イスラエルの空爆で不毛の地と化したガザ南端のラファ市街(2023年11月13日) Mohammed Talatene/dpa via Reuters Connect

<この戦争を聖書に記されたイスラエルの地を完全支配するための前段階と見なし、パレスチナ人を一掃してメシア(救世主)を迎えるという底なしの狂信主義>

歴史を通じて、危機や悲劇はしばしば終末論的な解釈を引き起こし、世俗的な大惨事に神聖な、あるいは救済的な意味を与えてきた。これは一神教だけでなく、共産主義やナチズムにも見られる。人間は、サタン(悪魔)なしにはメシア(救世主)も存在しないと考えがちなようだ。

この論理がどれだけ危険なのか。それは、今のパレスチナ自治区ガザを見ればよく分かる。ガザで起きている悲劇は、イスラエルやイスラム組織ハマス、そしてアメリカのキリスト教福音派のメシア幻想をあおっている。


イスラエルのネタニヤフ首相とその盟友で極右の宗教シオニスト党の神権的ファシストたちはガザの戦争を、聖書に記されたイスラエルの地(ヨルダン川と地中海に挟まれた地域)を完全支配するための前段階と見なしている。彼らにとってパレスチナ人は、この土地から完全に排除されるべき存在だ。

シオニストが掲げる終末論的な幻想には3つの段階がある。まず、国土を支配下に置く。次に、エルサレムの神殿の丘に「第三神殿」を建設する。そして最後の段階として民主主義を、イスラエル統治を神に任された「ダビデの王国」に置き換える。彼らはこの夢を実現するため、イスラエル政府が国内で民主主義や人権を侵害することを許している。

だが、メシアの到来を実現するには司法改革や入植地の建設だけでは不十分で、混乱や苦しみ、さらには聖書に預言がある終末の「ゴグとマゴグの戦い」が必要となる。イスラエルを根絶しようとする敵との戦いが勃発することで、メシアが到来すると考えられているのだ。一部の狂信的な者たちは、ガザにおける戦争の引き金となった昨年10月7日のハマスによるイスラエル襲撃を、ゴグとマゴグの戦いの始まりと見なしている。

メシア信仰を掲げるユダヤ人と同じような考え方を持つのが、アメリカのキリスト教福音派だ。彼らもガザの戦争を「神の計画を実行する契機になるもの」と見なし、終末を恐れるどころか待ち望んでいる。アメリカの著名な牧師ジョン・ヘイギーは、「イスラエルが大規模な戦争に関与しているときは喜べ。救済が近づいた証しだ」と語っている。

ハマスもメシア信仰のユダヤ人的イデオロギーを鏡写しにしている。1988年制定のハマス憲章では、「パレスチナの地」はイスラムの「ワクフ」(イスラム法の規定に基づく譲渡不可能な寄付)として「ムスリムの将来の世代にささげられる」もので、どの部分も「浪費または放棄」してはならないとされる。ハマスは2017年に発表した「一般原則と政策」でも、「ヨルダン川から地中海までのパレスチナの地の全面的かつ完全な解放以外のいかなる代替案も拒否する」と改めて表明している。

ハマスには通常のジハード(イスラム聖戦)組織とは異なる特徴がある。昨年10月のイスラエル襲撃では、過激派組織「イスラム国」(IS)などのテロ集団が使うような残虐な戦術を用いたが、ISや国際テロ組織アルカイダとは違って純粋に民族主義に駆り立てられた運動であり、世界規模の計画もない。

しかし先頃、ヤヒヤ・シンワールがハマス最高幹部の政治局長に任命された。これは強硬派がハマスの実権を握ったことを意味する。シンワールの下でハマスは、戦争と自己破壊を救済への唯一の道と見なすだろう。イスラエルとアメリカの宗教的狂信者たちも、その願望を共有している。


この聖なる地をめぐる終末的な闘争の脅威は、何としても外交で緩和すべきだ。さもなければ、狂信者たちの願いが達成されることになりかねない。

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シュロモ・ベンアミ
SHLOMO BEN-AMI
イスラエル元外相。世界各地の紛争解決を目指す「トレド国際平和センター」副所長。著書に『戦争の痕、平和の傷──イスラエルとアラブの悲劇』がある。

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