24年ぶりに北朝鮮を訪れて歓迎を受けるプーチン大統領と金総書記(6月19日、平壌・金日成広場) KCNAーREUTERS

<24年ぶりの訪朝で北朝鮮との関係強化をアピールしたロシア。両者の接近で浮かび上がる中国にとっての「悪夢のシナリオ」とは──>

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が6月19日、北朝鮮を訪問し、どこかぎこちないながらも両国の接近ぶりを世界に見せつけた。

これに対して中国は長年、北朝鮮とその戦略的行動について曖昧な態度を取ってきた。中国にとって北朝鮮は、1961年の中朝友好協力相互援助条約に基づく唯一の軍事同盟国だが、とにかく扱いにくい国だった。


中国研究者の間で、中国にとって北朝鮮は「戦略的資産」であると同時に「戦略的負債」であると表現されてきたゆえんだ。

まず地政学的には、アメリカとその同盟国(韓国と日本)に対する緩衝国としての北朝鮮の重要性は、依然として高い。中国にとって、米軍が駐留する韓国との間に北朝鮮というクッションがあることには価値があるのだ。

ミサイルや軍事衛星などのハイテク兵器がいかに幅を利かせるようになっても、地上軍は究極の軍事プレゼンスだ。朝鮮半島が統一でもされて、それがアメリカの同盟国になれば、国境を直(じか)に接することになる中国にとっては心理的にも負担になる。

中国にとって北朝鮮は、韓国やアメリカに対する交渉の切り札としての価値もある。今年は中国もロシアに続いて北朝鮮の核開発計画を支持することにより、切り札としての北朝鮮の価値を高めようとするかもしれない。

北朝鮮は事実上の核保有国であり、ICBM(大陸間弾道ミサイル)やSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)などの運搬手段も確保している。この核の要素は、北東アジア(と世界)の安全保障を一段と不安定化させる大きな要因の1つと考えられてきた。

北朝鮮の核開発計画は、中国にとっての戦略的負債だ。なにしろ中国は近隣諸国の安定を重視しているのに、北朝鮮は中国のすぐ隣で意図的に不安定を起こそうとしている。

これが結局、インド太平洋地域でアメリカを中心とする安全保障体制の強化をもたらしているという意味でも、中国の頭痛の種になっている。

ウクライナ戦争の影響

北朝鮮の急速な核およびミサイル開発を受け、アメリカは朝鮮半島とその周辺における軍事的プレゼンスを大幅に強化してきた。これにはアメリカの戦略的資産(つまり核能力)の常備が含まれ、当然、中国には面白くない。

だが、ロシアは違う。ロシアはこの1年で、北朝鮮の核能力と挑発行為に対する見方を、「核拡散防止条約(NPT)体制を揺さぶる迷惑行為」から、「アメリカへの戦術的対抗措置」へと切り替えてきた。

ロシアにとって、NATOのリーダーとしてのアメリカの軍事的・経済的優位を崩すことは目標でもある。ロシアがウクライナを征服し、ヨーロッパの旧ソ連圏諸国に影響を与える上で、アメリカは最大の障害だからだ。

習近平国家主席の中国にとって北朝鮮は戦略的「資産」であり「負債」でもある TINGSHU WANGーPOOLーREUTERS

ロシアはウクライナで使用する目的で、北朝鮮からロケット弾などの通常兵器を輸入してきた。その見返りとして、ロシアは北朝鮮の軍事偵察衛星など、先進的な軍事開発を技術的に支援しているようだ。国際社会から爪はじきにされてきた北朝鮮に、食料やエネルギーも供給している。

ロシアは北朝鮮の核開発を積極的に支持している上に、北朝鮮が国防のために(それ以外の目的でも)、核を使用する「正当性」を認める。


北朝鮮の最高指導者である金正恩(キム・ジョンウン)が、なし崩し的に核のハードルを下げてきたことは、ウクライナやヨーロッパのNATO加盟国に対して戦術核の使用を示唆してきたプーチンらロシア政府の強硬派にとって好都合だ。

だが、ロシアと北朝鮮がいかに接近しているように見えても、依然として北朝鮮に対して大きな影響力を持つ国は中国だけと考えられている。

中国指導部は、北朝鮮に対してほとんど影響力を持たないと繰り返すが、実際には、中国が影響力を持ちながら行使していないと言ったほうが正確だろう。これは一説には、北朝鮮の核によってアメリカの軍事力が無力化されれば、中国がアメリカに対抗する上で好都合だからだと言われる。

北朝鮮の核は、アメリカとその同盟国の北東アジアと西太平洋地域における軍事戦略の中心的課題となることにより、これらの国の対中戦略を攪乱する効果も期待できる。

「日米韓」対「中ロ朝」

ただし、中国にとって北朝鮮の核兵器は、ロシアと違って、アメリカに対する有効なカードにはならない。

確かに中国は、北朝鮮を物理的にも象徴的にも緩衝国家として、影響力のツールとして、利用したいと考えている。しかし、暴走する核保有国が隣にいるということは、中国自身の地域安全保障を著しく損なうことになる。

第1に、核による威嚇、挑発、そして「伝家の宝刀」を抜く段階に至れば、北朝鮮は中国の指揮統制に従わないだろう。北朝鮮の核兵器はアメリカ、韓国、日本を標的としているが、中国の目の前で血なまぐさい戦争が勃発すれば、中国の利益にはならない。

また、北朝鮮の指導者たちは、必要なら武力行使で中国に軍事報復することも辞さない。彼らの同盟関係はあくまで冷酷だ。

第2に、中国の安全保障上の利益は、アメリカとの覇権争いという文脈において、北朝鮮の核兵器増強によって現実的な危険にさらされている。

アメリカとしては、(まだ非公式ではあるが)急発展している日米韓3国同盟の正当な理由を得た形になる。とはいえ同盟の目的が北朝鮮の核兵器を制限するだけにとどまらないことは、今や明白だ。

つまり、中国の安全保障上の従属的パートナーが核兵器開発を進める結果、アメリカは同盟国と総力を挙げて「統合抑止力」を強化し、中国はその脅威に直面することになる。

北朝鮮の核開発という実存的な脅威に対し、アメリカは朝鮮半島とその周辺で戦略的資産の配備をさらに強化しており、既に悪化しつつある台湾海峡情勢にも影響が及ぶだろう。


中国がロシアと同じように、北朝鮮の核兵器を交渉の切り札として使おうとすれば、中国が最も恐れる「東アジア版NATO」が現実味を帯びてくるかもしれない。

米英豪の集団的安全保障の枠組みAUKUS(オーカス)の第2の柱である先端技術分野の協力に、日本と韓国が参加を検討していることは、中国の安全保障環境がいかに悪化しているかを物語る。

もちろん、こうした核の駒の戦略的運用は、別の悪夢のシナリオが現実になる確率を高めるだろう。すなわち、韓国、日本、台湾、ベトナムなど世界中で、周辺国の核武装が連鎖反応を招く核ドミノが起こる恐れがある。

中国にとって第3の脅威は、交渉の切り札として北朝鮮の核能力を利用すれば、西側諸国から今以上に疎外されかねないことだ。

中国は、西洋帝国主義に対する否定的なレトリックや、グローバルサウスを主導しようとする最近の試みにもかかわらず、経済、技術、安全保障の継続的発展のために、当面は西洋諸国を必要としている。

中国が北朝鮮の軍事力増強と核拡散を公然と支援すれば、さらに多くのヨーロッパや東アジアの先進国が中国と距離を置き、監視の目が厳しくなるだろう。

ここにきて中国とロシアは初めて、北朝鮮の核武装ゲームをめぐってずれが生じている。ロシアは、北朝鮮が核兵器を備蓄することに(極めてリスクは高いが)プラス面もあると考えている。一方で中国は、このように不安定さを誘発する安全保障環境からダメージを受けているはずだ。

日米韓の安全保障分野の協調に対抗して、北朝鮮、ロシア、中国の3国間にも協調の兆しが見られる。ただし、中国はロシアの最大の軍事同盟国になるという不名誉を敬遠して、3国間のリーダーシップを取ることには消極的なようだ。

中国が東アジアで正式な安全保障同盟を形成するという戦略的意欲は、過大評価されているだろう。

一連の核ゲームで、誰が影響力を持っているのか。中国か、ロシアか、北朝鮮か、アメリカか。少なくとも今のところ、中国が勝ちつつあるようには見えない。

ただし、中国は、北朝鮮の核兵器を台湾の軍事占領に役立つとみている可能性がある。この点は今後数年間、注視しなければならない。

From thediplomat.com

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