ロシアを相手になお一歩も引かないゼレンスキー(2024年8月26日) ED RAM FOR THE WASHINGTON POST/GETTY IMAGES
<開戦から900日を超えて戦局は膠着、人事刷新で求心力を高める狙いだが>
ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が大幅な内閣改造に踏み切った。侵略者ロシアとの戦いがまさに決定的な局面を迎えようとするなか、先手を打って自らの政権に「新たな活力」を注入するためだ。
最も注目すべきは外相の交代だろう。2022年2月24日の開戦以来、一貫して国際舞台でウクライナの「顔」として立ち回り、西側諸国に軍事支援と人道支援の強化を訴えてきたドミトロ・クレバに代わって、49歳で外務次官のアンドリー・シビハが外相に起用された。また司法省や天然資源省、戦略産業省など全9省庁でトップの首がすげ替えられた。
開戦から900日を超え、死傷者数はますます積み上がっている。9月3日にはウクライナ中部ポルタワの軍事教育施設がロシア軍のミサイル攻撃を受け、少なくとも55人が死亡、328人が負傷した。
ミサイルやドローンによる生活インフラへの集中攻撃を受け、既に同国の発電能力の約70%は失われている。国民の多くはこの先、暖房も水道もなしで冬のいてつく寒さに耐えなければならない。
ウクライナ軍はロシア西部のクルスク州に越境攻撃を仕掛けたが、ウクライナ領内の東部戦線ではロシア軍に押されており、重要な防衛拠点を脅かされている。一般市民の暮らす人口密集地への空爆も絶えない。
主要閣僚の顔触れは変わったが、現時点で大きな政策変更は予想されていない。2019年に大統領となったゼレンスキーの任期(5年)は既に切れているが、戒厳令下で選挙は封印されており、続投は既定路線だ。依然として人気は高く、開戦直後の90%には及ばないが、今も支持率は65%前後で推移している。
内閣改造は「多方面で国力を強化するため」の一歩だとゼレンスキーは語っているが、今後も軍事と政治、そして人道危機への対処で難しい舵取りを迫られることになる。
新外相が直面する難題
過去にもゼレンスキーは、孤立を恐れずに大胆な人事を断行してきた。今年2月には戦局打開を狙って軍の総司令官を交代させた。昨年9月には国防相の交代を事前に発表し、オレクシー・レズニコフを辞任に追い込んでいる。
11月には最大の支援国アメリカで大統領選挙がある。結果次第では欧米諸国の対ウクライナ政策が大きく変わる可能性があり、ウクライナ政府としては最悪の事態にも備えねばならない。
新たに外相に起用されたシビハは、一部の国に「戦争疲れ」の懸念がみられるなか、西側諸国に支援継続を呼びかけるという困難な課題に直面することになる。
ウクライナはロシア軍に対抗するため、防空システムの追加供与を強く求めている。だがロシア領内で西側供与の兵器を使用する是非については、国際社会でも賛否が割れる。西側諸国には、紛争拡大を恐れて承認に慎重な姿勢を見せる向きもある。
ウクライナの内閣改造を受け、アメリカも動いた。直ちにロイド・オースティン米国防長官とチャールズ・ブラウン統合参謀本部議長がドイツを訪れて欧州側と協議し、ウクライナ支援の体制に変わりはないと強調している。
なお米連邦議会は開戦以来、ウクライナ支援策で5法案を承認しており、支援総額は1750億ドルに上っている。
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