中国・西安市で伝統衣装を着て観光を楽しむ若者たち=2024年7月30日午後4時35分、河津啓介撮影

 景気の停滞が長引く中国で広がる「節約」志向の影響は夏休みの旅行にも波及しているようだ。消費者の財布のひもが固くなる中、観光業界には「量で稼ぐ」傾向が鮮明になり、海辺のリゾート地は業績悪化に悲鳴を上げている。

 新学年が秋から始まる中国では、夏休みは卒業旅行の時期でもある。国内有数の観光地・陝西省西安市を訪ねると、家族連れや若者グループで混雑していた。長安の都として栄えたこの街は兵馬俑(へいばよう)や大雁塔(だいがんとう)など歴史的な名所が多い。旅行者の間では伝統衣装を着て「映える」写真を撮影するのがブームになっていた。

 中国政府によると、国内の旅行市場は新型コロナウイルス流行前の2019年の水準に回復したとされる。だが、活況を呈しているように見える業界の内実には異変が起きていた。

 「量は増加し、価格は下がる」。中国紙「中国証券報」は夏休みの旅行市場のトレンドをそう解説した。同紙が引用した旅行会社のデータによると、夏休みの国内の観光需要は旺盛な半面、航空チケット価格は前年より6%低下、宿泊費は8%低下した。別のメディアは、地域によっては宿泊費が2割程度下がったと伝えた。

 国際的なホテルチェーンの業績報告でも、東南アジアや日本の好調ぶりとは対照的に、中国市場の低迷があらわになっている。景気の停滞によって、中国の消費者がコストパフォーマンス(コスパ=費用対効果)をより重視するようになったためだとみられる。

 旅行の目的地を見ても「節約」志向がうかがえる。国内では、地方の町や村を訪ねるコスパ重視の旅を楽しむ人が増え、海外旅行では日本や東南アジアのような近場がランキング上位を占める。

 こうした中、「中国のハワイ」と呼ばれるリゾート地、南部・海南島のホテルやレストランの業界団体が「共に苦難を乗り越え、前に進もう」と呼びかける内部文書を出していたことが報道で明らかになった。

 文書は「大部分のホテルや飲食業者が過当競争や客の減少、恒常的な赤字という厳しい境地に追い込まれている」と窮状を吐露。一部業者がリストラや給与カットに踏み切っているが、「こうした決断は企業の生存のためにやむを得ない措置だ」と理解を求めた。

 悲壮感漂うこの文書について報じた中国英字紙「チャイナ・デーリー」は、識者の見方として「市場が縮小する現状では、経営努力が足りないホテルは低価格競争で生き残りを図るほかない」状態にあり、今後、業界内の淘汰(とうた)が進むと伝えた。【西安市で、河津啓介】

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