生き残るのは伝説だけ?── 昨年マリで死んだワグネル創設者プリゴジンの誕生日に当たる6月1日、その墓の上に公開された銅像と戦闘員たち(ロシアのサンクトペテルブルク) Artem Priakhin / SOPA Images

<アフリカ諸国の政府に安全保障サービスを提供するのと引き換えに資源の採掘権を得てきたロシアだが、ワグネルの弱体化で今後は売り込みが難しくなりそうだ>

ロシアの民間軍事会社ワグネル・グループの部隊が、西アフリカのマリで少数民族トゥアレグ反乱軍による待ち伏せ攻撃を受け、兵士数十人が死亡した。この事件を受けて、アフリカの軍事政権は、これまで通りロシアの保護を求めることを考え直すのではないかと、ある警備のプロは指摘する。

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ワグネルは軍事政権誕生後の2021年にマリに入国し、それ以来駐留を続けている。ブルキナファソやニジェールなど他の西アフリカ諸国ともつながっているとされ、資源の採掘権と引き換えに、クーデターの脅威から軍事独裁政権を守る警備サービスを提供していると言われている。

昨年、創設者のエフゲニー・プリゴジンがウラジーミル・プーチンに対する反乱の末、飛行機事故で亡くなった後、ロシア政府は新たな準軍事組織「アフリカ軍団」を立ち上げて、ワグネルの部隊を管理下におき、その事業を引き継いでいる。

中東・アフリカの安全保障およびインテリジェンスを専門とするイギリスの警備会社パンゲア・リスクのロバート・ベッセリング最高経営責任者(CEO)は本誌の取材に対し、同社は過去1年間、西アフリカ、特にマリで、ロシアの準軍事組織における死傷者の増加、戦場での戦略的失策、ロシアの軍用ハードウェア損失に関する動向を監視してきたと語った。

高額の契約に見合わない

今回の待ち伏せ攻撃が起きたのは、アルジェリアとの国境に近いティンザワテン村の郊外。ロシア人傭兵とマリ人関係者少なくとも80人が殺害され、少なくとも15人が誘拐されたと、ワグネルと関係のあるブロガーが報じている。

マリの軍事政権と敵対する「平和・安全・開発のための恒久戦略枠組み」(CSP-PSD)は、イスラム過激派勢力の支援を受けてこの作戦を実行したと明らかにした。

ベッセリングは、ロシアのアフリカ軍団が昨年の相次ぐ脱走と予算削減に続いて軍事的敗北を喫したことは「ワグネル・グループの能力の衰えを示している」と述べた。

「ロシアのアフリカ軍団が大きな敗北を喫したことで、ロシアはアフリカの軍事政権に安全保障サービスを輸出することが難しくなった。西アフリカ以外のアフリカでロシアの準軍事サービスを契約している国が少ないのは、そのためだろう」と、ベッセリングは言う。

「ロシアの準軍事組織との契約には鉱物の採掘権を与えるなど高いコストが伴う。その上人権侵害は日常茶飯事で、現地武装勢力との戦闘実績も低いことから、アフリカでもその他の地域の国でも、安全保障をロシアに依頼するケースは減るだろう」

アフリカ諸国政府が安全保障上の同盟関係をロシア以外の国に求めるとすれば、「トルコやアラブ首長国連邦のような警備新興国が、より多くの軍事・防衛契約を獲得するようになるかもしれない」と、ベッセリングは付け加えた。

アメリカのシンクタンク戦争研究所(ISW)は29日、ロシア国防省はマリでのワグネル部隊の敗北を利用して、ワグネルの傭兵部隊をアフリカ軍団の他の部隊に置き換えていく可能性があると述べた。アフリカ軍団は去年12月の時点で、指揮官を含む構成員のうち、およそ半分がワグネルの元メンバーであることを公表している。

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