今年の国際経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」では、景気低迷の兆しや労働市場の悪化リスクが議論に影を落とし、金融政策の行方に注目が集まった。写真はパウエル米FRB議長、カナダ中銀のマックレム総裁、英中銀のベイリー総裁。ジャクソンホールで23日撮影(2024年 ロイター/Ann Saphir)
今年の国際経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」では、景気低迷の兆しや労働市場の悪化リスクが議論に影を落とし、金融政策の行方に注目が集まった。
米欧の中央銀行は利下げに舵を切っているが、日銀は金融緩和の解除を進める方針を再確認しており、こうした金融政策の乖離や中国経済の低迷継続を背景に、世界経済と国際金融市場が今後も激しい変動に見舞われる恐れがある。
今月は米雇用統計が予想を下回り、米景気後退(リセッション)に対する懸念が浮上。7月には日銀のサプライズ利上げもあり、市場が混乱に陥った。
これまでのところ多くのアナリストは、世界経済が今後数年緩やかに成長するとの国際通貨基金(IMF)の予測を支持している。IMFによると、米経済はソフトランディング(軟着陸)を達成し、欧州の経済成長は上向き、中国経済は低迷から脱する見通しだ。
だが、こうした明るい予測は不安定な土台に上に成り立っており、市場では米経済の軟着陸を疑問視する声や、ユーロ圏経済の腰折れ、中国の消費低迷を懸念する声が出ている。
主要中銀が利下げに向かう中で、これが金融政策の「正常化」なのか、一段の景気減速を回避する第一歩なのかは現時点で判断が難しい。
こうした不透明感を背景に、世界の株式市場や通貨が荒い値動きに見舞われるリスクがある。
IMFのチーフエコノミスト、ピエール・オリビエ・グランシャ氏は「市場はやや未知の領域にあるため、ボラティリティーが再び高まる恐れがある」と指摘。
「日本は若干異なるサイクルにある。市場はそれが何を意味するか理解する必要があり、過剰反応する。このため、さらなるボラティリティーが生じるだろう」と述べた。
成長リスク
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は23日、ジャクソンホール会議の講演で、9月の利下げ開始を示唆。雇用市場の一段の冷え込みは歓迎されないとの見解を示した。
ジャクソンホール会議では、求人数の継続的な減少が失業率の急上昇を招く転換点に近づいている可能性を示す論文も公表された。
欧州中央銀行(ECB)では、物価圧力の緩和に加え、経済成長見通しが大幅に悪化しているため、9月の利下げ実施で意見がまとまりつつある。
ECB理事会メンバーのレーン・フィンランド中銀総裁は「ユーロ圏ではマイナス成長リスクが高まっており、次回9月の理事会で利下げを実施する根拠が強まっている」と述べた。
日本でも需要主導の物価上昇ペースが鈍化しており、日銀の追加利上げに関する決定が複雑になる可能性がある。
元日銀審議委員で慶應義塾大学教授の白井さゆり氏は、内需が非常に弱いとし、経済的な見地から日銀が利上げを行う理由は乏しいとの認識を示した。
中国への懸念
懸念をさらに強める要因となっているのが中国だ。
中国はデフレの瀬戸際にあり、長期にわたる不動産危機に直面している。債務も急増し、消費者・企業マインドは冷え込んでいる。
第2・四半期の国内総生産(GDP)は予想を下回り、中国人民銀行(中央銀行)は先月、予想外の利下げを迫られた。IMFが中国の経済成長予測を下方修正する可能性が高まっている。
IMFのグランシャ氏は「中国は世界経済で大きな役割を果たしている。中国の成長鈍化は世界の他の地域に波及する」と指摘した。
米中経済の減速の兆しがさらに強まれば、すでに需要低迷に見舞われている世界の製造業の先行きが一段と悪化する。
ブラジルなど資源が豊富な新興国は、中国経済の減速で金属や食品の輸出が打撃を受ける恐れがあるが、輸入価格の下落でインフレ圧力が和らぐ可能性もある。
ブラジル中銀のカンポス・ネト総裁はジャクソンホール会議で「差し引きでどのような影響があるかは、減速の程度に左右される」と述べた。
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