断頭台のマリー・アントワネットの演出も、「ギロチン美化」と批判を浴びた(7月26日、パリ・オリンピック開会式) Bernat Armangue/Pool via REUTERS

<テーマは「包摂」、「多様性」。「最後の晩餐」冒涜説をとって憤慨する一部のキリスト教徒たちは、反LGBTQ感情に煽られているのではないかと指摘する牧師たちもいる>

パリ・オリンピック開会式の一場面がレオナルド・ダ・ビンチの名作「最後の晩餐」のパロディーを演じたとして保守派から非難されている件について、2人の聖職者が公に反論した。あの場面は、キリスト教とは関係がなく、ギリシャ神話のディオニュソスの饗宴を描いたものだという。

【画像】「最後の晩餐」ではなくオリュンポスの神々だ、という説も

オリンピック開会式は7月26日の夕方から4時間渡って行われ、多様な芸術とセクシュアリティ、アイデンティティ、ファッション、音楽、文化の幅広い表現によって、現代および過去のフランス文化が披露された。

そのなかに、ダ・ビンチの「最後の晩餐」を侮辱していると多くの人が主張する場面があった。「最後の晩餐」はイエス・キリストが処刑される前夜に12人の使徒たちと長いテーブルについて夕食を共にしたエピソードを描いている。

問題の演出は、長いテーブルの背後に着飾った女装のドラァグクイーンやトランスジェンダーのモデルらがずらりと並び、テーブルの中央に置かれた大皿の上で肌を青く塗った裸体の人物が歌い踊るというもの。

このシーンは保守的なキリスト教徒から鋭い批判を浴び、多くの政治指導者や敬虔な信者が、これは侮辱的であり、キリスト教の価値観や信仰を軽んじていると訴えた。

キリスト教国から批判が殺到

フランスのカトリック教会の司教協議会は、「キリスト教を嘲笑し、愚弄している」と非難し、「私たちは、不埒で、挑発的なくつかの場面によって傷ついた、世界中のすべてのキリスト教徒のことを考えている」という英文の公式声明を発表した。

アメリカではルイジアナ州選出のマイク・ジョンソン下院議長(共和党)が27日、これは「世界中のキリスト教徒を侮辱している」とX(旧ツイッター)に投稿。さらに「今、私たちの信仰と伝統的価値観に対する戦いは、際限がない。だが私たちは真実と美徳が常に勝利することを知っている」と付け加えた。

同じくアメリカのアラバマ州選出ケイティ・ブリット上院議員(共和党)は、この場面を「恥さらし」と呼び、コロラド州選出のローレン・ボーバート下院議員(共和党)は「むかつく」と表現。「キリスト教徒は常にこの種の虐待にさらされている」と付け加えた。イーロン・マスクも、「極めて無礼な行為」と非難した。

だが、少なくとも2人のキリスト教指導者が、この場面は「最後の晩餐」を描いたものだという主張に反論している。たとえば、アトランタのキャッシー・ノーランド・ラプコ牧師は27日、フェイスブックでこう投稿した。「あれはディオニュソスの饗宴だ。ギリシャ神話の祝祭と饗宴、儀式と演劇の神だ。オリンピックはギリシャの文化と伝統から生まれた。フランス文化も、祝宴や祝祭、舞台芸術に深く根ざしている」

ラプコの投稿はフェイスブックで5000回近く共有され、Xでもそのスクリーンショットが広く出回っている。

ラプコは28日に本誌の電子メールよる質問に回答し、「あの開会式の場面のイメージが『最後の晩餐』か否かをめぐる議論は、イエス・キリストが社会システムよりも人々を優先させたという大局的見地を見失っている。常に人間が最優先だ」。

「芸術は、あまり馴染みのない文化に出会うための素晴らしい方法だ。芸術には美を際立たせ、社会批評を提供し、対話を生み出す力がある」とも付け加えた。

「分裂を煽るのではなく、キリスト教のシンボルがどのような文化圏でどのように描かれているかに関心を持つことで、キリストが私たちに呼びかけたように、夜、空腹のまま眠りにつく子供たち、家がなく路上で眠る人々、抑圧の影で迷う人々など、他者への配慮をもって生きることにつながるのを期待したい」とラプコは語った。

多様性のメッセージ

ベンジャミン・クレーマー牧師は、この場面が「最後の晩餐」ではないことを示唆するスレッドに、ラプコのXへの投稿をリポストした。

28日の朝、彼はXにこう書き込んだ。「芸術的表現が、私たちにとって実存的な脅威であるかのように振る舞うとき、私たちクリスチャンは、自分たちの信仰がどれほど脆く見えるかを理解していないと思う。私たちは、クリスチャンが愛と理解ではなく、恐怖と猜疑心で支配することを自らに許してしまっている」。

開会式の芸術監督を務めたトーマス・ジョリーは式典の後、AP通信にこう語った。「私の願いは、破壊的になることでも、嘲笑うことでも、ショックを与えることでもない。何よりも、分断ではなく、愛のメッセージ、多様性を受け入れるメッセージを送りたかった」

今回の開会式は、最もLGBTQ+に配慮したオリンピックのセレモニーのひとつとして称賛されている。

パリ五輪の公式Xページでは、このシーンの写真を掲載し、「ギリシャ神話の神ディオニュソスの解釈は、人間同士の暴力の不条理さを私たちに認識させる」と説明している。ディオニュソスはギリシャ神話に登場する神で、ワイン醸造、豊穣、祝祭を司る。

28日の朝、国際オリンピック委員会(IOC)はこの件に関する公式声明を発表し、「いかなる宗教団体や信条に対しても無礼な意図はまったくなかったというパリ2024組織委員会の説明をIOCは受け止め、歓迎する」と記した。また、「特定のシーンで気分を害した人がいたとしても、それはまったく意図的なものではなく、彼ら(組織委員会)は申し訳なく思っている」と結んでいる。

イリノイ州選出の元共和党議員で、キリスト教徒でもあるアダム・キンジンガーは、ラプコのディオニュソス説を支持し、彼女の投稿をXでリポストし、「ギリシャ神話の神のような青い男の登場は、今にして思えば、これが最後の晩餐ではないことを物語っている」と付け加えた。

「最後の晩餐」説をとって憤慨する一部のキリスト教徒たちは、反LGBTQ感情に煽られているのではないかと指摘する牧師たちもいる。ザック・ランバートもその一人だ。

「あなたがクリスチャンで、フランスのドラァグクイーンが『最後の晩餐』を演じたからといって『迫害』を主張し、同時に全米の議会で提案されている527件もの反LGBTQ+法案を応援しているのだとしたら、実はあなたこそが迫害者だ」と、ランバートはXに投稿した。反LGBTQ+法案の数については、米自由人権協会(ACLU)の法案トラッカーを参照している。

【画像】「最後の晩餐」ではなくオリュンポスの神々だ、という証拠

Some are angry about the "anti-Christian depiction of the last supper" at the Olympic Opening ceremony. (@elonmusk and @realDonaldTrump among others)

A Dutch art historian explains it's not the last supper but a Dutch painting of the Olympic gods.
And I explain what I loved.
pic.twitter.com/ZMftlt7dTO

— AukeHoekstra (@AukeHoekstra) July 28, 2024

五輪開会式の「最後の晩餐」と見られた場面はオランダの画家ヤン・ファン・ベイレルトが描いたオリュンポスの神々だとする説も

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