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6月15日から92カ国が参加して開催された「ウクライナ平和サミット」。
その会議の直前、プーチン大統領はウクライナに対して領土の割譲を一方的に要求した。

事実上、降伏を迫る内容で、ウクライナおよびNATOは猛反発している。
プーチン大統領が戦争終結の条件を突きつけた背景には何があるのか。

1)プーチン大統領の一方的要求に、ウクライナ猛反発

プーチン大統領は14日、ロシア外務省で高官らに向けて演説の中で、ウクライナでの戦争終結への条件について、ロシアが自国領と主張する4州、ドネツク州、ルハンシク州、ヘルソン州、ザポリージャ州からのウクライナ軍の完全撤退、さらにNATOへの加盟申請を即時取り下げること。「それが停戦と交渉開始の条件だ」と言及した。

これに対しウクライナのゼレンスキー大統領は、「一連の発言は最後通告だ。ヒトラーが『チェコスロバキアの一部をよこせ、そうすれば、ここで打ち止めにする』と言ったのと同じことだ」と、怒りをあらわにしている。

NATOのストルテンベルグ事務総長も、「これは和平の提案ではなく、さらなる侵略の提案だ。ウクライナの領土から撤退すべきはロシアだ」と非難した。

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プーチン大統領がここまで詳細に戦争終結の条件に言及したことはこれまでなかったと、海外メディアも報じている。降伏勧告ともいえる条件を突き付けてきた狙いは、どこにあるのか。サンクトペテルブルクでの国際経済フォーラムを現地取材した駒木明義氏(朝日新聞論説委員・元モスクワ支局長)は、以下のように分析した。

これは非常に厳しい要求だ。プーチン大統領があげている4州は、ロシアが一昨年、一方的に編入を宣言したが、実際にはまったく占領できていない地域だ。ほぼ全域を掌握しているのはルハンシクのみで、ドネツクは半分程度、ザポリージャとへルソンも州都はいまもウクライナが保持している。にもかかわらず、4州からウクライナ軍の即時全面撤退を要求しており、ウクライナ側は到底受け入れられない。しかも、この要求は停戦ではなく交渉開始の条件であり、まず4州を差し出すことがスタート地点だ、としている。つまり4州は最初の捧げものということだ。
サンクトペテルブルクの国際経済フォーラムでプーチン大統領は、「軍事紛争は最終的に何らかの協定を結ぶことで終わる。我々は、勝利に基づく合意を目指している。勝って終わる」という発言をしていた。その具体的内容を、14日に示したといえる。今回、プーチン大統領が示した強硬な態度は、対話の道を閉ざし、当面は勝利に向かって戦い続ける姿勢を鮮明にしたと言える。

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2)参加国の拡大を優先した、ウクライナ平和サミット

2)参加国の拡大を優先した、ウクライナ平和サミット

プーチン大統領の今回の発言は、ゼレンスキー大統領が力を入れてきた「ウクライナ平和サミット」を意識してのものとみられる。

この国際会議は、ウクライナが提唱する和平案を協議するため、6月15日からスイスで行われ「核・原発の安全保障」、「食糧安保」、「捕虜や拉致された子どもの解放」の3項目を重点的に討議している。

当初、ゼレンスキー大統領は、「全領土の回復」や「ロシア軍の撤退」なども討議内容に含めていたが、討議テーマを絞り込むことで、参加国の拡大を優先したとされている。

平和サミットには、岸田総理やアメリカのハリス副大統領など92カ国の首脳や閣僚級、さらに国連など8つの国際機関が参加した。中国やブラジル、サウジアラビアなどは、ロシアが加わっていないことに反発し、当初は参加しないとみられていたが、結局サウジアラビアは外相が参加、ブラジルはオブザーバーとして特使を派遣した。中国は参加していない。

駒木明義氏(朝日新聞論説委員・元モスクワ支局長)は、以下のように分析した。

今回討議されている3項目(「核・原発の安全保障」、「食糧安保」、「捕虜解放」)は、実は去年の2月に中国が示した和平案にも盛り込まれていた項目だ。つまり、中国などロシアとの関係を重視する国々でも参加できる案に絞り込んできている。
戦場の状況は、まだまだ和平には程遠い状況だが、将来に繋げるため参加国を増やしたいという主催国スイスの意向も汲んで、討議を3つに絞り込むという判断をした結果、これだけ参加国が集まったということだろう。

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3)ウクライナ 中国への対応を方針転換か 

3)ウクライナ 中国への対応を方針転換か 

6月2日、ゼレンスキー大統領が平和サミットへの参加を各国に呼び掛けた際、「ロシアが中国の助けを借りて、平和サミットに参加しないよう各国に圧力をかけようとしている」と発言した。駒木明義氏(朝日新聞論説委員・元モスクワ支局長)は、この発言に注目する。

ウクライナにとって中国は非常に大きな存在であり、将来の和平協議で味方につけたい。昨年2月に中国が提示した和平案にNATOやアメリカは、かなり批判的な声明を出したが、ゼレンスキー大統領は、「中国がこの問題に真剣に向き合っているのはいいことだ」「復興面でも大きな期待がある」など好意的なコメントをした。2014年のクリミア占領以降、ウクライナはロシアとの貿易関係を急速に絞っており、いまや中国は最大の貿易相手国だ。中国抜きで、今後の経済発展や安全保障は成り立たないという判断があり、協調する姿勢を示してきたが、ここに来て、かなり見切りをつけたと。プーチン大統領が5選目に入った5月以降、習近平国家主席は、表向きは和平提案を示しつつも、政治的、軍事的、経済的にも、ロシアの戦争を後押ししていることから、この厳しい発言に至ったのだろう。

ゼレンスキー大統領は、13日のバイデン大統領との共同記者会見で、「(習近平国家主席は電話会談で)私と約束した。もし彼が正直な人間なら武器を売らないだろう」と発言した。この発言の直後、バイデン大統領は「中国は兵器を製造する能力や技術を(ロシアに)供給している」と発言した。

駒木明義氏(朝日新聞論説委員・元モスクワ支局長)は、以下のように述べた。

ウクライナ側は、中国は、表向きは停戦を求めるそぶりを見せているが、裏では戦争を後押ししている、言行不一致だと不満を抱いている。中国は、「武器は売らない」と繰り返し表明し、直接武器を輸出してないが、ほぼそれに等しい効果のあることを実行しているではないか、と釘を刺そうという意図だと思う。

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4)G7が打ち出した新たな対ロシア制裁 対象に中国企業も

4)G7が打ち出した新たな対ロシア制裁 対象に中国企業も

ゼレンスキー大統領が中国に対して厳しい姿勢に転じたのと呼応するように、イタリアでのG7サミットも中国への新たな警告に踏み切った。

採択されたG7首脳宣言では、「ロシアとの軍事転用可能な技術・部品の取引に関与すれば、中国の金融機関をG7の金融ネットワークから締め出す」としている。

ロシアへの経済制裁の対象に、中国の金融機関も組み込もうとするG7の動きについて、末延吉正氏(ジャーナリスト・元テレビ朝日政治部長)は、以下のように分析した。

ロシアが戦争を継続できているのは、中国のサポートが非常に大きい。例えば、軍民両用の中国製の半導体などがロシアに渡り、その一方で中国は原油などの資源を購入している。そうした後押しが、ロシアの軍事的生産拡大に寄与している。この状況に釘を刺さなければいけないという意思表明で、非常に意味のある重要な決定だ。
さらに今回のG7サミットでは各国が、凍結したロシア中央銀行の資産をウクライナ支援に活用することで合意した。これらは今後のNATOの戦い方の中で実質的な意味を持ってくるのではないか。

ロシアによるウクライナ侵攻が長期化する中、ロシア国内の様子はどうなっているのだろうか?
サンプトペテルブルクでの国際経済フォーラムを取材した駒木明義氏(朝日新聞論説委員・元モスクワ支局長)は以下のように語った。

サンクトペテルブルグは紛争前と街の様子はまったく変わりがない。いまは白夜の季節で、幻想的な雰囲気の中、6月から夏休みを迎えた学生で街は賑やかで、劇場にも客が詰め掛け、皆、生活を楽しんでいる。一方、ウクライナのキーウに行くと、頻繁に空襲警報が鳴り、劇の上演中でも中止してシェルターに避難しなければいけない日常がある。
サンクトベルグはいまも昔と変わらず美しく、人々は親切で、表情もおだやかで、平穏な日常を送っているように見える。だからこそ、人々がどこまで紛争を想像できているのだろうかと、私はやるせない気持ちを強く感じた。いま自分の国がしていることについて、悩んだり、考えたり、憤ったりしている人たちももちろんいるが、多数派ではなく、あまり表立っては出てくることがない。
経済面でも、ロシア国内では影響を受けている人たちもいるが、目立って悪化しているということはなく、全体としては踏みとどまっているという印象を感じた。

<出演者>

駒木明義(朝日新聞論説委員。モスクワ支局長などを歴任。クリミア併合を取材。著書に「安倍VSプーチン」などがある。国際関係の社説を担当)

末延吉正(元テレビ朝日政治部長。ジャーナリスト。永田町や霞が関に独自の情報網を持つ。湾岸戦争など各国で取材し、国際問題に精通)

「BS朝日 日曜スクープ 2024年6月16日放送分より」

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