地下鉄の構内で揚げ菓子のチュロスを売るメキシコ出身のフェリペさん(右)=米ニューヨークで2024年4月12日、中村聡也撮影

 「チュロ! チュロ! チュロ!」。米ニューヨーク(NY)の主要な地下鉄の駅、グランドセントラル42丁目駅。構内を歩いていると、威勢の良い声が聞こえてきた。メキシコ出身のフェリペさん(50)が、通路の端で揚げ菓子のチュロスを売っていた。値段は3本で5ドル(約760円)。「1日で100ドル以上売れるときもある」と言う。

 メキシコ中西部ミチョアカン州に妻と4人の息子を残し、米国に不法越境して間もなく半年。「故郷では建設作業員で月収は8000ペソ(約7万4000円)に満たなかった。NYは物価が高いが、頑張れば家族にお金をたくさん送れる」と話す。フェリペさんのように地下鉄や街角で菓子を売ったり、料理宅配サービスの配達員として自転車で走ったりしている移民は、今やNYの日常に溶け込んでいる。

 NYは歴史的に移民を受け入れてきた。しかし、ここ2年でその数は急増。2022年春から24年2月時点で、NYに到着した移民は約18万人に上る。背景には、メキシコと国境を接する南部テキサス州が不法越境者をバスで送りつけていることなどがある。多くが、治安の悪化や貧困などから逃れるため自国を離れた亡命希望者とみられる。

 ただ、亡命審査は滞り、NY州のシラキュース大の調査によると、同州では、22年以前の分も含めて累計35万件以上の亡命申請がまだ審理されていない。亡命希望者が労働許可証を申請するにはまず、亡命申請が受理される必要があるが、手続きの遅れが結果的に多数の不法労働者を生み出している。一方で、NYでは移民への不満が高まり、同州のシエナ大の23年8月の調査では、有権者の58%が「移民の流入を抑えるべきだ」と答えた。移民問題は11月の大統領選の争点の一つで、再選を目指すバイデン大統領は増え続ける不法越境者への対応に苦慮し、返り咲きを狙うトランプ前大統領は、移民問題への対応が甘いとバイデン政権への批判を強めている。

 南米エクアドル出身のマルタさん(39)がNYに来たのは4カ月前。労働許可証はなく、地下鉄の構内でチョコレート菓子を1袋2ドルで売る日々を送る。「不法労働だと分かっている。でも生きるにはお金がいる」。首からひもでぶら下げたカゴには商品が詰まっていた。背中には3歳の娘をおぶっていた。

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