中国海警局はナイフやおのを手にフィリピン軍のボートに乗り込んだ ARMED FORCES OF THE PHILIPPINESーAP/AFLO

<フィリピンEEZ内で中国海警局の艦船がフィリピン軍補給船の航行を妨害。ナイフや斧を手にした海警局職員がフィリピン軍のゴムボートに乗り込んだ>

南シナ海における中国の「無謀な」行為がまたもや各国の非難を浴びている。

事件が起きたのは6月17日。スプラトリー(南沙)諸島のセカンド・トーマス礁へ補給に向かうフィリピン軍の艦船の航行を、中国船が阻止したのだ。中国海警局の艦船はフィリピンの補給船に衝突。その後の小競り合いでフィリピン海軍の兵員8人が重軽傷を負った。

フィリピンは自国の排他的経済水域(EEZ)内にあるセカンド・トーマス礁を守るため、老朽化した揚陸艦シエラ・マドレをこのサンゴ礁に意図的に座礁させて、海軍の小部隊を常駐させている。

ニュースサイト「パラワン・ニュース」が18日に報じた匿名の情報筋の話によると、中国側は補給に向かう「全ての船を標的にし、硬質素材のゴムボートに穴を開けて航行不能にした」という。

報道によれば、中国海警局の職員は刃物を手にゴムボートに乗り込みフィリピン軍の銃器を押収。それに伴う乱闘で、フィリピン海軍の兵士1人が片手の親指を失い、ほかにも7人が軽傷を負ったもようだ。

この1年余り、中国はセカンド・トーマス礁に向かうフィリピンの補給船に妨害行為を繰り返してきた。嫌がらせは徐々にエスカレートし、海警局の船がフィリピンの沿岸警備隊の船に激突したり、補給船に強力な放水砲を浴びせたりするようになった。

フィリピン軍の補給船団が人的被害を受けたのは今年に入って3度目。3月5日と23日には、中国海警局の船が放水砲を発射し、フィリピン船の複数の乗組員が負傷した。

米軍の抑止力も無視

とはいえ、切った張ったの乱闘騒ぎは今回が初めてだ。

フィリピンは南シナ海における中国の現状変更の試みを阻止するため、この海域の透明性を重視する方針を掲げ、国際法を無視した中国の活動を世界に知らせてきた。だが中国は国際社会の非難を物ともせず、米軍の介入を招く一歩手前まで挑発行為をエスカレートさせている。

アメリカとフィリピンは1951年に「相互防衛条約」(MDT)を締結。米政府高官は南シナ海でフィリピン軍が攻撃されたら、この条約に基づき直ちに支援に向かうと何度も保証してきた。

米軍介入の可能性は抑止力として働くはずだが、実際はそうなっていないようだ。今回の騒ぎを受けてオーストラリア戦略政策研究所のユーアン・グレアムは「MDT発動すれすれの事態に衝撃を受けた」とX(旧ツイッター)に投稿した。「抑止力はちっとも効いていない」

だが中国の暴走を止めるため、フィリピンとアメリカ、その同盟国や友好国に何ができ、何をすべきかとなると、答えは簡単ではない。下手をすれば火に油を注ぐ結果になりかねない。紛争に発展すれば、MDTに基づき米軍が介入せざるを得なくなる。

フィリピンの首都マニラ在住の地政学アナリスト、ドン・マクレーン・ギルによると、アメリカとフィリピン、そしてその同盟国は今「決定的な岐路」に立たされているという。「ボールは米比同盟の側にある」というのだ。

米比同盟はどんなボールを投げるのか。例えば日本など他の友好国がフィリピンの補給活動に加わることも考えられるが、いずれにせよ相手の出方を慎重に見極めることが肝要だと、ギルは警告する。

From thediplomat.com


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