ウクライナ軍の侵攻を受けて、軍幹部や地方幹部と会議をするプーチン(8月14日、モスクワ郊外)REUTERS/Viacheslav Ratynskyi
国境周辺にウクライナ軍が集結しているという情報がありながら、現地の治安部隊は何もしなかった。プーチンは側近を「監視役」としてクルスクに派遣したが、この部隊を立て直せるのか
ロシア西部のクルスク州でウクライナ軍の進撃が続く中、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は側近のアレクセイ・デュミンに自軍の防衛体制を監視するよう命じたと報道されている。
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これについて米シンクタンクは、ウクライナの越境攻撃を防げなかった軍と国防省の上層部の責任を追及し、処分する狙いがありそうだと指摘している。
シンクタンク・戦争研究所(ISW)の分析によれば、プーチンはウクライナ軍の戦術と意図を知らされなかったことについて、「どういう経緯で、なぜ、自分は騙されたのか」突き止めようとしているという。
ISWによれば、ロシアの軍事ブロガーの間では、監視役のデュミンは「複数のロシア高官と指揮官の運命を決める」ことになるとの「憶測」が飛び交っている。
ISWの分析は、クルスク州選出のロシア下院議員ニコライ・イワノフの発言を受けて発表された。同議員は8月13日、ロシアのテレビ局RTViの取材に応じ、独自ルートで確認した情報として、プーチンの警護官を務めたこともあるデュミンが、クルスクにおける「対テロ作戦遂行の監視を命じられた」と述べた。
上層部のクビのすげ替えも
「目下の急務はクルスク地域に侵入したウクライナ軍を駆逐することだ」と、イワノフ議員はRTViに語った。8月6日に始まったウクライナ軍の越境攻撃は、プーチン政権にとっては寝耳に水の奇襲だったとみられる。
プーチン政権はデュミンの起用を公式には認めていない。本誌はロシア国防省にメールで確認中だ。
デュミンは警護官時代にプーチンをクマの襲撃から守った人物で、クレムリンの要職を歴任し、プーチンの後継者とも目されている。IWSによれば、そのデュミンが監視役に起用されたことから、プーチンは軍や国防相のトップに失望したのだろうと、ロシアの軍事ブロガーや政治コメンテーターは憶測しているという。
近々軍事・政治部門の上層部の大幅なクビのすげ替えがあるはずだとも噂されているらしい。
ISWによれば、この1週間、治安部隊がモスクワの介入なしにはまったく事態を収拾できなかったことから、デュミンとその他の「プーチンの男たち」がクルスクを完全にコントロール下に置くのだろうというのが、クレムリンにコネがある軍事ブロガーらの見立てだ。
加えてプーチンは、クルスク州の情勢について正確な情報が伝えられなかったことで、配下の人間に「騙された」と感じており、その理由や経緯を探るためデュミンを監視役にしたと、軍事ブロガーらは指摘。デュミンの報告しだいで、何人かの政府高官と指揮官のクビが飛ぶともささやかれている。
ロシアの軍事ジャーナリスト、アレクサンドル・スラドコフは13日にメッセージアプリ・テレグラムへの投稿で、デュミンは「プーチンの懐刀」であり、「直接的にも間接的にも大統領を騙すような行為を決して許さないだろう」と警告した。
デュミンの起用をめぐり、さまざまな憶測が飛び交う一方で、ロシア軍のバレリー・ゲラシモフ参謀総長は非難の矢面に立たされている。
ロシア情報当局はウクライナ軍が同国北東部スームィ州の国境地帯に兵力を結集し、越境攻撃を準備していることを察知して、警告したにもかかわらず、ゲラシモフが対応を怠った、というのだ。
ニュースサイトのブルームバーグは8日、クレムリンに近い匿名情報筋の話として、クレムリン高官はゲラシモフの対応に不満を募らせていると伝えた。
先週、ウクライナ軍がクルスク州の集落を次々に掌握し、制圧地域を広げる中、テレグラムのロシア人チャンネルではゲラシモフの「無能ぶり」を非難する声が渦巻いた。
アメリカは関与せず
ウクライナ軍は越境攻撃開始から1週間足らずで、ロシア軍が今年初め以降に獲得したウクライナ領内の占領地域よりも広大な地域を支配下に置いたと伝えられている。
ウクライナ軍のオレクサンドル・シルスキー総司令官は自軍が作戦を展開するクルスク州内の地域は12日までに1000平方キロを超えたと発表した。
ジョー・バイデン米大統領は13日、ウクライナ軍の越境攻撃は、プーチンに「深刻なジレンマ」をもたらしたと述べた。「戦闘が続く今の状況で、私に言えるのはそれだけだ」
カリーヌ・ジャンピエール米大統領報道官は、アメリカはこの作戦に「全く関与していない」と記者団に語った。
「私たちは一切関わっていない。ウクライナ側とは彼らのアプローチについて引き続き話し合うが、質問があるなら、彼らに聞いてほしい」
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