トランプJr.の存在感が高まっている ANTHONY BEHAR-SIPA USA-REUTERS

<党内で絶大な影響力を持ち、J・D・バンスを副大統領候補にし、ケネディJr.を陣営に引き入れた。父親の信頼は厚いが、人を見る目は...ない>

米大統領選に無所属で出馬したロバート・ケネディJr.が選挙戦から撤退し、共和党候補のドナルド・トランプ前大統領を支持すると表明した。

民主党にはこの動きを警戒すべき理由がある。独立系選挙分析サイトのクック・ポリティカル・レポートの調査によると、ケネディJr.の支持者の約半分は第2の選択肢としてトランプを支持すると言い、民主党候補のカマラ・ハリス副大統領を支持する人は約4分の1にすぎなかった。


一方で民主党が強気になっていい理由もある。ケネディJr.を説得し自陣営に引き込んだのはドナルド・トランプJr.と伝えられているからだ。

トランプの長男であるトランプJr.は父親の顧問を務め、共和党内で絶大な影響力を持つ。一方で共和党の選挙戦をかき回す厄介な存在でもある。

トランプJr.はソーシャルメディアで精力的に自論を発信し、右派のテレビ番組やネットラジオのポッドキャストにも盛んにゲスト出演している。その知名度の高さと人脈を生かし、メディアが注視する重要な選挙では自身が推す共和党候補を猛プッシュしてきた。

そのため彼を共和党の「キングメーカー」と呼ぶ人もいるが、その名がふさわしいかは大いに疑問だ。なぜなら彼が推す候補者は次々に敗北を喫してきたからだ。

共和党内にトランプJr.の影響力が浸透し始めたのは2022年の中間選挙からだ(それ以前に2020年の大統領選挙の結果を覆そうとするバカげた企てにも関与していたが)。

人を見る目はなさそう

2022年の中間選挙は民主党の現職大統領であるジョー・バイデンが不人気だったため、共和党は大躍進のチャンスだった。だが激戦州の知事選で次々に敗れ、連邦議会上院の多数派にもなれなかった。

一連の敗北は息子ではなく父親のトランプのせいだと言われる。確かにそうだが、息子の影響力も無視できない。トランプが陰謀論者と親交を結ぶときは必ずと言っていいほど息子が仲介している。トランプJr.は父親以上に熱心に陰謀論を信奉し、陰謀論者の集会で登壇することもある。

2022年にトランプJr.が推した共和党候補の1人がペンシルベニア州知事選に出馬した陰謀論者のダグ・マストリアーノ上院議員だ。共和党と民主党の勢力が拮抗する同州の知事選は常に接戦になるが、マストリアーノは大差で負けた。

その他トランプJr.が推した過激な候補の惨敗を挙げればキリがないが、最もお粗末な1件はミズーリ州上院議員選の共和党予備選でエリック・グライテンズ元知事を推したことだろう。グライテンズはリベンジポルノ疑惑で不倫相手に訴えられ、知事を辞任した人物。勝ち目がないのは分かりきっていた。

このように人を見る目はなさそうなトランプJr.だが、父親の信頼は厚い。22年にオハイオ州上院議員選に出馬したJ・D・バンスをトランプが推薦したのも息子の働きかけがあったから。この夏トランプがバンスを副大統領候補に据えたのもそうだ。NBCが次のように伝えている。


前大統領が、最近までほぼ無名だったノースダコタ州知事のダグ・バーガムに傾いていると示唆すると、その場が緊迫した。昨年12月に大統領選の候補指名争いから撤退したバーガムは、トランプより目立つ心配はない政治家だ。

すると、トランプJr.と次男のエリック・トランプが声を上げた。「彼らは激怒した。バカげている、彼は何も貢献していない、と。2人はひたすら『JD、JD、JD』という感じだった」と、このときの議論に詳しい共和党のベテラン選挙参謀は語っている。

トランプ前大統領の選挙集会で登壇したケネディJr.(8月23日、アリゾナ州) GO NAKAMURA-REUTERS

劇的な演出に終始する

バンスは副大統領候補としてまれに見るほど人気がなく、本選の頭痛のタネになりそうだ。過去の結果を気にしないという意味では、トランプJr.は2022年のアリゾナ州知事選で敗れたカリ・レイクを11月のアリゾナ州上院議員選で再支持している。同州では大統領選の支持率はほぼ互角だが、上院選はレイクが民主党候補に大差をつけられている。

こうしたことから、ケネディJr.に関するトランプJr.の戦略の弱点が見えてくる。要は、戦略はないに等しい。

前大統領は共和党の従来からの献金者やアドバイザーと頻繁に交流しており、彼らは浮動票にアピールするという名目で、トランプに特定の社会規範や譲歩をのませるときもある。一方、トランプJr.は単なるドーパミン中毒で、集会やオンラインの崇拝と熱狂を大きなうねりにしようと目を光らせている。

このような支持基盤の醸成が、2016年の予想外の勝利を決定づけたことは事実だ。トランプJr.は当時、ネット上のオルト・ライト(新右翼)に対して父親の代理人を務めていたが、彼らの要求と好みは大半が厄介なものだった。

トランプとトランプJr.の下、共和党は直近の3回の選挙で劣勢に立たされた。最も熱心な支持者の間でバズるアイデアが、一般の選挙で最も役に立つとは限らない。

確かにトランプは、ケネディJr.の支持者の離反から利益を得られるかもしれない。しかし、トランプ陣営の対応は、戦略的思考というより、衝撃を与えることと話題性の追求で動いているように見える。CNNによると、トランプJr.がケネディJr.との連携を求めたのは、右派系テレビ局や「保守系インフルエンサー」がケネディJr.を大きく取り上げることにいら立っていたからだという。

ケネディJr.は資金が尽き、選挙活動も既にほとんどやめていた。彼の支持者の一部は、いずれにせよトランプに流れる可能性があった。


しかし、ケネディJr.のような反ワクチン派と並んで立ち、トランプ大統領移行チームの重要な役割をオファーすることによって、トランプは図らずも、自分が「奇妙な」陰謀論を偏愛していることを有権者に思い出させる。

ただ紛らわしいことに、ケネディJr.は自分の支持者に対し、激戦が予想される州の投票用紙から自分の名前が削除されるように努めているが、それ以外の州では自分の名前が投票用紙に残っていれば、投票の選択肢になり得ると語っている。

ケネディJr.の中途半端な支持表明は、世論調査で即座に分かりやすくトランプの数字を押し上げてはいない。トランプJr.の策が好手だったのかどうか、判断するのはまだ早いだろう。もっとも、どんなことも前例のない「初めて」が起きるものだ。

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