ウクライナ軍がロシアのクルスクやベルゴロドに侵攻した件で軍や安全保障トップと会議を開いたプーチン(8月12日、モスクワ郊外) Sputnik/Gavriil Grigorov/Kremlin via REUTERS
ウクライナ軍に領土を奪われ住民を退避に追い込んだロシア軍は、このままでは国境を守る力がない無能な軍として国民の不興を買う。プーチンも同じだ
ウクライナ軍がロシア国境地帯のクルスク州に進軍を続けるなか、ウクライナはロシアからの「とてつもなく大きな」反撃に備えている。
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ウクライナ国防当局のある高官(匿名)は英タイムズ紙に対して、「ロシアはきわめて厳しい対応を取らざるを得ない。国際社会に対して、ロシアは全能でありクルスク州への攻撃のようなことをすれば必ずその罰を受けると示すような対応だ」と述べた。
8月6日、ウクライナ軍は同国北東部のスーミ州から国境を越えてロシア西部のクルスク州に入り、攻撃を開始。すぐに複数の地域を制圧した。ロシア側にとってこれは、約2年半前にウクライナとの全面戦争が始まって以降、最も本格的な越境攻撃だ。
ロシア政府はこれまで国民に対し、これまでウクライナ軍の侵略を阻止してきたのはロシア軍だと述べてきたが、ロシア政府の11日の報告は、ウクライナとの国境から最大30キロ入った地点にあるオプシチー・コロデツを含む複数の集落で戦闘が行われていることを示唆している。
ロシア国防省は12日、ウクライナ軍が前日にオプシチー・コロデツの東にある集落カウチュク周辺を「突破」しようと試みたと発表。ロシア軍が、ウクライナ軍の戦車1両と(アメリカから供与を受けた)ブラッドレー歩兵戦闘車8両を破壊したと明らかにした。本誌はこの情報について、独自に確認を取ることができなかった。
クルスク州で28の集落を制圧
ソーシャルメディア上には、ウクライナ軍の兵士たちがクルスクの集落にあるロシア国旗を引き下ろし、ウクライナ国旗と取り替える様子とみられる動画が出回っている。
ロシア政府はまた、国境地帯の複数地域でウクライナ軍撃退のための「対テロ作戦」を展開している。作戦を率いるのは、ソ連時代のKGB(国家保安委員会)の後継組織であるFSB(連邦保安局)だ。
米シンクタンクの戦争研究所は11日、ウクライナ軍が過去数日でクルスク州の西部と北西部に進軍した可能性が高いと述べた。
クルスク州のアレクセイ・スミルノフ知事代行は、12日のウラジーミル・プーチン大統領との会議の中で、ウクライナ軍が州内の28の集落を制圧し、これらの集落の住民2000人が行方不明になっていると報告した。
またスミルノフは、クルスク州の国境地帯からは約12万1000人が避難たとも述べた。隣接するベルゴロド州のビャチェスラフ・グラトコフ知事も、地元当局が国境地帯近くに暮らす住民の避難を開始したと明らかにした。
ロシア当局は今回の事態に「かなり困惑しており、領土の喪失と民間人の避難は、ロシアに自衛能力がない証拠としてロシア国内で不評を買うだろう」と、英シンクタンク「王立統合軍事研究所(RUSI)」の軍事科学担当ディレクター、マシュー・サビルは、指摘した。
プーチンは先週、ウクライナによる越境攻撃を「大規模な挑発行為」と称し、12日には、「われわれの領土から敵を追い出す」べきだと述べたと、ロシア政府は発表した。
ウクライナの政府当局者たちは今回の越境攻撃について概ねコメントを避けているが、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は10日、一連の攻撃は「戦争を侵略者の領土に押し出すための行動」だと、初めて越境攻撃を認めた。
作戦の具体的な目的は依然としてはっきりしないが、一部には、クルスク州への進軍はウクライナにとって、和平交渉にあたって立場を有利にするための材料だと推測する声もある。
あるいは、ロシア国民に戦争がロシアのすぐ近くで行われていることを強く認識させる一方で、ロシア政府に対しては、ウクライナ東部の激戦地から越境地域に軍資産を分散引させる効果も期待できる。
ウクライナのある政府関係者(匿名)はAFP通信に対して、「越境攻撃の目的は敵の戦力をできるだけ分散させて最大限の損失を与え、ロシアが自国の国境を守れないことを示して国内を不安定化させることだ」と語った。
こうした見方に対しロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官は11日、ウクライナによる越境攻撃はロシアの民間人を怯えさせることが目的であり、「軍事的な観点からは全く意味をなさない」と反論。
テレグラムへの投稿でさらに、「近いうちにロシア軍が厳しい対応を取るだろう」とつけ加えた。
報復は「数発のミサイルでは済まない」
前述の匿名の情報筋はタイムズ紙に対して、ロシア軍による報復は「ミサイル数発では済まない」だろうと指摘。ロシアは数百発の巡航ミサイルや弾道ミサイルを発射する可能性があり、また戦争初期からウクライナを脅かしてきた悪名高い自爆型ドローン「シャヘド」を使用する可能性もあると示唆した。
ロシア軍による大規模な空爆は既に始まっている。ウクライナの当局者らは11日、首都キーウへの夜間のミサイルおよびドローン攻撃で、男性とその4歳の息子が死亡したと発表した。
ウクライナのオレクシー・ゴンチャレンコ議員は本誌の取材に対して、ウクライナの各都市は大規模な爆撃には慣れていると述べ、「特別な報復があるとは思わない」と予想する。
ロシアはキーウなどウクライナ国内への攻撃を少し増やす可能性があるものの、スーミ州に攻勢をかけたり、ウクライナ東部の前線にこれまで以上に圧力をかけたりする可能性は低そうだと述べた。
だがウクライナ軍の元特別顧問で現在はアメリカン大学キーウ校の学長を務めるダニエル・ライスは、ロシアが民間人の多い場所への攻撃を増やしたり、滑空爆弾でウクライナを攻撃したりする可能性があると本誌に語った。
ただし、ロシアの軍用機がこれらの爆弾を投下するには、ウクライナの携帯式地対空ミサイルや、新たに配備された長距離空対空ミサイルを搭載したF16戦闘機を相手に戦わなければならないと指摘した。
キングズ・カレッジ・ロンドン戦争学部の博士課程を修了し現在は研究員のマリーナ・ミロンは、ロシアにとってのもう一つの選択肢として、クルスク州での戦いを敢えて続けることも考えられると指摘。ロシアに侵攻しているウクライナ地上軍を殲滅するためだ。
一方で、ロシアはウクライナ東部ドネツク州の要衝であるポコロフスクやその他の地域に向けてゆっくりと、だが着実に攻勢を強化する戦略をとる可能性が考えられるとミロンは言う。
ウクライナ保安庁の元職員イワン・ストゥーパクは、ロシア政府の高官たちがクルスク州攻撃への報復として、直接的な反撃を行う必要があるだろうと本誌に述べた。
いずれにしろ、最終的にロシアは、ウクライナを支援し武器の供与を行っている西側諸国に強力なメッセージを送りつつ、NATOとの関係のさらなる悪化を回避するという「きわめて難しい選択」に直面することになると、ミロンは指摘した。
【動画】クルスク州に入ったウクライナ兵
・クルスクの建物にウクライナ国旗を立てようとするウクライナ兵
A video has appeared online showing a Ukrainian flag being installed in (reportedly) Guevo village, Kursk region. pic.twitter.com/qeXnTJJ9no
— Anton Gerashchenko (@Gerashchenko_en) August 11, 2024
・クルスクの建物のロシア国旗を引き摺り下ろすウクライナ兵
Ukrainian infantry take down the Russian flag from the Sverdlikovo town council building, Kursk Oblast. pic.twitter.com/LOrHhImnLJ
— OSINTtechnical (@Osinttechnical) August 10, 2024
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