「民主主義は偉大」と訴える反極右デモの参加者(ベルリン、2月) SEAN GALLUP/GETTY IMAGES
ヨーロッパでは、米大統領選でのトランプ勝利を望む極右・民族主義政党が多く、しかも躍進している。アメリカの選択のヨーロッパへの影響を軽視してはならない
リベラルな民主主義の運命が、2024年に大西洋を挟んで行われる2つの選挙で決まることは、しばらく前から明らかだった。6月の欧州議会選と11月の米大統領選だ。
欧州議会選では反EUを掲げる極右政党の圧勝が懸念されていたが、現実にはならなかった。だがヨーロッパでもアメリカでも、リベラルな民主主義が危機に瀕しているという不安は拭い去られていない。
EUは今回の選挙で最悪の事態を免れたが、極右政党はフランスとドイツで大きく躍進した。どちらも経済が最大で政治的に最も重要な2つの加盟国である。
ドイツでは極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が第2党となり、中道右派のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が第1党を維持。フランスでは極右の国民連合(RN)が第1党となったため、マクロン大統領は国民議会(下院)を解散し選挙に打って出た。決選投票の末、左派連合の新人民戦線(NFP)が最多議席を得たが、過半数には届かなかった。
トランプ勝利が終わりの始まり
議会が空転すれば、フランスは麻痺し、ヨーロッパに致命的な結果をもたらす。ドイツだけでは、より危険な世界で主権を確保するというEUの目標を達成できない。
一方、大西洋の向こうでは政治のハリケーンが発生している。アメリカではバイデン大統領がついに大統領選を離脱し、ハリス副大統領が民主党の後継候補となることが確実視されている。だが世論調査を見れば、共和党の候補者であるトランプ前大統領がホワイトハウスに返り咲く可能性は十分にある。そうなればヨーロッパと、広く西側諸国に大きな影響を与えるだろう。
これは、西側の民主主義を支える中核的な価値観や制度に関わる問題だ。アメリカがリベラルな民主主義から「非リベラル」な方向へ転換すれば、ヨーロッパにはアメリカの変化を称賛する人々が大勢いる。そして、アメリカがヨーロッパの情勢に及ぼす影響力を過小評価してはならない。
第2次トランプ政権は、アメリカをリベラルな民主主義国から、彼が独裁的、権威主義的な衝動を好き勝手に発揮できる国へ永久に変えるためにあらゆることをするだろう。トランプは敵やライバルに寛容さを示さず、三権分立や憲法に全く関心がない。
トランプの勝利を望むのはロシアのプーチン大統領だけではない。全ての極右・民族主義政党も同じだ。彼らは自国にも同様の変化がもたらされることを切望している。
三権分立、自由で公正な選挙、法の支配、少数派に対する憲法上の保護、表現の自由といった基本的権利を特徴とする西欧の自由民主主義は、第2次大戦とその後の冷戦におけるアメリカの勝利の結果だ。アメリカがリベラルな民主主義の原動力と模範としての役割を放棄するなら、リベラルな西側諸国、とりわけヨーロッパが危うくなる。
トランプが勝利すればヨーロッパ中で極右・民族主義政党を後押しすることとなり、アメリカがウクライナ支援を打ち切ればロシアは有利になる。EUの取り組みは大きな危機を迎える。ヨーロッパがナショナリズムに逆戻りすれば、私たちは自らの運命を決定し、子や孫のために平和と自由を確保する最後のチャンスを無駄にする。
大国間の対立、グローバルサウスの台頭、先進国の少子高齢化による経済の弱体化、新たな技術革命──そうした地政学的な環境の変化を考えれば、ヨーロッパが明日の世界を形づくるチャンスは今しかない。
11月5日の米大統領選には、多くのことが懸かっている。ここリベラルなヨーロッパで私たちが知る世界は、11月6日の朝に消えているかもしれない。
©Project Syndicate
ヨシュカ・フィッシャー
JOSCHKA FISCHER
左翼活動家から政治家に転身。ドイツ緑の党の中心人物として、ヘッセン州環境・エネルギー相などを歴任した後、シュレーダー政権では連邦外務大臣兼副首相を務めた。
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