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<体重減少効果が話題の糖尿病治療薬オゼンピック。鬱などの精神科的「有害事象」を引き起こす可能性が、新たな研究で明らかに>
「脂肪を溶かす奇跡の薬」オゼンピックに、科学者らが警告を発している。頻度はまれだが、命に関わりかねない精神症状との関連を示す研究結果が出ているという。
オゼンピックはインスリン非依存型(2型)糖尿病治療薬として開発された皮下注射型の処方薬で、血糖値を下げる効果がある。それが大人気になっているのは、ある副作用のおかげ。体重減少効果だ。
オゼンピックは、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬だ。GLP-1は消化管ホルモンで、食欲や血糖値上昇を抑制する上で重要な役割を果たす。
オゼンピックの成分であるセマグルチドは、GLP-1の作用を模倣して受容体に結合する。それによって、胃の内容物の排出を遅らせて満腹感をもたらし、空腹を感じにくくするため、食べすぎを防ぐことができる。
オゼンピックの姉妹薬で、米食品医薬品局(FDA)が肥満症治療薬として承認した注射剤、ウゴービの有効成分もセマグルチドだ。米ヘルスケアデータ分析企業トリリアント・ヘルスによれば、アメリカでは2020年初めから22年末までに、セマグルチド製剤をはじめとするGLP-1受容体作動薬の処方数が300%増加した。
この「やせ薬」は登場以来、セレブやインフルエンサーに支持され、TikTok(ティックトック)ではハッシュタグ「#ozempic」の再生回数が14億回を超える。
ところが、体重減少目的で使用した場合、セマグルチド製剤には歓迎できない副作用があることが判明している。
副作用に関する研究の大半は消化器系の問題に焦点を当てている。だが医学誌「国際臨床薬学ジャーナル」に発表された新たな研究では、鬱や不安、自殺願望などの精神科的有害事象との気になる関連が浮かび上がった。
「私たちの研究結果は、新たな抗肥満薬が精神衛生上の問題と関連する可能性を浮き彫りにした。医療関係者と患者の双方にとって、非常に重要な意味があると考えている」。論文の筆頭著者で、ジッダ大学(サウジアラビア)臨床薬理学准教授のマンスール・トベイキは本誌にそう語った。
「これらの新薬は、最も一般的に使用される医薬品の1つになっている。私たちの研究が報告した有害事象例は、処方前に患者の精神衛生状態を慎重に評価する必要があると医師に注意喚起するものだ」
処方に際して医療関係者に熟慮を求める
トベイキと共著者のハジェル・エルクートは、欧州医薬品庁(EMA)が運営する有害事象の管理・分析システム「ユードラビジランス」を精査。21年1月~23年5月に報告されたセマグルチド(オゼンピックとウゴービ)、同種の薬剤のリラグルチド(日本での商品名ビクトーザ)とチルゼパチド(商品名マンジャロ)に関する事例を分析した。
それによると、対象期間中の有害事象報告数は3万1444件。精神科的有害事象は計372件だった。
「報告数のうち女性の割合は65%(242件)で、男性は29%(108件)だった」と、トベイキは言う。「自殺行動や鬱に起因する致死事例では、男性が圧倒的多数(9件中8件)を占める。目を向けるべき深刻な問題だ」
裏付けにはさらなる研究が必要だが、今回の結果は処方に際して医療関係者に熟慮を求めるものだ。
「患者の自殺願望・自殺未遂歴の有無を考慮する必要がある」と、トベイキは指摘する。「論理的には、患者に精神的問題があるなら、代替の薬剤や治療法について話し合うべきだ。患者側は、気分や行動に変化を感じたら、医師や保健当局に報告してほしい」
「心疾患リスクの低減など、これらの新薬が持つ効果は危険性を上回ると、私自身は考えている。だが報告事例の種類や深刻度を考えると、潜在的有害性を真剣に受け止めなければならない」
ユニバーシティー・カレッジ・ロンドン(UCL)の精神神経科学教授で、同大学特別フェローのマイケル・ブルームフィールド(トベイキらの研究には関与していない)も、同じ見方をしている。
「副作用の潜在的重症度を考えれば、さらに研究が必要だという著者らの意見に賛成だ」と、ブルームフィールドは本誌に語った。「どんな人が特にリスクが高いのか、どうすれば自分の身を守れるのか、後続研究なしに理解するのは現段階では難しい」
「鬱や自殺願望が以前から存在する場合、こうした潜在的副作用がより起こりやすい可能性はある。だが、答えはまだ分からない」
ただし、精神科的副作用の発生率は極めて低いと、ブルームフィールドもトベイキも強調する。有害事象を体験した「患者に、薬剤使用開始時に精神的な問題があったのかという点もはっきりしない」と、トベイキは話す。「注意深く解釈する必要がある」
英グラスゴー大学のナビード・サター教授(代謝医学)に言わせれば、明確な比較が存在しないため、精神面での影響が薬剤と関連しているのか、それとも単なる偶然かを見極めるのは困難だ。
「同様の特質を持つ人が、非GLP-1治療法を開始した場合の精神科的リスクと比較する基準がない」と、サターは本誌に語る。「一般的に精神症状はまれなため、ある種の比較基準がなければ真実には近づけない。頑健性のある研究をさらに行う必要があるが、科学的クオリティーが高く、確固とした比較が可能な研究であるべきだ」
最近、米ケース・ウェスタン・リザーブ大学医学部が実施した大規模研究で、こうした比較が行われたが、セマグルチド製剤使用後に自殺願望が起こるリスクの上昇は確認されなかったと、サターは指摘する。「同様の研究をさらに実施すれば有益だろう」
「関連性は確認できないとFDAは発表している」と製薬会社
トベイキらの研究結果について本誌は、オゼンピックとウゴービを発売するデンマークの製薬大手ノボ・ノルディスクにコメントを求めた。
「自発的に報告された有害事象のデータ分析は有益だが、固有の限界があるため、関連性や因果関係について結論を出すことは不可能だ」と、同社広報担当者は本誌宛ての声明で述べている。「自殺願望や自殺行動、その他の精神科的有害事象とセマグルチドの関連を示す信頼性のある証拠を、当社は把握していない」
「FDAは先頃、『これらの医薬品の使用が自殺願望・自殺行動を引き起こす証拠は(同局の)予備的評価では見つかっていない』『大規模なアウトカム研究や観察研究を含む臨床試験の評価でも、GLP-1受容体作動薬の使用と自殺願望・自殺行動の関連は確認されていない』と発表した」
「当社は製品の臨床試験や実際の使用に関するデータを継続的に観察し、患者の安全や医療関係者への適切な情報提供を確保するため当局と緊密に協力している」
「用法を守り、資格を持つ医療専門家の監督の下で使用する場合において、ノボ・ノルディスクはセマグルチド、および当社のその他のGLP-1受容体作動薬の安全性と効果を支持している」
これに対し、トベイキは自分たちの研究結果は「適応外」使用をめぐるより幅広い問題を扱っていると主張する。「必要性がないのに、痩身目的で使用するケースが世界各地で発生している。オンラインや違法市場で販売されている偽造品には、有効成分が含まれていない可能性がある。処方箋なしで入手できるものもあり、使用者の健康に重大なリスクをもたらしている」
「これらの医薬品は2型糖尿病や肥満症の治療に有益で効果的だが、医療専門家の監督下に限って使用すべきだと訴えたい。新しい薬なのだから、精神衛生上の問題を含め、あらゆる潜在的副作用を注意深くチェックする必要がある」
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