オゾーキー郡民主党幹部のデブ・ダッソウ DAN KOISーSLATE

<歴史的に共和党が強いウィスコンシン州の郡部で4年前はバイデンを選んだ人々のハリスへの反応>

グレーの短髪にカラフルなワンピースと大ぶりのネックレス。デブ・ダッソウは、いかにも「アメリカ中西部のママ」といういでたちの女性だ。長年高校で教壇に立ってきたダッソウは、今は引退してウィスコンシン州オゾーキー郡民主党支部の議長を務めている。

7月21日にジョー・バイデン米大統領が11月の次期大統領選への出馬を取りやめると発表した翌朝、ダッソウのオフィスを訪ねると、「バイデン&ハリス」の掲示板が所狭しと積まれていた。「これ全部、どうするつもりですか」と聞くと、彼女は「聞かないで!」と、筆者の腕を小突いて笑った。

商都ミルウォーキーのすぐ北側に位置するオゾーキーは、ワシントン郡とウォーケシャ郡と並び、同州のあらゆる選挙を左右する3つの郡の1つだ(その頭文字を取って「WOW郡」と呼ばれる)。いずれも歴史的に共和党が強かったが、今は違う。

アメリカの地図は、共和党が強い地域は赤、民主党が強い地域は青で描かれるが、過去4回の大統領選では、両党候補の得票差が縮小してきたWOW郡は紫色がふさわしい。

ダッソウが住むシダーバーグ市は、このトレンドの最先端を行く。人口1万2000人のこの町は、2020年大統領選のとき、19票差でバイデンを選んだのだ。民主党の大統領候補が勝利したのは、実に1936年以来のことだ。

実は筆者の母も、この絵のように美しい町に住んでいる。そこで今年の大統領選のカギを握る(と思われる)この町で、カマラ・ハリス米副大統領がバイデンに代わり民主党の大統領候補になることへの感想を聞いてみることにした。手法は簡単。地元の民主党と共和党の幹部に話を聞くこと、そして町の目抜き通りであるワシントン大通りで、すれ違う人に片っ端から意見を聞くことだ。

ダッソウのオフィスは6月27日、第1回大統領候補テレビ討論会を視聴するイベントを開いた。バイデンの言動が弱々しくて、大統領候補交代論が一気に噴出するきっかけとなった討論会だ。ダッソウによると、翌日、戸別訪問をする予定だったチームのうち4つが休みを取った。

「でも、今は盛り上がっている」と、ダッソウは言う。ハリスへの交代がはっきりした23日は、ボランティアの登録数が史上最多レベルに達したという。「(次の世代に)バトンを渡すというバイデンの決断は愛国的だ。民主党はリーダーが末端の支持者の声に耳を傾ける党なのだ」

トランプの名前は禁句?

これを機に、シダーバーグだけでなく、オゾーキー全体で民主党の勢いが増していくことをダッソウは願っている。

その助けになりそうなのは、人口動態の変化だ。「昔のようにドイツ系やベルギー系、ルクセンブルク系ばかりではない。それが選挙の結果を変えている」と彼女は言う。

20年大統領選で、僅差とはいえバイデンがシダーバーグを制したことは、左派を大いに勢いづけたと、ダッソウは考えている。「勝利がさらなる勝利につながる」

母の自宅と同じ通りにあるハンバーガー店には、地元共和党の幹部2人が集まっていた。ハリスが民主党の大統領候補になっても、「同じようにやるだけだ」と、地元支部の第1副議長で元チーズ会社重役のリック・スターンハーゲンと、金融機関に勤めるメリッサ・アブラモビッチ第3副議長は声をそろえる。

シダーバーグ市共和党幹部のメリッサ・アブラモビッチ(左)とリック・スターンハーゲン DAN KOISーSLATE

ダッソウが快活でユーモアたっぷりだったのに対して、共和党幹部はビジネス界出身のお堅い人たちという印象だ。「(民主党政権の)お粗末な政策や提案を強調していく」とスターンハーゲンは言う。「ずっとこの方針でやってきた。劇的な変更が必要だとは思わない」

とはいえ、共和党にかつてのような圧倒的強さがないことを2人は認める。「大学教育を受け、成功したホワイトカラーの人たちが、結婚して子供が生まれたのを機に都会から引っ越してきている」とスターンハーゲンは言う。「それが(選挙結果に)違いをもたらしている」

どちらも共和党の大統領候補であるドナルド・トランプ前大統領の名前を口にしなかったことに気が付いたのは、2人と別れた後だった。

シダーバーグの軽食店でハッシュドポテトを食べながら、母は、「バイデンに頑張ってほしかった」と語り出した。「ABCの朝の情報番組『ザ・ビュー』を見ていたら、司会者の女性の1人が、『カマラ・ハリスで(トランプに)勝てるのか、とても心配だ』と言っていた。『女性だし、黒人だから』とね」

「でも、今はカマラが大統領候補になったことに興奮している」と、母は気を取り直したように言った。「ただ、(ハリスは)ろくでもないことを言われるでしょうけどね」

「とにかくバイデンよりまし」

ワシントン大通りで出会ったシダーバーグの住民たちは、見知らぬ男に政治の話をすることに驚くほど意欲的だった。共和党支持者は、ハリスについて総じて批判的だった。「副大統領として何もしていない」「リーダーの経験がない」「頭が悪い」「私のほうがまだましな副大統領になれる」といった具合だ。

ワシントン大通り DAN KOISーSLATE

一方、民主党支持者の反応は、安堵と慎重な楽観論が入り交じっていた。「ワクワクしているとまでは言わないけど、バイデンよりはいい」と、買い物袋を抱えた女性は言った。フォルクスワーゲンから降り立った男性は、「(ハリスが)どんな考えを持っているのかあまり知られていないが、希望を感じる」と語った。

バーゲン商品を物色していたインド系の女性は、「素晴らしい大統領候補のように感じる」と言い、「有罪を言い渡された犯罪者じゃないしね」と、トランプを皮肉った。

駐輪していた自転車を動かそうとしていた若い女性2人に声をかけると、「(ハリスのことは)よく知らない」と1人が言った。「テレビを見ないし」。「私も中立的という感じ」と、もう1人が言った。

ところがその後、2人は「待って」と自転車で筆者を追いかけてきた。「私たちキャンプに行っていて、ニュースを知らなかった。(ハリスが)大統領候補になったの?」

そうなりそうだと答えると、1人目の女性が「さっきの返事を変更したい」と言った。「同感。なんだか希望を感じる」と、もう1人。「新しい答えは」と、最初の女性が言った。「めちゃくちゃ最高」

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