おむすび専門フードトラックを開業した加藤大暁さん=ニューヨーク市で2024年8月26日、八田浩輔撮影

 ニューヨークにMiyakoという初めての本格的な日本料理レストランが開業したのは1910年ごろとされる。それから1世紀あまり。この街で日本食をうたう飲食店は今や1000を超す。最近は日本人が経営する店でも、インフレと円安が直撃する邦人駐在員の客は少数派だ。国力の衰退を示すその光景は、本物の日本の味を求めるニューヨーカーがそれだけ多いことの証左でもある。

 加藤大暁(ひろあき)さん(34)は安い、早い、うまいが売りの屋台メシに勝負をかけた。大手警備会社の研究開発職などを経て、3年前にニューヨークにあるパーソンズ美術大学の大学院に留学。昼休みにスーパーで買ったおむすびで腹ごしらえするクラスメートたちの姿に驚いた。

 自分でも買ってみたらご飯は冷たくてボソボソ。包装をはがすと二つに割れるほど硬かった。「これが売れるなら、自分でも……」。卒業後に起業し、今年5月にニューヨーク初のおむすび専門フードトラック「musubin’」(ムスビン)を始めた。実家は三重県のコメ農家だが、飲食業の経験はない。知人の公邸料理人に現地に合ったレシピ作りを、デザイナーにブランディングを頼った。おむすびのように白を基調としたモノトーンの屋台は雑多な街並みで目を引く。

 ラーメン1杯に税とチップを足して円換算すると3000円を超すような、米国で最も物価の高い都市である。価格は最も安いごま塩で一つ4・5ドル(約640円)、サケや明太子は6ドルからに設定した。朝炊いたご飯を保温して注文を受けてからにぎる。オフィス街の勤め人や学生がターゲットという。

 ニューヨークの屋台は営業許可を持つ店だけでも5000店近くある。有名店は観光ガイドブックに載り、開店前に行列ができる。同業の大半は移民系で、多く目に付くのはイスラム教の教えにのっとったハラルフードを扱う店だ。香りをつけて炊いた長粒米に、スパイスの利いた鶏肉とサラダを乗せたチキンオーバーライスは街を代表するB級グルメとなった。「ニューヨークのストリートフードの文化を変えたい」という加藤さん。おむすびを、ホットドッグとハラルフードに続く「第3の選択肢」に引き上げることを目指す。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。