台北の検察庁に移送される柯文哲(8月31日) JAMESON WUーEYEPRESSーREUTERS

<総統選で民衆党を率いた柯文哲が収賄疑惑で逮捕されると、同党は「与党の謀略」と反発。500人規模の抗議集会も起こり、台湾は混乱に包まれている>

今年1月の台湾総統選に台湾民衆党を率いて出馬し、与党・民進党や最大野党・国民党には及ばなかったものの、第三勢力として旋風を巻き起こした柯文哲(コー・ウェンチョー)主席が8月31日に逮捕され、現地では大騒ぎになっている。なにしろ柯は若い世代の間で人気が高く、清廉なイメージで売っていたからだ。もちろん、党にとっても大きな痛手となる。

民衆党をめぐっては、政治資金がらみのスキャンダルもある。7月に発表した会計報告に、総統選関連の支出を記載していなかった。


会計報告の収入欄には個人からの寄付4660万台湾ドル、法人からの寄付3090万台湾ドルとあり、支出欄には人件費3700万台湾ドル、運営費2810万台湾ドルとあるのみで、選挙費用の記載がない。

これは極めて異例だ。民進党は6340万台湾ドル、国民党は2330万台湾ドルの選挙関連支出を計上している。

その後、民衆党は選挙運動の費用は運営費に含まれていると釈明したが、依然として約1900万台湾ドルの使途は不明なまま。なにぶんにも個人からの献金が多すぎて詳細の把握に時間を要していると、民衆党は苦しい弁明を繰り返してきた。

柯は8月29日に会計報告の不備を謝罪し、疑念を晴らすために今後3カ月間は党首の座を外れると発表した。

同時に、総統選で民衆党の選挙本部総幹事を務め、柯の信任厚い黄珊珊(ホアン・シャンシャン)議員に対する懲戒処分として党員資格を一時的に停止した。党所属議員としての地位は残るが、党内の役職は剝奪された。

その翌日の朝、柯の自宅が検察によって捜索された。容疑は、2019年にいったん閉鎖された台北市松山区のショッピングセンター京華城の跡地再開発プロジェクトに絡む収賄疑惑だった。

当時、台北市長だった柯は新築ビルの容積率(敷地面積に対する建物の床面積の割合)を392%から840%に変更することを不当に認めたとされる。この変更により、ショッピングモールを所有する威京総部集団は年間400億台湾ドルの追加利益を見込めることになった。

京華城案件に関与した人を次々逮捕

家宅捜索の数日前から、検察は京華城案件に関与したほかの人々を逮捕し、彼らの事務所を捜索するなど、明らかに柯に迫っていた。逮捕された者の中には、威京総部集団の会長である沈慶京(シェン・チンジン)も含まれていた。

沈は京華城の再開発に関連して、柯の時代にも前任者・郝龍斌(ハオ・ロンビン)の時代にも役人から賄賂を求められたと主張しているが、実際に賄賂を支払ったことはないとしている。

ほかに身柄を拘束されたのは、柯の部下で副市長だった彭振聲(ポン・チェンション)と、仲介役として動いたとされる台北市議会の應曉薇(イン・シアオウエイ)議員(国民党)だ。應には、パートナーが犯罪組織とつながりがあるのではないかという疑惑もある。

柯は当初、検察の事情聴取に任意で応じたが、家宅捜索は与党・民進党による民衆党への政治的弾圧だと強く非難していた。柯の妻・陳佩琪(チェン・ペイチー)も事情聴取を受けている。


その後、柯は深夜の取り調べを拒否したため、正式に逮捕された。その後72時間、台湾の政治報道は大混乱に陥り、果たして柯が保釈されるかどうかが注目された。一方で民衆党は、柯の無実を確信しているとの声明を出した。

アメリカ渡航直前?

メディア・パーソナリティーの周玉蔲(チョウ・ユィコウ)は、柯が9月1日にアメリカに渡航するつもりだったと主張し、法の手を逃れる試みだと断じたが、民衆党は否定し、渡航計画などはなかったとしている。

一方で、民衆党の常任委員会は緊急作業部会を立ち上げた。同部会を率いているのは、党内の立法委員団トップを務める黄国昌(ホアン・クオチャン)とされる。

柯が拘束されていた台北地検の外には支持者が集結。9月1日に行われた抗議集会には約500人が参加したと報じられている。

そうしたなかで民衆党は、柯の逮捕は政治的な迫害だと訴え、検察の真の狙いは京華城跡地の再開発をめぐる疑惑ではなく、党の政治資金にあるとの見方を示してきた。

翌2日、柯は保釈金なしでいったん釈放された。台北地裁は、柯の直接関与や違法行為の認識があったと認定するには検察側の証拠が不十分だと判断した。

これを受けて、地検の前に集まっていた民衆党支持者は歓喜の叫びを上げたが、検察側の即時抗告で事態は一転。5日には地裁の再審理で、柯の勾留請求が認められている。

一方で検察は彭振聲の拘束を継続。裁判所も、彭が今回の一件でのキーパーソンの一人との見方を示している。

いずれにせよ、柯への疑惑が解消されたわけではない。台北市都市計画委員会の元委員で台湾建築学会会長を務める曽光宗(ツォン・コアンツォン)は、柯が京華城プロジェクトについて嘘をついていると非難している。

やはり都市計画委に所属する邵秀佩(シャオ・シウペイ)も検察の取り調べを受けており、海外渡航を制限された。

民衆党が唱える謀略説

一方、黄珊珊は政治資金の不記載で詰め腹を切らされたにもかかわらず、柯からは今なお重用されているようだ。柯の妻が釈放された際に出迎えに行ったのは黄だった。

柯自身も、釈放後に帰宅する前にまず黄の家に向かった。こうしたことからも、黄がまだ民衆党内で重要な役割を担っていることがうかがえる。


柯は、今後さらに罪に問われる可能性もある。投資計画がなかったにもかかわらず、台湾の新光集団に北投士林科技園区の2区画の購入を許可した疑いも持たれている。

民衆党の副総統候補だった呉欣盈(ウー・シンイン)が新光集団の経営者一族の出身であるため、政治的な便宜を図った可能性もある。

さらに疑惑を持たれているのが、台北万華区にある青果卸売市場プロジェクトだ。同事業には京華城の関連企業が関与している。

さらに柯は、選挙補助金を台湾議会に近い場所にある高額な事務所の購入費に流用したとみられており、非難を浴びている。民進党の頼清徳(ライ・チントー)と国民党の侯友宜(ホウ・ヨウイー)は、総統選後に補助金を党に返還するか、慈善団体に寄付している。

柯の妻に対しては、民衆党本部が入っている建物内でカフェを開く資金を得るため、息子名義で不正融資を受けた疑いも浮上している。

さらに民衆党は、柯の渡米に際してレンタカー費用として約90万台湾ドルを使った疑いでも批判の的になっている。

こうした非難の嵐が吹き荒れていることを考えると、柯の今後は不透明だ。

台湾で有罪の可能性に直面している著名な政治家は柯だけではない。民進党で重職を担っていた鄭文燦(チョン・ウエンツァン)は、先の総統選で候補の座を頼と争っていたが、その後、失脚。収賄罪で12年以下の懲役刑を受ける可能性に直面している。

今の台湾では、民進党を中心とする「泛緑」陣営にも国民党を中心とする「泛藍」陣営にも、検察の捜査対象となった政治家がいる。検察としても世論は気になるから、特定の陣営に肩入れしているような印象は与えたくない。

それでも民衆党が、一連の逮捕は与党・民進党による政治的謀略だとの主張を取り下げることはなさそうだ。

From thediplomat.com

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