夏のオリンピックが間もなく始まる。
そのパリで開幕の9日前、ある変わった光景があった。ウエットスーツを着たイダルゴ市長が川に入り、開会式の会場にもなるセーヌ川を満面の笑みで泳いでみせたのだ。
実はセーヌ川は過去101年間、水質汚染を理由に遊泳が禁じられてきた。にもかかわらず、五輪ではトライアスロンとオープンウオーターの競技会場になっている。
市長のパフォーマンスは「本当に泳げる水質なのか」という懸念を拭うためだった。
ただ、セーヌ川は実際にどれほど「汚い」のか。
調べてみると、プロ野球・阪神タイガースの優勝で大勢が飛び込む大阪・道頓堀に比べても、大腸菌の濃度が4倍という驚きの差が浮かび上がる。
偉大な川に潜む大腸菌
「パリの偉大な象徴」
パリ市長と共に泳いだ大会組織委員会のエスタンゲ会長は17日、セーヌ川をそう評した。パフォーマンスは「とても重要だ」とも自賛した。
だが、この場所で競技を実際に開けるか、完全な見通しは立っていない。
国際トライアスロン連合が大会開催の基準にしている水質の指標がある。水100ミリリットル当たりの大腸菌の数で、500~1000での開催が適切とされている。
米CNNによると、直前の検査でこの基準をクリアできなければ、五輪の競技も開かれない可能性があるという。
しかしパリ市によると、トライアスロンの会場となるセーヌ川のアレクサンドル3世橋周辺では7月9~16日、この値がおおむね1000で推移していた。
大丈夫なのだろうか。
道頓堀や多摩川は?
ちなみに、この指標は世界共通だ。
日本でも川や海の水質調査で計測され、東京都や大阪府のホームページには主要河川の数値が載っている。
まず、2023年9月の阪神のセ・リーグ優勝時も大勢が飛び込んだ道頓堀川。22年度、大阪市がグリコの看板から300メートル西にある大黒橋で月1回測っている。結果は37~1000で、平均は240だった。
単純に比べれば、「セーヌ川には道頓堀の4倍の大腸菌がいる」ということになる。
東京では同時期、多摩川(府中・多摩市境の関戸橋)で27~190、隅田川(墨田・中央区境の両国橋)では73~1万1000との結果だった。
幅があるのは、特に降雨後は下水や排水が直接川に流れ込みやすく、数値が跳ね上がるためだ。
セーヌ川でも7月の調査期間中、おおむね1000で推移する値が雨が降った翌日の7月10日は3000近くに迫った。
こうしてみると、セーヌ川は日本の大都市を流れる川と比べ、お世辞にもきれいとは言えそうにない。そもそも道頓堀川や多摩川、隅田川も日常的に泳ぐ人が見当たらない川だ。
なお、日本の厚生労働省が定めた「遊泳用プールの衛生基準」は、大腸菌が「検出されないこと」、つまりゼロを求めている。
果たして、セーヌ川での五輪競技は無事開かれるだろうか。
トライアスロンの最初の種目が始まるのは7月30日。直前に雨が降らないことを、大会関係者は願っているだろう。【隈元悠太、高島博之、大野友嘉子】
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