現地時間27日に行われたトランプ氏とのテレビ討論をきっかけに広がった、バイデン大統領に対する撤退圧力。巻き返しを図りたかったバイデン大統領だが、その後のメディア露出などを通じて、自ら撤退論を加速させる結果に。止まらない撤退への圧力。こうした動きは、バイデン氏の「選挙資金」にも影響を与えかねないものになっている。(TBS ワシントン支局 樫元照幸、涌井文晶)

ゼレンスキー大統領も驚きの表情 深刻な“言い間違え”

バイデン大統領への“撤退圧力”が強まる中、NATO首脳会議の場でも注目されたのがバイデン大統領の言動だった。自身に向けられ不安を払拭する機会にしたいところだったが、深刻な言い間違えを連発してしまう。

各国の首脳陣が並びウクライナへの支援を表明する会見で、ゼレンスキー大統領を「プーチン大統領」と紹介。さらに、その後の記者会見でも身内のハリス副大統領を「トランプ副大統領」と言い間違えてしまったのだ。これらの言い間違えはテレビやSNSに格好のネタを与える形となってしまった。そしてトランプ前大統領もすかさず反応。言い間違えた動画に、「よくやった!ジョー!」とコメントを寄せてSNSに投稿した。

「納得させる要素は何もない」単独インタビューでも汚名返上できず

トランプ氏との討論会をきっかけに、民主党内で高まったバイデン大統領への“高齢不安”。懸念を払拭することができるのか?バイデン大統領の動向に注目が集まったこの1週間を振り返っていく。

現地5日、バイデン大統領が応じたのはABCテレビの単独インタビュー。決まった発言・台本がない状況で、しっかりと受け答えができるのかが世間の関心だった。インタビューの中で「選挙戦を継続する」と繰り返し強調し、自ら撤退論を否定した。

しかし、メディアの反応は手厳しいものだった。

インタビュー映像が放送された後、ABCテレビの記者は「神経質になっている民主党員を納得させる要素は何もなかった」とバッサリ。さらに、他のアメリカメディアでも懸念が深まったという受け止めが目立ったものになった。

インタビューで聞き手を務めたステファノプロス氏は、クリントン政権で広報担当を務めた後、ニュースキャスターに転身した人物で、「民主党寄り」とも見られがちだ。バイデン陣営としては高齢不安を打ち消すために、厳しい追及を避けられそうなインタビューを設定したとみられるが、結果的に民主党内外からの批判を抑えるには至らなかった。

さらに旗色が悪くなったきっかけがナンシー・ペロシ元下院議長(84)の発言だ。ペロシ氏はバイデン大統領の意思決定に影響を及ぼせる数少ない人物の一人と見られている。そんな彼女が、バイデン大統領が怒りをあらわにした番組「モーニングジョー」に出演し、バイデン大統領に対して「決断を促している」と発言したのだ。

バイデン大統領は既に「選挙戦を継続する」と公にしているにもかかわらず、そう伝えたことが、「撤退を促しているのでは」と捉えられて、波紋が広がった。
さらに、民主党の重鎮、チャック・シューマー上院院内総務が「バイデン大統領の交替の可能性も排除しない」と献金者に話したと米メディアAXIOSが報道したのだ。

身内からの圧力もさることながら、今後、バイデン大統領にとって痛手になり得るのは選挙資金面における影響だ。

“大口献金者”G・クルーニーさん撤退要請の影響

日本でも大きなニュースになったのが、ハリウッドスター・ジョージ・クルーニーさんによる撤退要請だ。

10日、クルーニーさんはニューヨークタイムズに寄稿。その中で、6月に開いた資金集めパーティでもバイデン大統領はトランプ氏とのテレビ討論会の時のような様子だったと明らかにし、さらに、「2010年とはもちろん、2020年のバイデンとも違う」と、年齢による衰えがあるとの見方を強く示したのだ。

テレビ討論会で見せた精彩を欠くシーンはバイデン大統領が言うように「たまたま」だったのか、それとも「いつも通り」なのか、その真偽が問われる中で放たれた痛烈な一撃だった。

ハリウッドスターが撤退要請を表明したこと自体のインパクトも大きいが、より重要なのは、クルーニーさんがバイデン大統領の大口献金者であるということだ。6月の資金集めパーティでは、クルーニーさんは主催者の一人だった。このパーティーでは、実に3000万ドル=約48億円の資金が集まったという。しかし、クルーニーさんが撤退要請をした以上、今後の資金集めパーティーの開催にクルーニーさんが主催を務めてくれることは期待できない。

また、12日、ニューヨークタイムズは、他の大口献金者が「バイデン大統領が選挙戦を続けるなら9000万ドルを凍結する」と報道した。さらに、アメリカのテレビメディアNBCも、バイデン陣営は資金面で厳しくなり、トランプ氏に比べてテレビCMなどを積極的に流すことはできないのではないかという見方を伝えた。

世論調査はそれでも“互角” 討論会後から持ち直す結果に

一方、この1週間に発表された主要世論調査では、バイデン大統領への“撤退圧力”はそこまで影響していないことが分かる。

▽ABC/ワシントンポスト/イプソス 世論調査(7月5-9日実施)
バイデン氏 46% VS トランプ氏 46%
▽エマーソン大学 世論調査(7月7-8日実施)
バイデン氏 43% VS トランプ氏 46%
▽NPR/PBS/マリスト大学 世論調査(7月9-10日実施)
バイデン氏 50% VS トランプ氏 48%

6月末の討論会後に落ちたバイデン氏の支持率は持ち直していることがうかがえる。ホワイトハウスのジャンピエール報道官もこの点を主張し、不安を払拭するべく発信をしている。

バイデン大統領は、現地時間15日にNBCテレビのインタビューに応じる予定だ。共和党大会が始まる日にあわせて行われるインタビューで、民主党内の亀裂をさらに広げることになるのか、それとも、能力をアピールするチャンスに変えられるのか。バイデン大統領の一挙手一投足に注目が集まる。

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