バイデン大統領の中国製EVの輸入規制は、アメリカのEVメーカーを育成する狙いがある EMILY ELCONINーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

<大衆向けEVでは出遅れた感があるアメリカが、EV革命の先頭に立つために必要なこと>

ジョー・バイデン米大統領は、8月から中国製の電気自動車(EV)に最大100%の制裁関税を課すことを決めた。

とはいえ、既存の関税や厳しい規制障壁のために、アメリカのEV市場における中国車のシェアは既に2%以下。しかも、多くの中国企業はこうした関税措置を回避するために東南アジアに製造拠点を移しており、制裁としての効果は極めて限定的となりそうだ。


バイデン政権の真の狙いは2つ。安価な中国製EVの流入をストップして、アメリカのEV産業を育てること。そして11月の米大統領選に向けて、「中国に対する毅然とした姿勢」を有権者にアピールすることだ。

だが、アメリカのEV産業を育成し、イノベーションを促し、低価格化を実現するには、中国車の流入を一時的にストップするだけでは不十分。本気で中国と競争するつもりなら、重要産業を長期にわたって育てる方法を中国から学ぶべきだ。そうすれば、アメリカはその技術力と資金力を駆使して、中国をしのぐ成功を収めることができるだろう。

一貫性のある産業政策を

中国製EVは人為的に価格を抑えられていると思われがちだが、実のところ、保護貿易と政府による巨額の研究開発投資、そして国内サプライチェーンの確立を組み合わせた産業戦略により、純粋に低価格化が可能になっている。地方政府や企業間での競争を促す政策や、STEM(理系)教育に力を入れてきたこともプラスに働いた。

つまりEV業界における中国の成功は、アメリカがここ数十年ほとんど無視してきた「一貫性のある産業政策」によるところが大きい。

なかでも中国政府は、需要サイドと供給サイドの両方に莫大な補助金を交付して、消費者にはEV購入を経済的に魅力な選択肢にし、メーカーにはEVの生産拡大を魅力的な選択肢にした。また、さまざまな規制により国内メーカーを外国製EVとの競争から守ってきた。こうした包括的な施策が、EV分野における中国の急速な台頭を可能にしたのだ。

だが、ひょっとするともっと重要なのは、中国政府が国内メーカー間の競争を喚起してきたことかもしれない。中国のEVメーカーは、もっとイノベーションを起こして、もっと性能の高いEVを作るようインセンティブを与えられており、それが要素技術の急速な進歩と大幅なコスト削減をもたらしてきたのだ。

さらに政府は、EV製造のエコシステム確立にも力を入れ、中国国内でサプライチェーンを構築する戦略を取ってきた。その結果、バッテリーや電子機器など重要部品が中国国内で生産されるようになり、外国サプライヤーへの依存度が低下して、コスト削減が可能になった。

だが、中国のやり方にはマイナス面もある。激しい値下げ競争のために利益は薄くなり、どのメーカーも経営は苦しい。また、国内消費の冷え込みと、それに伴う中国産EVの輸出急増は、輸出先との貿易摩擦や、政治の不安定を引き起こしている。明確な期限のない手厚い補助金は、市場の作用をゆがめて非効率を生み出し、メーカーを持続不可能なレベルまで補助金依存に陥らせている。

政府支援をインセンティブに

アメリカが中国の成功に倣いつつ、こうしたマイナス面を回避するためには、関税措置だけでなく包括的なEV業界育成戦略を構築する必要がある。バッテリー技術や電動パワートレイン、軽量材料といった重要技術の研究開発に、政府が積極的に投資することもその1つだ。これらの重要技術でイノベーションを促せば、国際的な技術優位を築けるだろう。


その一方で、アメリカの補助金制度は慎重に調整し、段階的に廃止して、市場のゆがみや政府の支援への過剰依存を防ぐべきだ。インセンティブを賢く与えれば、長期的には自立した市場を構築できるだろう。

もちろん当初は、メーカーと消費者の両方に金銭的インセンティブを与えることが不可欠だ。EV技術に投資する企業への税控除や補助金を拡大すれば、国内生産を刺激できる。また、消費者向けのインセンティブ(EVを購入した場合の税還付など)により需要を喚起すれば、力強い国内市場を生み出せる。

需要と供給の両方を推進すれば、市場に持続可能なエコシステムが生まれるだろう。そして市場が成熟するに従いインセンティブを縮小すれば、中国のEV業界が陥ったような非効率は回避できるはずだ。

インフラ整備も極めて重要だ。EVの普及を阻む大きな壁の1つは、電池切れへの不安だから、全米で充電ステーションの設置を進めるべきだ。このとき関連技術の規格を統一して、どのメーカーのEVでも充電できるようにすれば、さらなる普及と業界の成長を促せるだろう。

これと並行して、自動車業界に特徴的な新規参入障壁も縮小するべきだ。時代遅れのディーラーシステムを改革すれば、競争に弾みがつく。また、外国メーカーとの合弁を奨励すれば、技術移転とイノベーションを加速できる。さらに、移民制度を改革して、外国からのSTEM人材をもっと活用できるようになれば、EVのみならず幅広い技術環境を強化できるだろう。

グリーンボンド(気候変動対策のために企業や地方自治体が発行する債券)や官民パートナーシップといった資金調達メカニズムの充実も、大規模なインフラ整備や研究開発に十分な資金を供給する役に立つ。

多くの課題はあるが、アメリカには世界のEV産業のリーダーになれる強みがたくさんある。総合的にみれば、アメリカの技術力は世界一だし、シリコンバレーはイノベーションのるつぼだ。ベンチャーや新規産業を支える資本市場もある。クルマを愛する大衆文化は、EV革命を受け入れる懐の深さがある。そして活発な市場経済は起業や競争を刺激し、継続的な改善と効率を促す。

アメリカにはまだ、中国に代わってEV革命の最前線に躍り出る可能性が十分あるのだ。



From thediplomat.com

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