したが、その後逮捕され、ライアン・ウェズリー・ラウス(58)と特定された。

FBIはこれは「暗殺未遂」事件だとの見方を示している。トランプ陣営は「トランプ氏は付近で銃撃があったが無事だ」とする声明を発表した。

容疑者は2022年6月に本誌(ルーマニア版)とのインタビューの中で、ウクライナ軍領土防衛部隊内の「多国籍軍団」のために義勇兵を募ったと述べていた。また2023年には米ニューヨーク・タイムズ紙の取材に対して、タリバン政権を逃れたアフガニスタンの兵士たちをウクライナ軍の兵士として雇う取り組みについて話していた。

ロシアはラウスのこれらの主張に飛びつき、ウクライナがラウスを雇ってトランプを暗殺させようとした可能性があるという根拠のない説を煽っている。トランプはこれまでロシアとウクライナの戦争について、アメリカによるウクライナへの巨額の軍事支援を批判してきた。

ウクライナ軍とは無関係

ロシアのウラジーミル・プーチンの盟友であるドミトリー・メドベージェフ元首相は16日、X(旧ツイッター)への投稿で「今回トランプの暗殺を試みたラウスは過去に、ウクライナ軍のために傭兵を募っていた。もしこの人物がウクライナのネオナチ政権に雇われて今回の暗殺を試みていたとしたら」と疑問を呈した。

ウクライナ軍領土防衛部隊多国籍軍は声明を出し、ノースカロライナ州グリーンズボロ出身の元建設作業員であるラウスが「いかなる形でも」同軍の「一員であったり、関係があったり、つながりがあったりしたことは一度もない」と関係を否定した。

2022年3月から同多国籍軍団で(最初は管理業務、その後は新兵採用担当として)2年間働いていたミシガン州デトロイト出身の米市民エブリン・アッシェンブレナーも9月16日、ウクライナの首都キーウから本誌の取材に応じ、2022年からラウスと接触があるが彼は「妄想癖があり嘘つきだ」と語った。

2024年6月中旬に多国籍軍団を離れたアッシェンブレナーは、6月以降、ソーシャルメディア上でラウスは「多国籍軍団やウクライナ軍とは一切関係がなく、これまで関わりがあったこともない」と警告していた。

ラウスは2022年3月から2024年3月にかけてアッシェンブレナーにメッセージを送り、約6000人のアフガニスタン市民を含む「新兵候補」についての詳細な情報を提供した。やめるように言ったところ、「敵対的」になりアッシェンブレナーを「操ろうと」するようになったという。

アッシェンブレナーは本誌に、ラウスとのメッセージのやり取りの内容を明かした。彼によれば「ラウスは『そうか、君は本当はウクライナを助けたくないんだな』と言ってきた。彼は感情的にとてもひねくれていて、手助けを拒んだり反論したりすると非難がましい態度を取った。私が言うことには一切耳を傾けず、何も理解していなかった」という。

「ラウスは私に6000人ほどのアフガニスタン市民の情報を含むPDFを送ってきた。合法的にヨーロッパに入ることができない人々なのに。彼はとても闘争的で論争的だった。軍の基本的な方針を理解することを繰り返し拒んだ」とアッシェンブレナーは述べた。

アッシェンブレナーが、ラウスはまともではないと最初に気づいたのは2022年8月24日だったという。「ロシアからの攻撃を受けて警戒レベルが引き上げられ、夜間外出禁止令が出ていた。ハルキウでは午後6時か7時だったと思うが、ラウスはその時、ある外国人義勇兵に国境を越えさせようとしていた。『今夜はダメだろう!』と私は思った」とアッシェンブレナーは振り返り、さらにこう続けた。

「彼には少し妄想癖があると思った。彼自身、自分が本当に新兵採用担当者だとは思っていなかったと思うが、彼は自分がウクライナを助けていると心から信じていたし、ウクライナを助けられるのは自分だけだと確信していたと思う」

個人情報を勝手に公開

2023年2月、ラウスは(アッシェンブレナーを含む)自分たちの個人情報をインターネット上で勝手に公開しはじめた。そして、ウクライナで戦いたい者にはチャンスを与えると約束したという。

本誌(ルーマニア版)とのインタビューの中でラウスは当時、「なぜ私はここにいるのか。なぜなら、ほかの多くの紛争はグレーだが、この戦争は白と黒がはっきりしているからだ。これは善対悪の戦いだ。映画に出てくるような、はっきりとした善対悪の戦いなのだ」

ワシントンのデジタルニュースメディア「セマフォ―」は2023年3月10日に公開した記事の中で、ラウスをウクライナの国際ボランティアセンター(IVC)の代表として紹介している。ウェブサイトによれば、IVCは「ボランティアを支援」し、ほかの非営利団体と協力して「ウクライナ全土に人道支援を広める活動を促進する」ことを目指す民間団体だ。

ラウスのXのアカウントは現在凍結されているが、本誌は凍結される前のコンテンツを確認している。

彼はX上に何十回も、ウクライナを支持する投稿を行っていた。たとえばロシアがウクライナへの本格侵攻を開始した直後の2022年3月には、「(ウクライナの隣国ポーランド南部の)クラクフに飛んでウクライナとの国境を越え、義勇兵として戦って死ぬ覚悟がある。私が手本になれるだろうか。われわれは勝たなければならない」と投稿していた。

それより前の投稿には、政治的なスタンスの変化が示唆されていた。2020年6月、ラウスはトランプのアカウントをタグ付けして、「2016年にあなたを選んだ時、私も世界もトランプ大統領はほかの候補者とは違うと期待していた。だが私たちは大いに失望した。あなたはどんどん悪くなり、退化しているように見える」と書き込み、さらにこう付け加えていた。「いなくなったほうがいい」

妄想の最たるものは、2024年4月にイーロン・マスクにタグ付けした投稿かもしれない。「あなたからロケットを買いたい。それを弾頭に搭載して黒海にあるプーチンの別邸の地下壕に撃ち込み、彼を終わらせたい。値段を教えてくれないだろうか」

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