北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記が、朝鮮大学校(東京都小平市)の学生約140人による8月末以降の北朝鮮訪問に特別許可を出していたことがわかった。北朝鮮は2020年1月に新型コロナウイルス対策として約3年半、国境を封鎖。解除後も国外との人的交流を厳しく制限し、3月のワールドカップ(W杯)アジア2次予選の平壌開催も、北朝鮮側が日本選手団を受け入れず中止としていた。在日韓国・朝鮮人の団体での訪朝はコロナ後、今回が初めてとみられる。
トップによる特別許可は、北朝鮮が国外との人的交流拡大に踏み切る兆しとの見方がある一方、昨年末に南北の「平和統一」策を放棄した新方針などについて、在日朝鮮人社会に対しても伝達を徹底する狙いがあるとの指摘もある。
訪朝は朝鮮大学校の4年生が対象で、8~11月に複数のグループに分かれてそれぞれ約1カ月間、北朝鮮に滞在する予定だという。ただ、北朝鮮側は引き続き厳しい防疫体制を敷いているとされるため、地方訪問や親戚訪問がどの程度、実現するかは不明だ。
金氏は昨年12月、韓国について「もはや同族、同質の関係ではない」と主張した。今年1月には、平和統一に関連する表現や南北を「同族」とみなす表現を憲法から排除する方針を決定。韓国を「第一の敵対国」とする教育も強化するとした。
こうした金氏の方針転換は、在日朝鮮人社会に衝撃を与えた。朝鮮中学・高校や朝鮮大学校などは韓国籍の学生も受け入れてきた。「これまで統一を信じて頑張ってきたため、皆ショックを受けた。在日同胞の間には朝鮮半島のような分断はない」と複雑な胸中を語る総連関係者もいる。
今回、北朝鮮側は韓国籍の学生も訪朝可能と説明しているとされる。
一方、今回の訪朝で利用する北朝鮮の高麗航空便(中国・北京―平壌)について、北朝鮮側は預け入れ荷物を1人当たり約50キロまで無料で受け入れると提案したとの情報もある。
日韓当局には北朝鮮へのぜいたく品の供給などを禁止している国連安全保障理事会の制裁決議の観点から懸念する見方もある。日本政府関係者は「訪朝自体は私たちがとやかくいうことではないが、動向は注視している」と述べた。【日下部元美(ソウル)、木下翔太郎】
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