ドイツ語の問題を解くサイードさん(仮名)=ベルリンで2024年8月2日午後2時26分、五十嵐朋子撮影

 ドイツ語を勉強し始めてまだ7カ月だというのに、かなり流ちょうだ。ドイツの首都ベルリンに暮らす、アフガニスタン出身の26歳、サイードさん(仮名)。「英語を勉強したから(文法などが似ている)ドイツ語は理解しやすい」。涼しい顔でそう言うが、上達の速さには理由があった。

 サイードさんは難民申請中の身だ。2021年夏、母国でイスラム主義組織タリバンが復権する2週間前に出国した。父親が政府で働いており、身の危険を感じたからだ。ある日、タリバン兵が家に来て父とサイードさんがいないかを尋ねた。2人とも不在だったが、家にいた父の叔父が連れて行かれ、後に射殺された状態で見つかった。サイードさんは父に出国を促され、父自身も身を隠した。

 イラン、トルコ、ブルガリア、セルビア……。サイードさんは「ドイツに行けば助けてもらえる」との父の言葉を支えに、密航業者を頼って徒歩や車で旅を続け、2年以上かけてドイツにたどり着いた。難民申請が半年以上受理されていないのは気がかりだが、「ここでは安全だと感じられる」。身を寄せている申請者用の施設は狭い相部屋だが、食事が提供され、毎月約200ユーロ(約3万2000円)の生活費が支給される。「いつまでも政府に養われる立場でいたくない。働くために語学も身につけたい」

 移民や難民の受け入れに寛容だったドイツだが、世論や政府の方針に変化が起きている。24年5月には、西部で開かれた反イスラム集会で、アフガニスタン人の男性が参加者を刃物で襲撃する事件があり、警察官が死亡した。政府は人権侵害の恐れが高いアフガニスタンやシリアに難民申請者を強制送還しない方針を取っているが、事件後、ショルツ首相は見直しに言及。政府内で議論が続いている。

 この事件の前には、北部でパーティーに集まった若者たちが「外国人は出て行け」と合唱する映像がネット交流サービス(SNS)で拡散された。そんな情報に触れると「落ち込む」と漏らすサイードさん。「ドイツに溶け込むことを目指している外国人もいると理解してほしい」

 アフガニスタンに残っている家族をドイツに呼び寄せたい。この社会が拒否しないことを、サイードさんは願っている。

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