11月5日の米大統領選を巡り、共和党候補のトランプ前大統領の陣営が投票意欲の低い有権者を標的に戸別訪問を展開していることが分かった。写真はトランプ陣営ボランティアのレイチェル・ゴットバーグさんとクリス・ゴットバーグさん夫妻。ペンシルベニア州ヨークで8月撮影(2024年 ロイター/Nathan Layne)

11月5日の米大統領選を巡り、共和党候補のトランプ前大統領の陣営が投票意欲の低い有権者を標的に戸別訪問を展開していることが分かった。こうした戦略は新たな有権者層の取り込みにつながる可能性を持つ半面、有権者が重い腰を上げて投票所に出向かなければ人的、資金的資源の無駄遣いに終わる恐れもある。

トランプ陣営のボランティアをしているレイチェル・ゴットバーグ、クリス・ゴットバーグ夫妻は先月、激戦州ペンシルベニアのヨークで戸別訪問を行った。有権者登録手続きをしたばかりだったり、毎回投票に来なかったりなど、投票意欲の低い有権者への接触がその日の目標だった。

過去にも選挙戦で戸別訪問を行った経験を持つレイチェルさん(34)によると「これは2020年にはなかった全く新しい着眼点」で、今回選挙戦ではすでに250戸の訪問を終えたという。 

トランプ陣営と支持者が大統領選の結果を左右する7つの激戦州で、あまり投票に行かない有権者をターゲットにした前例のない取り組みに注力していることが、トランプ陣営スタッフ、草の根団体の関係者、共和党郡組織の責任者、献金提供者など30人余りの取材で明らかになった。トランプ陣営のこうした選挙戦略が報じられるのは初めて。

候補者は通常、支持基盤を広げるにあたって投票頻度の低い有権者と「スイングボーター(投票先が揺れる有権者)」の両方をターゲットに据える。しかし過去の選挙戦に比べ、トランプ陣営は投票頻度の低い有権者に重きを置いている。標的となる有権者は主に地方に住む若者層の白人だが、白人以外の有権者もかなりの割合で含まれる。

「こうした有権者がわれわれの考えに賛同し、われわれを支持していることは分かっているが、投票所に出向かせる必要がある」と、トランプ陣営幹部のジェームズ・ブレア氏は話した。

8日公表のニューヨーク・タイムズ紙とシエナ大の共同調査で、あまり投票に行かない有権者を狙うトランプ陣営の選挙戦略に見込みがあることが浮き彫りになった。この調査によると、トランプ氏は全有権者対象では支持率が48%で、民主党候補ハリス副大統領の47%と拮抗したが、2020年の選挙で投票しなかった有権者の間では支持率が49%と、ハリス氏を9ポイント上回った。

投票意欲の低い保守層を掘り起こしへ

トランプ陣営と支持者は、投票所に行く傾向が低い強固な支持層を動員することが勝利の鍵だと見ている。また、無党派層など説得可能な他の有権者層は激戦州で全有権者の11%を占めると推計し、こうした層にも注力している。

トランプ支持団体「ターニング・ポイント・アクション」の広報担当、アンドリュー・コルベット氏は「数字を詳しく見ると、アリゾナ州だけでも投票頻度が低く、保守的な傾向の有権者が30万人もいることが分かる。もしこうした州で1万票、2万票の差で負けているのなら、事前にこういった有権者に働きかけることには大きな可能性がある」と述べた。

一方、資金が豊富なハリス陣営はトランプ陣営と対照的に、より幅広い有権者層で票を獲得しようとしているようだ。ハリス陣営の関係者は選挙戦略について具体的な説明を避けた。しかし選挙イベントや登録推進活動を通じて、トランプ氏を支持していない女性などの層を取り込む戦略を取っているとみられる。

<支持団体にも変化>

トランプ陣営では少なくとも4つの支援団体が投票頻度の低い有権者への働き掛けに注力していることをロイターは確認した。

米実業家イーロン・マスク氏が支援する特別政治活動委員会(スーパーPAC)「アメリカPAC」、右派活動家チャーリー・カーク氏が率いる非営利団体「ターニング・ポイント・アクション」などの団体は激戦州で戸別訪問担当者を数百人雇うために1億0800万ドル(154億円)を拠出する計画だ。

ただ、トランプ陣営や支持者の全てが投票頻度の低い有権者への注力が良い手法だと考えているわけではない。

選挙戦について説明を受けた激戦州の党関係者は、党への忠誠心が低いスイングボーターよりも投票頻度の低い有権者向けにあまりにも多くの資源が割かれていることに懸念を示した。 

この関係者は、投票頻度の低い有権者を投票に向かわせるには自宅を何度も訪問したり、電話をかけたりしなければならず、多大な時間と資金が必要だと述べた。こうした有権者は政治的な関心が薄く、テレビ広告に目をとめない可能性もある。一方、スイングボーターは投票に向かわせるのが比較的容易だ。

コロンビア大学のドナルド・グリーン教授(政治学)は、投票頻度の低い支持者を動員する取り組みが大統領選には比較的効果があると示す研究結果があり、トランプ氏の戦略には裏付けがあるとしつつ、こうしたアプローチにはリスクがあると指摘。「重要なのは作業が効率的に行われているかどうかだ。何度も同じ場所に行ったり、同じ人に連絡したりするのなら資源の無駄遣いだ」と問題点を挙げた。

トランプ陣営がこのような戦略のモデルとしたのは、1月に行われたアイオワ州党員集会の選挙戦だ。当時、地区ごとのボランティアの運動責任者たちが近隣住民を大規模に動員し、トランプ氏を得票率51%での圧勝に導いた。

前出のペンシルベニア州のゴットバーグ夫妻もこうしたボランティア責任者で、トランプ陣営は同夫妻のようなボランティア5万人の養成を目指しているという。

[ロイター]


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