多くのロヒンギャが暮らすバングラデシュ南東部コックスバザールの難民キャンプ=2021年2月、AP

 内戦状態にあるミャンマーで、長年迫害されてきた少数派のイスラム教徒ロヒンギャを取り巻く環境が悪化の一途をたどっている。西部ラカイン州では国軍と少数民族武装勢力「アラカン軍」の戦闘のあおりを受け、命を落としたり家を追われたりするロヒンギャ住民が急増。国連などは、国軍とアラカン軍の双方から弾圧されているとして、暴力の即時停止を求める。

 アラカン軍はラカイン州北部で攻勢を強め、5月18日に要衝のブティダウンを掌握したと発表した。今月中旬、バングラデシュとの国境に近いマウンドーにも戦火が広がり、アラカン軍は住民に退避を促した。ただ、国軍の空爆などを受けて、多くの人が取り残されているという。

 現地からの情報は限られ詳しい状況は不明だ。欧州を拠点とする支援団体「自由ロヒンギャ連合」によると、ブティダウン周辺では住民がアラカン軍に連れ去られて殺害され、略奪や放火も相次いだという。避難民がドローンで攻撃されたとの情報もあり、「人道に対する罪であり、戦争犯罪だ」と訴える。

 一方、アラカン軍は、国軍による攻撃だと主張する。地元メディアによると、今月上旬にも国軍兵士が村を襲撃し、住民76人を殺害したと非難した。国軍は関与を否定している。

 国連人権高等弁務官事務所はブティダウンの大部分が焼失し、5月24日時点で約4000人の避難民が発生したと指摘。双方からの攻撃を確認し「空爆や非武装の避難民への銃撃、斬首、失踪、住宅の焼き打ちがあった」としている。

 国内有数の武装勢力であるアラカン軍は、2021年のクーデター前から自治拡大を求めて国軍と衝突を繰り返してきた。仏教徒のラカイン族を中心とし、ロヒンギャとの確執も根深い。国軍がこうした確執を利用し、ロヒンギャの被害に関する情報を操作しているとの見方もある。

自由ロヒンギャ連合の共同創設者、ネイサンルイン氏=本人提供

 ロヒンギャは長らく「不法移民」とみなされて国籍を与えられず、偏見にさらされてきた。17年にはロヒンギャの武装勢力が警察や国軍の施設を襲撃し、国軍による掃討作戦で約70万人が難民となった。迫害を恐れて国境を越える人は後を絶たず、バングラデシュの難民キャンプで約100万人が暮らす。

 民主派など抵抗勢力の猛攻で兵力不足に陥った国軍は、今年2月に徴兵制の実施を発表した。ラカイン州でもロヒンギャの若者を強制動員しているとされる。英シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)は、約5000人が国軍側に加わったと推計。ロヒンギャの武装勢力が国軍に協力して難民キャンプで集めた人も含まれ、アラカン軍との宗教対立をあおる構図となっている。

 ミャンマー、バングラデシュ両政府は難民の帰還で合意しているが、実現しないままクーデターが起きた。混乱によって帰還はさらに遠のき、キャンプの治安悪化や将来への不安からインドネシアなどに密航する人が相次ぎ、現地住民との間で摩擦も起きている。

 自由ロヒンギャ連合の共同創設者で、20年以上亡命生活を続けるネイサンルイン氏は「最近の状況は17年当時よりもひどい。移動を制限されて逃げることもできない住民が取り残されている」とアラカン軍を糾弾。一方で「難民の帰還には民政復帰が必要だ」と述べ、日本政府に対し国軍への経済制裁を求めた。【バンコク武内彩】

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