有色人種が多いフランス代表を「フランスらしくない」と批判してきた極右政党が総選挙で与党を上回りそうな勢いにエムバペらは抵抗を訴えるが(6月17日、EURO初戦を戦った独デュッセルドルフで)  Photo by Andrzej Iwanczuk/NurPhoto

<ルペン率いる国民連合の大躍進に危機感を覚え、若年層に投票を呼びかける>

解散総選挙という危険な賭けに打って出たエマニュエル・マクロン仏大統領は思いがけない援軍を得た。サッカーのフランス代表チームだ。6月30日に行われる第1回投票では「極右」を勝たせるなと、スター選手が続々と若い有権者に訴えている。

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ドイツ各地で開催中のサッカー欧州選手権「ユーロ2024」の記者会見の場で、仏代表チームのフォワードで黒人の、マルクス・テュラムは、欧州議会選挙で圧勝した極右政党が国政選挙でも優勢になるのを防ぐため、「日々闘う」よう同胞に訴えた。

 

「今の状況は悲しいと思う」マリーヌ・ルペン率いる「国民連合」が勝つ可能性を聞かれて、テュラムはそう答えた。「これが僕らの社会の悲しい現実だ。投票に行くよう全ての人に呼びかけよう。国民連合が再び勝つことがないよう、みんなで日々闘う必要がある」

フランス代表チームのキャプテンを務め、世界トップクラスのサッカー選手と広く評価されているキリアン・エムバペ(25)も同調し、「極端な勢力」に対して抵抗の1票を投じてほしいと若者に訴えた。

代表チームは多様性のシンボル

「極端な勢力が権力の座を勝ち取ろうとしているのは誰の目にも明らかだ」と、エムバペは訴えた。「そして我々は、この国の未来を選ぼうとしている」

エムバペは特定の政治家を名指しはしなかったが、ルペン率いる国民連合はこの発言を聞き逃さず、サッカー選手が政治に口を出すのは筋違いだと、がなり立てた。

「フランス代表チームのジャージを着る栄誉を誇りに思うなら、少しは節度をわきまえ、態度でそれを示すがいい」と、国民連合のセバスチャン・シェヌー副議長は吐き捨てた。

だが、アメリ・ウデアカステラ仏スポーツ相は、エムバペを擁護して言った。「国の未来が掛かった、全く前例のない、この決定的に重要な局面で、彼は若い世代に呼びかけようとしたのだ」

サッカーのフランス代表チームはさまざまなルーツを持つ選手で構成され、以前からフランスの多様性を示すシンボル的存在だった。それに対して、極右は「フランスらしくない」と不満を露わにしてきた。

ユーロ2024の代表チームに選ばれた26人(監督も含む)には黒人選手も数人いるし、アラブ系のルーツを持つ選手もいることが気に入らないのだ。

「こうした多様性にフランスの輝かしい未来を見て取る人たちもいる。だが国民連合などの極右は、人口の多数派である白人が代表チームの多数を占めていないことにイラ立ちを募らせている」と、ニューヨーク大学のステファンヌ・ジェルソン教授(フランス研究・歴史)は本誌に語った。

マルクス・テュラムはイタリアの名門クラブ、インテルナツィオナーレ・ミラノの所属で、父親はフランス代表としてW杯優勝に貢献したこともあるリリアン・テュラムだ。現在52歳のリリアンはカリブ海の仏領グアドループ生まれで、マリーヌ・ルペンの父親で国民連合の生みの親でもあるジャンマリ・ルペンを批判し、人種差別と戦ってきた。

 

「テュラムの息子が真っ先に極右に対抗して声を上げたことは意義深い。多様性を擁護し、人種差別と暴力に抗議する政治的系譜がしっかり受け継がれた、ということだ」と、ジェルソンは言う。

6月16日には、元テニス選手のヤニック・ノア、ジョー=ウィルフリード・ツォンガ、アトランタ五輪で活躍した陸上選手のマリー=ジョゼ・ペレクら仏スポーツ界のスターたちが、スポーツ紙「レキップ」の論説ページで、極右の勝利を阻止するために1票を投じるよう有権者に呼びかけた。かつて名ストライカーとして知られたサッカー選手で、現在はフランスの五輪代表チームのコーチを務めるティエリー・アンリも「極端な勢力(の勝利)を防げ」と呼びかけた。

サッカー連盟は政治的発言を禁止

マクロン大統領はアスリートの声明について公式の場では発言を控えているが、スポーツ相は「アスリートたちも声を上げたがっているようだ」と述べ、歓迎の姿勢を示している。

影響力の大きいアスリートが重大な局面で声を上げたと、ジェルソンは言う。ルペン率いる国民連合の支持率が急伸する一方、マクロン率いる与党ルネサンス(再生)党の人気は低迷しているからだ。

「マクロンは苦境に追いやられている。与党は弱く、欧州議会選挙で大敗し、下院選挙でも劣勢が伝えられている」と、ジェルソンは指摘する。

テュラムとエムバペの発言を受けて、仏サッカー連盟はユーロ2024の出場選手に、次期選挙について公の場での発言を慎むよう警告した。フランスの有権者は6月30日に第一回目の投票を行うが、この日には奇しくもユーロ2024の決勝トーナメントの幕が切って落とされる予定だ。

【動画】極右に勝たせてはならないと訴えるエムバペとテュラム

 


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