8月22日、米大統領選の民主党候補、ハリス副大統領の父親はジャマイカ人、母親はインド人でいずれも移民出身という事実は、米国の人口動態の変化を如実に表している。写真は同日、シカゴで行われた民主党大会で大統領候補指名受諾演説に臨むハリス氏(2024年 ロイター/Brendan Mcdermid)
米大統領選の民主党候補、ハリス副大統領の父親はジャマイカ人、母親はインド人でいずれも移民出身という事実は、米国の人口動態の変化を如実に表している。
民主党大会で大統領候補指名受諾演説に臨むハリス氏は、急速に増加し続けている人種グループの象徴なのだ。
米商務省国勢調査局によると、複数の人種の血を引く「マルチレイシャル」を自認する人々は約4200万人と、全人口の13%を占める。同局が調査を開始した2000年当時、この比率はわずか2%だった。
米国は長らく、世界中にルーツを持つ人々からなる「人種のるつぼ」を自任してきたとはいえ、実際には1960年代に公民権法が成立するまで幾つかの州では人種差別が合法化され、人種間の結婚禁止を定めた法令が全面的に撤廃されたのは1967年だった。
だがそれ以降の社会変化のスピードは速かった。2008年にはバラク・オバマ氏が黒人初の大統領に選出され、ハリス氏が今回の選挙に勝てば黒人女性、そして南アジア系女性として初めての大統領になる。
自由や公正、民主主義を推進する団体「ピープル・フォー・ザ・アメリカン・ウエイ」の事務局長で父親が黒人、母親が白人というスバンテ・ミリック氏は「(人種差別が正式に禁止されてから)50年を経て(オバマ氏に次ぐ)2人目の複数の人種ルーツを持つ大統領を目にすることができるかもしれないというのは素晴らしい」と語った。
そして米国は将来的にはさらに多様化が進むだろう。マルチレイシャルの人々の大多数は年齢が44歳未満で、3分の1は子どもだからだ。
一方、多数派ながら次第に人口比率が低下している白人層の一部は、このような傾向に困惑や怒りなどの感情を向けている。
そうした中で共和党候補のトランプ前大統領が先月、黒人記者のイベントで、これまでアジア系米国人としての面を強調していたハリス氏が突然黒人になったとの虚偽の主張を展開し、批判を呼んだ。
トランプ氏は「ハリス氏はインド系なのか黒人なのかよく分からない。しかし私は両方(の人種を)尊重している」と述べた。
ただハリス氏は両親のいずれの出自もずっと大事にしている。
民主党大会でも、ハリス氏の生まれ育ちは同氏を米国のより良い指導者にする要素になるとの声が聞かれた。
レバノンとプエルトリコ、ハイチの血を引くマクスウェル・フロスト下院議員は「同じ人物にさまざまな経験を有する個性が宿っているなら、それは財産で、ハリス氏が幅広い層の国民のために法整備や権利の主張ができる力を高めてくれる」と強調した。
米国人や文化の多様化が進むとともに、インターネットの世界では白人の極右集団が影響力を増し、「グレート・リプレースメント」と呼ばれる大量移民によって社会が乗っ取られるといった陰謀論を広めている。また一部の共和党議員が力を入れているのは、人種の歴史に関する本の出版や学校での教育を禁じる取り組みだ。
人種ヘイト関連犯罪は年間数千件報告され、連邦捜査局(FBI)の直近データによると2022年には232人の複数人種ルーツを持つ人が標的になった。
人口動態の推移を研究しているダートマス大学のマシュー・デルモント教授(歴史学)は、20年の大統領選でハリス氏が副大統領になり、バイデン政権下で人種差別是正が推進されたにもかかわらず「残念ながら(そうした動きへの)反発が起きる局面に入っている」と述べた。
デルモント氏は、オバマ政権への反感で本格的に登場したこれらの現象は、米国の人口動態の変化におびえる人々の間で盛り上がりをみせたと分析する。
女性有権者にカマラ氏への投票を訴える政治行動委員会「セネカ・プロジェクト」の共同創設者タラ・セトマイヤー氏は、かつての共和党は人種によって異なる法的・社会的な扱いをしない政策を重視していたため、引かれた時期もあったと話す。
しかし現在無党派となった同氏は、不法移民などの問題を巡る最近の一部共和党員の言動は人種差別に根差していると指摘。「これは米国の進化を止めようとする最後のあがきだ。彼らは何か美しいものを失っていると思う」と述べた。
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