通信アプリ「テレグラム」や人工知能(AI)を使ったデジタル性犯罪の深刻さを伝える韓国各紙=2024年9月、日下部元美撮影

 韓国で匿名性の高い通信アプリ「テレグラム」を舞台に女性の個人情報や写真、動画が流出し、それを生成人工知能(AI)を使って細工した性的な偽画像「ディープフェイク」が拡散する「デジタル性犯罪」が深刻化している。同級生に個人情報をテレグラムに流出させられた高校3年の女子生徒が、被害の実態や恐怖を語った。

 技術の進歩により世界のどこででも起こりうる問題となったデジタル性犯罪について韓国警察は、運営法人の刑事責任を問えるか検討を始めている。

見知らぬ人からのメッセージに電話番号、住所、身分証の写真が…

 「テレグラムのデジタル性犯罪に遭っています。被害が大きくなる前に申告した方が良い」

 今年5月ごろ、女子生徒のインスタグラムアカウントに見知らぬ人からメッセージが届いた。プロフィル写真や名前は男性だった。この男性はテレグラム上の別の男性とのやりとりをキャプチャーした画像を送ってきた。

 画像には、女子生徒のSNS(ネット交流サービス)のアカウントIDや電話番号、家の住所、身分証の写真が共有されており、女子生徒を侮辱する言葉が並んでいた。やりとりの中で相手の男性は女子生徒と「同じクラスだ」とも明らかにしていた。女子生徒に連絡してきた男性は、警察官志望で「デジタル性犯罪について調査していた」と説明したという。

ディープフェイクによるデジタル性犯罪について捜査強化を求める韓国野党の横断幕=韓国・ソウル市内で2024年9月、日下部元美撮影

「誰も信じられなくなった」

 「あまりの衝撃に、しばらく言葉が出なかった」

 女子生徒は教師に相談し、情報提供者の情報から男子生徒を特定。学校側が男子生徒に確認すると最初否定したが、証拠を提示すると認めたという。男子生徒と女子生徒は用事があれば言葉を交わす程度で、親しい間柄ではなかった。女子生徒は「なぜ私に悪い感情を向けているのか理解できなかった」と語る。

 この男子生徒にディープフェイクを製造・頒布した形跡はなかったが、女子生徒の情報はすでに複数の人の手に渡っていた。第三者の手に渡った身分証の写真がディープフェイクに使用されている可能性は否定できない。

 個人情報を流出させた目的は明らかになっていないが、男子生徒は情報提供者の男性とのやりとりの中で、「脅迫して奴隷にする」と述べていた。女子生徒は「個人情報を脅迫に利用したかったのでは」と推測する。

 女子生徒は「周りの人を誰も信じられなくなってしまった」と苦悩を語る。男子生徒は「とても静か」な人だった。「嫌いな人」たちとつるんでいたが、「その中で一番まともだと思っていた」と振り返る。

 男子生徒は刑事罰は受けず、強制転校の処分になった。男子生徒の友人らは今でも同じ学校に通う。男子生徒と友人らは今もつながっている可能性があり、女子生徒は「報復されるかもしれない」との恐怖を抱いている。教室の前に立つと息が苦しくなるなどのパニック症状も出るようになり、現在、学校を休学している。

テレグラム運営法人の立件も検討

 ディープフェイクの被害は韓国全土に及んでいる。聯合ニュースによると、警察庁は8月26~30日に118件の被害申告を受けた。検挙された7人のうち6人が10代だった。警察庁はテレグラムの運営法人に対し、犯罪ほう助の疑いを視野に立件の検討に着手した。

 テレグラムは世界で約9億人が利用する通信アプリだが、匿名性の高さが特徴だ。フランス警察は8月下旬、犯罪の連絡手段に利用されていることを放置したなどの疑いで運営法人の最高経営責任者を逮捕している。女子生徒は「私のように苦しむ人がもう出てほしくない」と、加害者らの更なる検挙や法律の厳罰化を望んでいる。【ソウル日下部元美】

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