バーニー・サンダース上院議員 NATHAN CONGLETONーNBCーNBCU PHOTO BANK/GETTY IMAGES

<最低賃金引き上げ、富裕層課税、薬価引き下げ......左派の長老サンダース上院議員がカマラ・ハリス「必勝」の戦略を語った>

カマラ・ハリス副大統領とティム・ウォルズ・ミネソタ州知事のコンビなら民主党は11月5日の選挙に勝てる──無所属ながらも前回、前々回の民主党予備選に出馬して旋風を巻き起こしたバーニー・サンダース上院議員(バーモント州選出)は本誌にそう語り、根拠となる独自のデータも示してくれた。

大統領選で共和党のドナルド・トランプ前大統領(と副大統領候補でオハイオ州選出上院議員のJ・D・バンス)に勝ちたければハリス陣営は左派色を薄めるべきだと進言する向きもあるが、サンダースは逆に、労働者の味方に徹してこそ勝機はあるとみる。


サンダースの委嘱でシンクタンク「進歩のためのデータ」が7月末に行った世論調査によれば、6つの激戦州(アリゾナ、ジョージア、ネバダ、ミシガン、ペンシルベニア、ウィスコンシン)では民主党支持者でも無党派層でも、そして共和党支持者でも回答者の過半数が多くの進歩的政策を支持していた。最低賃金の引き上げ、富裕層や企業への課税強化、処方薬価格の大幅な引き下げなどだ。「こういう主張を進歩的と呼ぶのもはばかられる」とサンダースは言った。むしろ「常識的」と呼ぶべきだと。

今の共和党は、自分たちこそ「労働者の党」だと主張して有権者を取り込もうとしている。だがサンダースに言わせれば、それを許しているのは今の民主党が駄目だからであり、そもそも共和党には労働者のための政策など存在しない。

それでも「民主党に見捨てられたと感じている労働者はたくさんいる」。だからハリスの下で、民主党は労働者の味方という原点に立ち戻るべきだとサンダースは考える。

大統領選だけでなく、同時に行われる議会選や知事選でも一人でも多くの民主党候補に勝ってほしいと願う82歳のサンダースに、本誌ジェイソン・レモンが聞いた(取材はズーム経由で8月半ばに行われた)。

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──あなたの仕掛けた激戦州での世論調査によると、共和党の支持者でも過半数はあなたのような進歩派が掲げてきた政策の多くを支持している。似たようなデータは、私自身も別なところで目にしている。しかし民主党政権の下でも共和党政権の下でも、こうした政策は実現されていない。つまり国政に民意が反映されていない。なぜなのか。

いい質問だ。一番大事な点を突いている。こうしたデータが示しているのは、首都の政界や政治のプロ、そして商業メディアと市井のアメリカ人を分かつ深い亀裂だ。

ガザ戦争でイスラエルに肩入れするバイデン政権に抗議して議会内で座り込む若者たち(7月23日) AP/AFLO

今のアメリカでは所得と富の不平等が極端なレベルにまで達している。医療制度は破綻し、機能不全で、それなのに医療費は途方もなく高い。しかも私たちは世界で一番高い処方薬を買わされている。こんな状況で、このままで済むと思うか?

国民はみんな、政府が何とかしてくれることを願っている。しかし新たに選出された議員が首都ワシントンにやって来ると、たちまち保険会社や製薬会社、そのほかの大企業に雇われたロビイストに囲まれてしまう。しかも選挙になると、こういう連中が莫大な献金をしてくれる。


だから首都の政界では、問題の見え方が違う。庶民、そして地方に住む人たちの議論とまるでかみ合わなくなる。処方薬の値段を下げるとか、そういう主張を進歩的と呼ぶのもはばかられる。こんなのは、むしろ常識的な主張だと思わないか。

今回の世論調査のデータを見れば分かるはずだ。民主党系であれ共和党系であれ無党派層であれ、とにかくアメリカ国民の大多数は、今ここにある経済危機に対する常識的な解決策を求めている。

──ハリスとウォルズは、そういう政策を選挙戦でどう訴えればいいのか。有権者にはどんなメッセージを伝えればいい?

大事なのは、国民が苦しんでいるという事実を率直に認めることだ。国民の60%が今は貯金の余裕もない暮らしをしている。ならば連邦レベルの最低賃金を現行の時給7.25ドルから引き上げ、まともに暮らせる水準にすればいい。普通の人が処方薬を買えないなら価格を下げればいい。

大事なのは働く人たちのニーズに応えるような話をし、業界のロビイストや大口献金者の意向など気にしないこと。そうすれば民主党系でも無党派層でも共和党系でも、とにかく国中の労働者の心に響くメッセージを発信できるはずだ。

──副大統領候補のウォルズは真の進歩派なのか。彼を選んだのは党内の進歩派に配慮した結果か?

どうかな、私には分からん。彼のことは知っているが、よくは知らない。しかし彼が素敵に平均的なアメリカ人で、田舎の州の出身だということは知っている。田舎の人間。これが大事だ。首都の政界はあまりにも長く田舎を無視してきた。

次に大事なのは、彼が高校の教師でアメフトのコーチだったという事実。そして最後に、彼は州知事としてずっと労働者に寄り添い、労働組合の味方をしてきた。

彼はミネソタ州の最低賃金引き上げに努力した。州内の子供たちに朝食と昼食を無料で提供するプログラムにも尽力した。これは非常に重要なことだ。女性の権利のためにも立ち上がっている。つまり、州知事としての彼は一貫して労働者の、そして普通の人たちの味方だった。

──今の共和党は「労働者の党」を名乗り、それでかなりの数の支持者を獲得しているように見える。なぜだろう?

政策は関係ない。労働者のためになる政策など、共和党にはない。しかし今は労働者の多くが、民主党に見捨てられた、裏切られたと感じている。民主党を労働者の党に立ち返らせること。それが私の願いだ。産業界の強力な利益団体に立ち向かい、私たちの世論調査で明らかになったような政策を推進する。そうすれば「普通の」アメリカ人のニーズを代表する政党になれる。


──あなたは2020年の民主党予備選で敗れ去ったが、あなたの掲げた政策は勝ち残ったと評する向きもある。実際、バイデン政権は多くの進歩的な政策を採用した。それは民主党が以前よりも進歩的になってきた証拠なのだろうか。

バイデン政権の発足直後に成立した(新型コロナ感染爆発期の)「米国救済計画」は(議会では難産だったが)国民に大歓迎された。ほとんどの国民に1人当たり1400ドルを給付し、雇用保険の給付期間を延長し、病院や学校、零細企業にも給付金を出した。あれで政権のメッセージが伝わった。「見てくれ、今こそ私たちは皆さんの痛みに気付いた。皆さんが傷つき、政府に、皆さんの政府に、大企業ではなく国民一般の利益を代表するよう求めていることに」というメッセージだ。

製薬業界を薬価交渉の席に着かせることにも成功した。画期的なことだ。あれで処方薬の価格引き下げに向けた道が開けた。

ハリスとウォルズは労働者の問題に焦点を当て、まだ大勢の国民が苦しんでいる現実に対する理解を示すべきだ。人々が感じている痛みを知り、裕福な献金者だけでなく、労働者のニーズにしっかり応える政策を提示していく必要がある。それができれば、ハリスは次期大統領の座を獲得できるだろう。しかもトランプに相当な差をつけて勝利できる。私はそう確信している。

──イスラエルとハマスの戦争について、進歩派の多くはバイデン政権の姿勢にひどく失望している。あなたもバイデン政権の姿勢には反対している。ではバイデンに見切りをつけ、彼の副官であり後継者でもあるハリスに投票する気にもなれずにいる人たちに対して、あなたはどう語りかけるつもりか。

アメリカの上院で、私ほど(イスラエル首相のベンヤミン・)ネタニヤフを声高に批判している人間はいないと思う。彼の政権は極端で、パレスチナ自治区ガザにいる人々の暮らしを破壊し、数え切れないほどの子供たちが飢えに苦しんでいる。だから国際刑事裁判所はネタニヤフを戦争犯罪人と認定した。一方でハマスの指導者であるヤヒヤ・シンワールも戦争犯罪人と認定している。私はどちらの認定も支持する。

これまで私は、バイデン政権の国内政策の多くを支持してきた。インフラの再建や気候変動対策としてのエネルギーシステム変革への投資、製薬業界との薬価引き下げ交渉など、彼らは国内で多くの優れた取り組みを行ってきた。だがガザの問題については、バイデン政権の対応は間違いだと思う。

それでも私は、有権者にはこう言いたい。これからもバイデン政権の、そしてハリスの姿勢を変えさせる努力を続けていこう。このひどい戦争が続いている限り、アメリカはイスラエルの極右ネタニヤフ政権に対する一切の支援を行ってはいけない。そういう圧力を、政府にかけ続けようじゃないか。


しかし、だからといって今度の大統領選でハリスに一票を投じないというのは大間違いだ。

そもそも共和党には、飢えに苦しむガザの子供たちに人道支援を行うつもりもない。もしもトランプが政権を握ったら、あそこの状況は今よりも悪化するだろう。

──あなたはハリスが大統領になれるよう尽力していると言いつつも、まだ正式に彼女への支持を表明してはいない。その理由は?

いわゆる正式な支持表明というのは、メディアが気にしていることにすぎない。私は常に、ハリスが大統領に選ばれるよう全力を尽くしている。そのために全国を駆け回っている。(激戦州の)ウィスコンシンにも行った。そして彼女と彼女のチームが、なによりも経済問題の重要性を理解してくれるよう願っている。

人工妊娠中絶の問題も気候変動の問題も、確かにとても重要だ。だが目前に迫る大統領選で勝ちたければ、いまアメリカの人々を苦しめている経済の問題を前面に押し出して訴えるべきだ。それが一番だ。

──投票日まであと2カ月、決戦に臨むハリス陣営に忠告しておきたいことはあるか。

思うに、アメリカ国民は今の経済システムに強い怒りを抱いている。なにしろたった3人の大富豪が、国民の下から半分よりも多くの富を手にしているのだから。上の人間はすごく甘い汁を吸い、働く人たちはすごく苦しい思いをしている。ここのところを突いてほしい。

大金持ちが巨額の政治献金をして、お気に入りの候補を当選させ、嫌いな候補は落選させる。こんな政治のシステムにはみんなうんざりしている。共和党系も民主党系も無党派層も、みんなそうだ。

だから、まあハリスへの忠告ということで言わせてもらえば、この国の人たちの現在地から決して目をそらすなということだ。商業メディアの言うことなど気にするな。評論家や大口献金者の言うことなど、気にしちゃいけない。

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