サウジには2兆5000億ドル規模の鉱物資源が眠っている(同国中部の銅・亜鉛採掘プロジェクト) TASNEEM ALSULTANーBLOOMBERG/GETTY IMAGES
<EV普及で世界の石油需要は鈍化、サウジやUAEは鉱業分野への参入を図っている>
中東ではたいていの国が石油(と天然ガス)に頼って生きている。だが一部の裕福な国は先を見越して、同じエネルギー部門でも別の資源に目を向け始めた。クリーン・エネルギーへの転換にも電動車両用バッテリーにも欠かせないリチウムやコバルト、希土類などの重要鉱物だ。
石油で稼いだ資金をため込んできたサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)などは、過度な石油依存から脱却して将来への布石を打つため、重要鉱物の採掘とそのサプライチェーンへの投資を増やしている。
なにしろ今は、そうした鉱物の産出・精製で中国が過大なまでのシェアを誇り、そのせいで地政学的な緊張が高まっている。西側諸国は、もちろん中国を迂回したサプライチェーンを確保したい。中東諸国も、この機に乗じて「ポスト石油」時代への道を切り開きたい。
米中ロと同時に商売ができる
「この分野で、ぐっと存在感を増してきているのがサウジアラビアとUAEだ」と言うのは米シンクタンクの戦略国際問題研究所に所属するグレースリン・バスカラン。「両国とも、クリーン・エネルギーへの転換で世界の石油需要が先細りとなり、石油頼みの経済モデルでは成長を維持できないことを理解している」
だからサウジアラビアは石油依存からの脱却を目指す成長戦略「ビジョン2030」で、鉱物資源の開発事業に約1億8200万ドルの資金を振り向けた。ちなみに政府の試算によれば、同国には2兆5000億ドル相当の鉱物資源が眠っている。
「わが国は経済大国への転換期にある」と、鉱業資源省のハリド・アルムダイファ次官は現地メディアに語っている。「第1段階で国内の鉱物資源を開発し、第2段階で国外の資源をわが国に集め、第3段階でサウジを(資源流通の)ハブとする」
この壮大なビジョンの実現には多くの国の協力が必要になる。既に同国はコンゴ民主共和国やエジプト、モロッコ、さらにはロシアやアメリカとも鉱業部門での協力に関する覚書を交わしており、米政府と組んでアフリカ諸国での採掘権を取得する交渉を始めているとの報道もある。
UAEもコンゴ民主共和国での採掘事業に関する総額19億ドルの契約を結び、銅資源の豊富なザンビアとも同様の合意に近づいている。
前出のバスカランによれば、サウジもUAEも資金力に不安はない。「今はリチウムやニッケル、コバルトの価格が下がっていて、たいていの欧米企業が新規投資に慎重になっているなか、この2つの国は札束をちらつかせている」
とはいえ、こうした事業へ外資を呼び込むには環境への配慮を含め、いくつもの課題を解決しなければならないだろう。重要鉱物に詳しい英ウォルバーハンプトン大学のハミド・プーランに言わせれば、「採掘の倫理性・持続可能性を確保するには環境的・社会的に厳格な規制が必要であり、特に大量のエネルギーを消費する精製の工程では省エネ化の推進が不可欠となる」。
そのとおりだが、サウジのような国には他国にない強みがある。裏の事情に通じたあるアナリストが言っている。「ああいう国はロシアとも中国とも、アメリカとも同時に商売ができる。これはすごい財産だ」
From Foreign Policy Magazine
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