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<サンゴの白化現象が深刻なフロリダ州南部の海で、サンゴを育てつつ暴風雨の被害を防ぐ試み──「残されてた時間はあまりないが、まだ希望はある」>
米フロリダ州ノースマイアミビーチ沖200メートルほどの海中で、ある実験が行われている。人工岩礁「シーハイブ」を設置し、それを自然と組み合わせることで、海に面した町並みを暴風雨から守れるかどうか調べているのだ。
シーハイブは長さ3.5メートルほどのコンクリートの六角形の管をピラミッドのように積み上げたもので、水深9メートルほどの海中に沈められている。
断面がまるでハチの巣(ビーハイブ)のように見えることから、この名が付いた。管の部分に海水と波のエネルギーが流れ込むよう設計されているのがミソだ。
白化現象によりサンゴ礁が大きな被害を受けているフロリダ州の海で、リアマンらは海中にシーハイブ(コンクリートの六角形の管)を沈める実験を行っている。シーハイブはサンゴの生育場所となるとともに、沿岸の建物を強い波から守る効果が期待されている COURTESY OF THE UNIVERSITY OF MIAMI ROSENSTIEL SCHOOL「穴が開いているから、波の高さとエネルギーをうまく和らげてくれる」と、マイアミ大学のディエゴ・リアマン准教授(海洋生物学)は本誌に語った。
リアマンら生物学者、社会学者、技術者らから成るチームが現在、取り組んでいるのが、こうしたコンクリートと自然物(今回はサンゴ)を使った護岸プロジェクトだ。
リアマンの専門はサンゴで、フロリダ州南部の海でサンゴを育てて復活させる研究を行っている。シーハイブは波消しブロック兼サンゴの生育施設として開発された。
研究室の実験では、シーハイブ単体でも波のエネルギーを60~70%弱められることが確認されており、暴風雨で砂浜が浸食されたり、海辺の建物が破壊されるのを防ぐ効果が期待できるという。
COURTESY OF THE UNIVERSITY OF MIAMI ROSENSTIEL SCHOOLL「そこにサンゴ、なかでも強い摩擦を引き起こすエダサンゴが加わると、(波消しの)効果が10~20%高まる可能性があるという実にクールな結果も得られた」と彼は言う。
「従来型のコンクリートの構造物単体より、(自然のサンゴと)組み合わせたほうがはるかに効果的だという考えが裏付けられた」
今年の夏は、シーハイブの真価を問われる季節になりそうだ。気候変動とエルニーニョ現象によって海水面の温度が高くなっており、サンゴへの悪影響が懸念される上に、ハリケーンの発生数も多くなるとみられているからだ。
米海洋大気局(NOAA)は今年6月から11月末までに熱帯暴風雨が最大で25個発生し、そのうちの4~7個は大型ハリケーンになる可能性があると警告している。
リアマンも、昨年に続いてこの夏もサンゴの白化現象が起きると考えている。
白化はサンゴの体内から、共生関係にある褐虫藻が出て行ってしまうことによって起きるが、極端に高い海水温によるストレスを受けたことが主な原因とされる。褐虫藻はサンゴに食べ物をもたらしており、白化が何度も起きればサンゴは死んでしまう。
シーハイブの計画に携わるリアマン DIANA UDEL/COURTESY OF THE UNIVERSITY OF MIAMI ROSENSTIEL SCHOOL暑さに強いサンゴを選別
この夏の問題はもはや、白化現象が起きるか起きないかではない、とリアマンは深刻な表情で語った。「どこまで深刻なものになるかだ」
フロリダ州南部は、アメリカ国内でも最も気候変動の影響を受けやすい場所と言っていいだろう。マイアミなどの沿岸の町は気温と海水面の上昇、そして以前よりも強い暴風雨に悩まされている。
周辺海域のサンゴ礁は、暴風雨による被害や沿岸の土地の浸食を和らげてくれるはずの存在だ。だが、サンゴ礁も気候変動に脅かされている。
「(周辺の海の)サンゴ礁の姿は見る影もなくなった。特に2023年の大規模な白化現象で、フロリダ沿岸各地のサンゴが死に絶えてしまって以降はなおさらだ」と、リアマンは言う。「サンゴがなくなると、(サンゴ礁は)形を失う。形を成していなければ波を弱める効果は望めない」
リアマンらは、サンゴが高温の海水でも生きられるよう、ひいては海辺の町並みを守る力を維持できるよう、研究を続けている。
HANNAH HEATH/COURTESY OF THE UNIVERSITY OF MIAMI ROSENSTIEL SCHOOL「以前は白化現象が毎年続いて起きるとは考えていなかった」と、リアマンは言う。だが海水温が高い状態が続き、フロリダ州南部では本格的な夏が到来するかなり前から気温が上昇。リアマンの研究室では今年もサンゴの救出作戦の準備を急いでいる。
昨年の夏の海水温は過去最高水準で、専門家によればフロリダ州では史上最も広範囲でサンゴの白化現象が起きた。そこで、希少で重要なサンゴを急いで移動させる措置が取られた。海中のサンゴの養殖場から陸上の水槽へと移したケースもある。
「むちゃなやり方だと思うだろうが」と、リアマンは言った。「種の、もしくは特定の遺伝子型の最後の生き残りを救い出すには、専門家を送り込む必要がある」
海水温の上昇は、高温に耐える力や白化からの回復力を持つ種を洗い出す機会でもある。リアマンの研究室では、高温に強い種の選別や遺伝子技術により、白化が起こる状況でも生き残る確率の高いサンゴを生み出そうとしている。
「わざわざ次に犠牲となるサンゴを海に植えに行くのではなく、育てる種類を選別するということだ」
COURTESY OF THE UNIVERSITY OF MIAMI ROSENSTIEL SCHOOL気候変動への対処が必要
シーハイブの実験は、米国防総省やその傘下にある防衛先端技術研究計画局(DARPA)からの助成金のおかげで、規模を拡大することができそうだ。
DARPAの助成対象となった研究の中には、インターネットのように社会に幅広い影響をもたらしたものも少なくないが、サンゴと波消しは、軍事とは懸け離れた印象だ。
「この種のプロジェクトの資金源としては確かに変わっている」と、リアマンは言う。だが軍事施設は沿岸部にもあるため、気候変動によって激しさを増した暴風雨は国防上の問題でもある。「海軍基地や空軍基地が暴風雨で大きな被害を受けることもあるから、彼らも施設を守りたいのだ」
シーハイブのようなプロジェクトには、海辺の町の防災力を高める効果が見込まれるとリアマンは言う。そして彼は、自分たちの研究が、サンゴが(ある程度まで)地球温暖化に適応する一助になれるのではとの希望を持っている。
だが一方で、それだけでは解決にならないとも感じている。「気候変動の原因に対処できなければ、サンゴのゲノム操作や(暑さに強い)種の選別といったことをどれほどやっても意味はない」と、リアマンは言う。
気候学者たちは、地球温暖化によってハリケーンは今よりさらに強くなるし、海水面の上昇が続けば、フロリダ州南部の都市や集落がどうなるか予断は許さないと警鐘を鳴らしている。しかも、サンゴ礁は世界で最も気候変動の影響を受けやすい生態系だ。
「残された時間はあまりない。だから素早く、断固たる決意で行動する必要がある」と、リアマンは言う。「それでもまだ希望はあると、私は今も思っている」
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