損傷した脳細胞同士のコミュニケーションを回復する方法が見つかった(画像はイメージです) Vink Fan/Shutterstock

<「治す」ことこそできないが、認知機能は回復し、寿命が尽きるまで深刻な症状を経験せずに済むほど進行を遅らせる可能性があるという>

科学者たちが、マウスを使った実験で、損傷した脳細胞間の通信を回復させることで、アルツハイマー型認知症の症状を改善させることに成功した。進行を食い止めるだけでなく、認知機能を回復させる可能性のある新たな治療法の誕生を期待させる研究結果だ。

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米疾病対策センター(CDC)によれば、アメリカでは現在およそ580万人がアルツハイマー病を患っている。進行性脳疾患のアルツハイマー病は最も一般的な種類の認知症であり、思考、記憶や言語をつかさどる脳の部位が影響を受け、記憶障害や認知機能の低下があらわれる。

 

現在アルツハイマー病の根本的な治療方法は確立されていないが、原因は脳の細胞の内部および周囲にタンパク質が蓄積することだと考えられている。異常に蓄積するタンパク質は主に2種類あり、そのうち一つが「タウ」と呼ばれるタンパク質だ。

タウは通常の状況下においては、異なる脳細胞間でのメッセージ伝達を可能にする化学的な通信に関する重要な役割を果たしている。しかしアルツハイマーの初期段階において、タウは本来結合している繊維のネットワークから解離し始める。

解離したこれらのタウが凝集し始め、その過程でそのほかの重要な細胞タンパク質を巻き込んでいく。これらの重要なタンパク質の中には、脳の細胞間における信号伝達に関わるものも含まれている。

マウス実験で学習・記憶障害を改善

しかし沖縄科学技術大学大学院の研究者たちが今回、タウの凝集体が重要な信号伝達分子を巻き込むのを防ぎ、脳細胞間の失われた通信を回復させる方法を発見した。

この処置には、PHDP5と呼ばれる合成ペプチドを使用する。研究チームによればこのPHDP5は血液から脳組織への移行を制限する「血液脳関門」を容易に通過し、脳の記憶センター(海馬)に直接作用することができる。

研究チームがアルツハイマー病にかかったマウスに対してペプチドを用いたところ、アルツハイマー病の初期症状を回復させるPHDP5の能力を生体内で確認することができた。研究結果は学術誌「ブレインリサーチ」に発表された。

論文の筆頭著者であるチャジュン・チャン博士は声明で、「PHDP5がマウスの学習・記憶障害を有意に改善したのを見て、私たちは興奮した」と述べた。「アルツハイマー病にかかったマウスの症状の進行を逆転させることができた」

チャンはさらにこうつけ加えた。「この成功により、アルツハイマー病の治療戦略として(このタンパク質の)相互作用を標的とする可能性が見えてきた」

研究チームは、この治療法がアルツハイマー病を「治す」ものではないとも説明。病気の進行の比較的早期段階でペプチドを投与する必要があるが、これを行うことで認知機能低下の症状を大幅に遅らせることが期待でき、通常の寿命の範囲内であれば深刻な影響を及ぼさない程度に抑えることができる可能性があると述べた。

この研究報告が発表されたのと同じ日、英シェフィールド大学の研究が学術誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」で発表された。こちらは、一部の人がほかの人よりもアルツハイマー病になりやすい可能性がある理由についての研究報告だ。

アルツハイマー病の発症に関与しているもう一つのタンパク質は、アミロイドベータと呼ばれる。アミロイドベータは、脳内のタンパク質が間違って折り畳まれて凝集することによってできる。これらの凝集体は、タウタンパク質の凝集など、脳細胞の周囲でのさまざまな有害な化学反応を引き起こし、脳細胞を損傷し、最終的には破壊する。

これまでの研究で、APOEと呼ばれる遺伝子の特定の遺伝子タイプがアルツハイマーの発症リスクを大幅に高めることが示されている。シェフィールド大学の研究チームは今回その理由について、この特定の遺伝子タイプがアミロイドベータと相互作用し、アミロイドベータを細胞にとってより有害なものにするからかもしれないと報告した。


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