「全方位外交」を展開するインドのモディ首相が8月23日にウクライナを訪問する。これに先立ち、インドのジャイシャンカル外相が来日し、ロシアによるウクライナ侵攻をめぐる外交姿勢について私たちに語った。インドはどのような外交を展望しているのだろうか。また、知日派でもあるジャイシャンカル外相は「日本企業とインドの間にある問題」についても話した。

モディ首相ウクライナ訪問へ 先月はロシアでプーチン大統領と会談

「グローバルサウス」と呼ばれる新興国などの代表格とされるインド。国境地帯で領土問題を抱える中国への対抗軸として、アメリカや日本との関係を強化している。一方で、伝統的な友好国ロシアからはウクライナ侵攻後も原油の購入を続けるなど、自国の国益を重視する独自の「全方位外交」を展開している。

7月、インドのモディ首相はロシアのモスクワを訪問し、プーチン大統領と会談した。ロシアが同日、ウクライナの首都キーウの小児病院などへミサイル攻撃を行ったことを踏まえ、ゼレンスキー大統領はSNSでモディ氏とプーチン氏が抱擁したことについて、「大きな失望だ。平和への取り組みへの破壊的な打撃だ」と非難していた。

一方で、インド外務省は19日、モディ首相が23日にウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領と会談すると発表した。会談はゼレンスキー大統領が招待したという。ウクライナへの訪問が実現すれば、30年以上前に外交関係が樹立して以来、インドの首相がウクライナを訪れるのは初めてとなる。インド外務省の高官は「画期的で歴史的な訪問になるだろう」と強調した。

モディ首相のウクライナ訪問が和平の実現にどの程度寄与するのかは不透明な部分もあるが、今回の訪問がインドの国際社会における存在感と影響力を一段と高める機会になる可能性がある。

全方位外交を展開するインドはロシアとウクライナについてどのような外交方針を持っているのか。

7月下旬に来日したインドのジャイシャンカル外相は都内で開かれた記者会見で、ロシアによるウクライナ侵攻をめぐり「私たちは当初から、力の行使は国家間の問題を解決するものではないという考えを持っている」と発言した。そして、ウクライナとロシアの間で対話があった時期もあったとしたうえで、「対話外交に立ち戻らなければならない」との立場を表明した。また、「ロシアとウクライナの両国と対話ができる国はあまりない」と、自国の特性をアピールし、和平の実現に向け第三国として支援したいと意欲を示した。

今年7月ロシア・モスクワ インド・モディ首相とロシア・プーチン大統領の会談

モディ首相は7月にロシアを訪問している。プーチン大統領との会談では「明るい未来のために平和が必要だ」と指摘。そのうえで「戦争は解決策にならない。対話こそが必要なことだ」と、ロシアに外交的解決を呼びかけていた。ジャイシャンカル外相の一連の発言は、「武力行使ではなく、対話での解決を目指す」というウクライナ侵攻に対するインドの一貫した外交姿勢を強調した形となる。

インドのこの外交姿勢はロシアとウクライナの和平を実現する助けとなるのか。23日にウクライナを訪問するモディ首相の「成果」に注目したい。

インド外相「日系企業の理解は時代遅れ」アップデートが課題

ちなみに、ジャイシャンカル外相は妻が日本人で、在日インド大使館での勤務経験もあり、「知日派」として知られている。来日した際の会見では、日本について「投資を急速に増やすことが目標だ」と話した上で「1400社の日系企業がインドで活動している。この数を増やしたいと考えている」と意欲を示した。ただ、インドに進出した日系企業の数は2018年に1400社を超えて以降、横ばい状態が続いている。

日系企業の誘致が進まない理由について、インド経済に詳しい専門家は、法制度の運用に不透明な点が多い、州レベルの権限が強く、土地の取得や許認可などをめぐって手続きが複雑で難しいという課題をあげた。また、日系企業の関係者からは「インドでの駐在生活は大変」とぼやく声も聞かれる。

記者が「日本にはインドへの投資をためらう空気があるが、投資促進のためにどのような取り組みが必要だと考えるか」と問うと、ジャイシャンカル外相から「日系企業のインドについての理解は少し時代遅れだ」との答えが返ってきた。「この10年、毎年平均8つの空港が建てられ、約30キロメートルの高速道路が毎日作られている」とし、「10年前のインドではないし、20年前のインドとは大違いだ」と強調。「どうすれば日本の企業の方たちの理解をアップデートできるか、これが私が目指すところだ」と真剣な眼差しで訴えた。

自国の成長のために日本とのさらなる連携強化を目指すジャイシャンカル氏は今後日本を含む各国との関係をどのように構築し、インドの地位を世界で確立させていくのか、動向を注視していきたい。

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