中国が軍事拠点化している南シナ海スプラトリー諸島ティトゥ島。滑走路が見える(2023年) REUTERS/Eloisa Lopez

<「自由で開かれたインド太平洋」を守るため多国籍の軍が艦船を派遣する南シナ海で、中国の権益を力で守るために「南沙」と名付けられた「モンスター」>

カナダ海軍の艦船が、南シナ海に中国が造成した人工島付近をパトロール中、世界最大の巡視船である中国海警局の「モンスター船」に出くわした。

【画像】威嚇と排除目的で作られた中国海警5901「南沙」

米海軍協会発行のUSNIニュースが南シナ海の係争海域で8月19日に起きた出来事として伝えた。それによれば、カナダ海軍のフリゲート艦──ミサイルで武装した満載排水量4770トンのHMCSモントリオールはこの海域を航海中、中国が軍事転用を図るスプラトリー(南沙)諸島のスービ礁、ファイアリークロス礁、ミスチーフ礁付近を意図的に通過した。

中国はこれらの岩礁を埋め立てて実効支配し、ここ何年かの間にさまざまな施設を建設してきた。センサー/通信施設、限定的な範囲を守る対空兵器、滑走路、戦闘機用の格納スペース、地下/埋設型倉庫......。軍事施設に埋め尽くされた岩礁は、今や海上の前哨基地と化している。

排水量1万2000トンという桁外れの大きさからメディアや専門家に「モンスター船」と呼ばれる中国海警局の巡視船「海警5901」は、ミスチーフ礁近くでモントリオールに接近した。カナダ海軍の指揮官によれば、双方が海上警備のプロフェッショナルとして冷静な対応を取り、トラブルを回避できたという。

「モンスター船」の正式な船名は、スプラトリー諸島の中国名にちなむ「南沙」。中国は東シナ海と南シナ海で日本やフィリピンなど周辺国の巡視船を蹴散らし、自国の権益を守るために、この威圧的な大型船を建造した。

フィリピン船には何度も接近

巡視船・南沙は全長165メートル、速度25ノット。速射砲、補助砲、対空機関砲を搭載している。耐久性、衝突耐性、耐航性、速度で、他国の巡視船に勝ると、専門家は言う。

米沿岸警備隊の大型巡視船・国家保安カッターでさえ、南沙と比べると小さく見える。アメリカの大型カッターは排水量4700トン、全長約127メートル。違法船舶の沿岸域への接近を阻止する自律型兵器システムを搭載しているだけだ。

中国はいわゆる「九段線」を根拠として、南シナ海における自国の海洋権益を主張してきた。だが、オランダ・ハーグの仲裁裁判所が2016年に下した判決で、九段線は中国が恣意的に引いた破線にすぎないことがはっきりした。それでも中国は自国の管轄権を既成事実化するため、人工島の造成と軍事施設の建設を急ピッチで進め、それらの建造物を守るために南沙を就役させた。

フィリピン沿岸警備隊はこれまでに何度も南シナ海で南沙とあわやのニアミスを経験している。今年6月下旬には、カナダ政府が違法漁業の取り締まりのために開発した人工衛星による監視システムを利用して南沙の動きを10日間追跡したという。

中国海警局はこれについて一切情報を公開していない。本誌は中国外務省と国防省にメールで問い合わせたが、今のところ返信はない。

カナダ海軍のモントリオールはこの夏、中国近海で活動してきた。6月16、17日には米、フィリピンの海軍及び日本の海上自衛隊と南シナ海で共同訓練を行い、その後も3日間、米海軍とこの海域で2国間の「海上協同活動」を行った。

さらにその後、北に向かい、活動の場を東シナ海に移して、7月30日には米海軍のミサイル駆逐艦USSラルフ・ジョンソンと再び2国間の海上協同活動を行い、7月31日に台湾海峡を通過して、南シナ海に戻った。

南シナ海では8月7、8日にも米軍主導でオーストラリア、フィリピンの海空軍が海上協同活動を実施し、モントリオールもこれに参加。その後8月15日にはベトナム南部のホーチミンを訪問し、8月19日に出航した。

モントリオールは現在、「オペレーション・ホライズン」の一環として東アジアの海域に派遣されている。カナダ国防省によると、この作戦は、カナダが平和と安定、国際法に基づく秩序を推進し、自由で開かれた、あらゆる国を包摂するインド太平洋構想に積極的に関与することを示すための前方展開ミッションだという。

【画像】威嚇と排除目的で作られた中国海警5901「南沙」

<中国海警の巡視船・南沙は全長165メートルで世界最大。速射砲、補助砲、対空機関砲で武装し、耐久性、衝突耐性、耐航性、速度に優れる>

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