6月19日、 プーチン大統領が24年ぶりに訪朝し、金正恩朝鮮労働党総書記との間で軍事連携を含む「包括的戦略パートナーシップ条約」に署名したことは、21世紀に入って爆発を伴う核実験を唯一実施した北朝鮮との関係強化に動くロシアの姿勢を浮き彫りにした。写真は同日、平壌で文書に署名し握手するプーチン大統領と金総書記。ロ大統領府提供(2024年 ロイター)
プーチン大統領が24年ぶりに訪朝し、金正恩朝鮮労働党総書記との間で軍事連携を含む「包括的戦略パートナーシップ条約」に署名したことは、21世紀に入って爆発を伴う核実験を唯一実施した北朝鮮との関係強化に動くロシアの姿勢を浮き彫りにした。
プーチン氏は、国連の北朝鮮制裁を20年近く支持してきた方針を捨て、北朝鮮にはっきりと肩入れする方針に転じた形だ。
ロシアの極東連邦大学のアルトヨム・ルーキン氏は、これは北東アジア地域の全体的な戦略的状況を劇的に変化させる可能性があると指摘。「ロシアが北朝鮮に安全保障を提供するのであれば、北朝鮮はロシアの東欧における主要同盟国であるベラルーシと似た立場になる。米国を中心とする北東アジアの同盟体制に対するあからさまな挑戦であり、当然ながら日本と韓国にとっても大きな問題になる」と解説した。
北朝鮮は中国と防衛条約を結んでいるが、過去1年でロシアと進めてきたような積極的な軍事協力を行っているわけではない。
中国は北朝鮮にとって最大の貿易相手国で、ロシアとの結びつきも強まるばかりとなっている。ただ中国は今のところ、国際関係にさらなる緊張をもたらしかねない北朝鮮、ロシアとの3カ国による協調の枠組みに踏み込むことは慎重に避けている。
<ウクライナ侵攻に起因>
ロシアが金総書記に、包括的戦略パートナーシップ条約に加えてリムジンや新たな宇宙船打ち上げ基地見学ツアーなどの贈り物までして接近を図っていることに、米国やアジアにおけるその同盟国は警戒感を強めている。
こうした国の情報機関は、ロシアがウクライナの戦場で使う弾薬を北朝鮮から調達する見返りに、どこまでミサイルや核関連技術を提供するのか見極めようとしているところだ。
キングス・カレッジ(ロンドン)のハモン・パチェコ・パルド教授(国際関係論)は「プーチン氏が24年ぶりに訪朝したのは、ロシアが北朝鮮から何を得られるかという話であり、これはウクライナの戦争に起因する」と話す。ロシアは最新技術こそ渡さないものの、北朝鮮のミサイル・核開発プログラム向けに一部の専門知識を提供するだろうとみる。
「対北朝鮮関係での大きな変化だと思う。ウクライナ侵攻がなければ、ロシアがそうした技術の共有をやむを得ないと感じることはなかっただろう」と、同教授は語る。
ロイターが取材した4人の外交官も、ロシアは北朝鮮との関係を深めるが、金総書記と共有する技術については極めて選別的になるとの見通しを示した。
ソウルに駐在する別の西側外交官は、ロシアと北朝鮮の接近ぶりを受け、欧州は日本および韓国とのつながり強化が焦眉の急となり、国際的な同盟の構図が一段と塗り変わるかもしれないと話した。
プーチン氏は19日、西側がウクライナを支援していることを理由に挙げて、ロシアは北朝鮮との「軍事技術協力を発展させる道を排除しない」と語った。
これについて米国防総省のライダー報道官は「ロシアと北朝鮮の協力が深まる事態は、特に朝鮮半島の平和と安定維持に関心を持つあらゆる向きにとって懸念すべきだ」とコメントした。
外交関係者の間では、プーチン氏の「北朝鮮シフト」は、北朝鮮に対する国際的な制裁の枠組みに重大な転機をもたらすとの見方も広がっている。
今年3月28日には、国連安全保障理事会で北朝鮮制裁委員会の専門家パネルの任期延長決議案がロシアの拒否権行使によって否決された。
その翌日にロシアは、主要国が北朝鮮への新たな対応方法を用いる必要があると訴え、米国とその同盟国がアジアで軍事的緊張を高めていると非難した。
スウェーデンの安全保障開発研究所のニクラス・スバンストロム所長は「北朝鮮とロシアの関係は武器や技術交換に焦点を当てた便宜的な連携として始まったが、今は決済システムや研究協力などさまざまな交流に広がりつつある。一定の深度を持っているようで、われわれはそれを過小評価してきた」と述べた。
<関係発展に限界も>
ただ専門家によると、ロシアと北朝鮮の関係発展には限界もある。
核弾頭保有数が世界最大のロシアは、特に近隣諸国に核兵器が大幅に拡散する事態は自国の利益に資すると考えていない。
またロシアは今年の弾薬生産量が、北大西洋条約機構(NATO)全加盟国の生産量を上回る予定なので、北朝鮮への依存も限られる。
ロシアは伝統的に北朝鮮と韓国の間である種のバランス外交を進めてきた面もあり、北朝鮮側に傾き過ぎればそうした政策路線が維持できなくなるとの声も聞かれる。
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